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ねごとが語る、新サウンドへの挑戦とこれから「いろんな意味で覚悟が決まってきてる」

2016年11月08日 15:31  リアルサウンド

リアルサウンド

ねごと(写真=外林健太)

 ねごとの一年半ぶりの新作『アシンメトリ e.p.』は、新たな旅の始まりを告げる一枚である。BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之、ROVOの益子樹という、共に宇宙規模のスケールを持ったバンドから音の職人2人をサウンドプロデューサーとして招き、昨年から取り組んでいるダンスミュージック路線を突き詰めた、明らかな新境地が高らかに鳴らされている。また、本作は彼女たちにとって覚悟の一枚でもあり、4人がそれぞれの覚悟を胸に抱きながら、未来へ向けて歩みを始めた作品だとも言えるだろう。果たして、この一年半の間には何が起きていたのか? 全員インタビューで、バンドの現在地を解き明かす。(金子厚武)


・「「ねごとが鳴らすかっこいい音楽」を突き詰めたい」(沙田瑞紀)


ーー『アシンメトリ e.p.』は約一年半ぶりの新作になります。3枚目のアルバム『VISION』の発表と、それに伴う初の全国ワンマンツアーを終えて、「次の作品は時間をかけてじっくり作ろう」と考えたのでしょうか?


沙田瑞紀(以下、沙田):「どのくらい期間を空けよう」みたいな設定はなかったんですけど、「次のモードは何だろう?」って考えていく中で、実際に曲を作ってみないと見えてこない部分がすごくあったので、とにかく曲をいっぱい書いて、みんなで練る作業をずっとしていました。結構『VISION』でやり切った感があって、「次どうしよう?」って感じだったんですけど、それは不安の「どうしよう?」ではなくて、「やれること広がっちゃったな」って感じだったんですよね。


ーー『VISION』を作っていろんな未来が開けたからこそ、先にリリースプランを立てるのではなく、まずは自由に創作をしてみたと。とはいえ、日本の音楽業界は動きが速いので、リリースの間隔を空けることに怖さもあったのではないでしょうか?


蒼山幸子(以下、蒼山):リリースはなかったですけど、ライブは欠かさずやってきて、去年は5周年記念の『ねごとフェス』があったし、今年の春は対バンツアーをやって、その中で今回のe.p.に入ってるようなダンサブルなモードを見せてもいたので、お客さんにはそこで「待っててね!」って言い続けてきたんです。


ーー『ねごとフェス』をやったのは大きかったですよね。あそこでお客さんとの信頼関係をひとつの形にしていたからこそ、じっくり創作と向き合えたのかなって。


藤咲佑(以下、藤咲):あの日はホントすさまじかったですね(笑)。5周年ってことで、今までの曲を全部振り返ったので、「この曲作ったとき大変だったな」とか、当時のことがフラッシュバックしてきたり。でも、あれをやり切ったから今があるというか、丸一日かけてひとつ形にできたから、もう怖いものはないなって、自信にもなりました。


沙田:あの日はねごとが5バンド出たじゃないですか? それぞれコンセプトを決めて、5回ライブをやったことによって、それぞれの手応えがあって、いろんな曲があることを再確認できたし、どれが今の自分たちに一番フィットしてるのかを発見できるライブにもなったので、すごく達成感がありました。


ーーあの日のライブが、今に至る方向性を決める手掛かりになっていた?


沙田:3バンド目のバンドとして出たねごとは、ねごとの中のダンスミュージックっぽい曲を固めて、全部つないで、MCなしでやり切るっていう実験的な感じだったんですけど、あれをやったときに結構フィット感があったというか、すごく堂々とライブをやれたんです。あれがヒントになって、そこから普段のライブでも曲をつなぐようになって、そうなると必然的にノリが4つ打ちになり、新曲もそういう方向になっていきました。


ーーダンスミュージック的な方向にどんどん向かって行ったと。


沙田:ただ、ダンスミュージックって言っても、いろんなダンスミュージックがあるわけじゃないですか? テクノ寄りだったり、ディスコ寄りだったり、ブレイクビーツだったり。いろんな方向に行くことができる中で、「じゃあ、どういうのをねごとでやったら一番かっこいいのか?」っていうのは、頭で考えるよりも、とにかく作って作って発見していくみたいな作業でした。


ーー今回の作品って、ある意味「再デビュー」くらいの作品だから、どんな方向性に行くかはすごく考えたと思うんですね。お客さんの中には「ロックなねごとが好き」っていう人もいるだろうし、その中で方向性を絞っていくのは覚悟の要る作業だったとも思います。


蒼山:一回みんなで「これからの方向性どうしよう?」っていうミーティングをしたときに、いろんなキーワードが出てくる中で、「かっこいい」っていうのがひとつの大きなテーマになったんです。「かわいい」とか「ポップ」じゃなくて、「かっこいいのを作りたい」ってなったときに、エレクトロな部分だったり、浮遊感だったり、ねごとがもともと持っていた部分をもっとわかりやすく提示するというか、そこに絞って新曲を作ってみるのもいいんじゃないかって。


沙田:ロックな曲だったり、スピード感があって、ポップでかわいい曲とかって、自分の中ではわりと作りやすいタイプなんですけど、バンドで4つ打ちでちゃんとグルーヴを出すって、すごい難しいことだと思うんですね。小夜子の手数の多いドラムも好きだから、「それを捨てるのか?」みたいなことも考えちゃうけど、でもそういうことではなくて、とにかく「ねごとが鳴らすかっこいい音楽」っていうのを突き詰めたいと思ったんです。


澤村小夜子(以下、澤村):これまでもライブでは同期と一緒に演奏したりはしてたんですけど、これからそういう曲がより増えていきそうだなって思ったので、個人的には「ライブの環境をどうして行こうかな?」って考える時間も多かったですね。レコーディングでもクリックに合わせてやったり、そういうバンドの変化をヒシヒシと感じながらライブをやってきたので、機械人間になる感じの一年でした(笑)。


・「「自分らしい歌」を考える機会がすごく増えた」(蒼山幸子)


ーーバンドがダンスミュージック寄りにシフトしていく中、新作の表題曲になっている「アシンメトリ」の原型はいつ頃できたのでしょうか?


蒼山:原型ができたのは去年の年末で、実は対バンツアーでもやってるんです。まだ中野さんに関わってもらう前で、そのときはデジタルロックみたいな、今とは全然違う感じだったんですけど、「この曲を誰かとやりたいね」って話はしてて。


――そんな中で、BOOM BOOM SATELLITESの中野さんの名前が挙がったと。中野さんとは去年幸子さんと瑞紀さんが対談をしていて、その中で「『カロン』のリズムはブンブンを参考にした」とかって話をされてましたね。


沙田:結構前から一緒にやりたい人として名前は挙がってたんですけど、その対談もひとつのきっかけになって、今回お願いしました。ブンブンはもともとエモーショナルなパフォーマンスが大好きだったし、中野さんと作業をさせていただくことで、いろんなことを吸収したいっていう気持ちもありました。


ーー音のプロフェッショナルであることはもちろん、「音楽との向き合い方」という意味でも、吸収することは多かったでしょうね。


沙田:最初に「僕を信じてください」って言われたのがすごく印象的でした。これまでお仕事させていただいた人の中には、そんな風におっしゃる方はいなかったので。でも、「そう言えるだけの人生を歩んできたんだな」って、その一言だけでわかったというか。


蒼山:中野さんはバンドのプロデュースをされることは初めてで、ブンブンが活動休止中っていうデリケートな時期でもあったので、最初はお互い手探りの部分もあったと思うんです。でも、中野さんは譲らないところは譲らないというか、「絶対これがいいと思う」っていう部分に関しては、曖昧な言い方をせず、すごく真っ直ぐな方だなって思いました。


ーー曲調に関しては、途中で言っていたデジロック路線から、まさにブンブンにも通じるトランシーでサイケデリックな路線に変化していますね。


沙田:先に音源をお渡ししたら、初めての顔合わせのときに、もうアレンジのアイデアを用意してくださってたんです。私たちは「よろしくお願いします」って言う日だと思ってたんですけど、スピーカーを持ってきてくれて、その場で「聴いてください」って。


ーーアレンジ自体に中野さんの色が濃く入ってるわけですね。


沙田:基本的な曲のコード感とかはもともとあったものをくみ取ってくれてるんですけど、最初の「僕を信じてください」っていう言葉を信じて、中野さんに委ねました。でも、完成した曲を演奏するのは自分たちだし、この曲をこの先につなげていかないといけないのは自分たちなので、「この曲を背負うんだ」って、覚悟しなきゃなって思いました。


ーーそれこそ「カロン」もそうだし、「ループ」もそうだけど、ねごとがもともと持ってる月まで行っちゃうような浮遊感を、さらに増幅させたような印象でした。


澤村:「ロケットを作ってくれた」って感じかも(笑)。


ーー途中でも言っていた「どうグルーヴを出すか」ということに関しては、シンセベースがひとつのポイントになってますね。


藤咲:最初の挨拶のときに、「この曲はシンベでやります」って言われて、そこで私はひとつ覚悟が必要だったというか、これからはエレキベースだけじゃなくて、シンセベースっていう新しい楽器で、新しいパフォーマンスも考えて行かなきゃと思いました。


ーー瑞紀さんとしても、バンドがダンスミュージック的な方向に行く中で、「シンベを使いたい」って思っていたわけですか?


沙田:シンベにはあえて手を出さないようにしてたんです。使った方がきっちり合うから、グルーヴが出るっていうのはわかってたんですけど、佑はエレキベーシストなので、手を出さないようにしてきて……なので、「あ、開いちゃった」って(笑)。


ーー中野さんによって、新しい扉が開かれてしまったと(笑)。幸子さんの歌や歌詞に関しても、改めて見つめ直す部分があったのではないかと思います。


蒼山:私は去年から弾き語りのライブをやるようになったのもあって、「自分らしい歌って何だろう?」って考える機会がすごく増えたんです。その中で、今まで歌詞は曲の中の人の気持ちになって書くことが多かったんですけど、今の自分がリアルに感じてることを、どこか一行でもいいから入れようって考えるようになって。中野さんも歌や歌詞をすごく大事にしてくれたので、これまでの歌詞では曖昧にしていた部分とか、聴き手に委ねてた余白の部分をなくして、今のリアルな感じを出したいと思いました。


ーー〈代わりはいないんだ〉や、ラストの〈もっと好きにさせて〉のような強い言葉が印象に残ります。


蒼山:「アシンメトリー」っていうテーマ自体は、わりといろんな風に取れるものだと思うから、そういう意味では幅があるテーマだと思ってて、恋愛の曲だと思うのか、仕事と自分のバランスだと考えるのか、そこは聴く人によって変わると思いつつも、「自分がどうなりたいのか」っていうことを書くときは、はっきり書きたいなって思いました。好きには必ず嫌いがついてくるというか、どんなときも絶対にふたつの感情があって、それも含めて自分だし、あなただしっていう、そういうことを書けたらいいなって。


ーー個人的には、バランスが悪くてもそのまま進んで行くんだっていう強い意志を感じました。なので、最後の〈もっと好きにさせて〉っていうフレーズは、「これから自分たちがやりたいことをやっていくんだ」っていう、ある種の宣言のようにも感じられて。


蒼山:なるほど! 〈もっと好きにさせて〉って、そういう取り方もあるのか。


澤村:中野さんもそこ好きだよね。


藤咲:「ここのワードがキュンと来るから、こういうワードを増やしてください」って、幸子にリクエストしてました。


ーー「ミュージシャンって職業は周りを気にせず、自由に好きにやっていいんだ」っていう姿勢は、ブンブンが初期から体現していたことでしたからね。もちろん、さっきの幸子さんの歌詞の話みたいに、その裏側には周りへの大きな愛情もくっついてたと思うけど。


沙田:中野さんは人間的にも素晴らしい方で、ブンブンや川島さんのことをすごく大事に思っていて、真剣に向き合ってきたんだなっていうのが、言動のひとつひとつからわかったし、その想いをヒシヒシと感じながらの作業だったので、本当にいい経験になりました。


・「一音一音の説得力を上げる」(澤村小夜子)


ーー「holy night」はROVOの益子さんのプロデュースで、「アシンメトリ」が音を重ねてサイケな空間を作り出しているのに対し、音数を減らして、一音一音の強さで立体感を生み出していますよね。タイプは違うけど、2人ともホントに音の職人だなと感じました。


澤村:もともと「音の説得力が欲しい」みたいな話をずっとしていて、その中でお二人の名前が挙がったので、おっしゃる通り、一音一音の説得力を上げて、それを吸収するために、2人にお願いした感じでした。


沙田:「holy night」は去年からプリプロをしていた曲なんですけど、最初は逆に「どうしたいの?」って聞かれたんです。「これはもうできてる曲だと思うけど、これ以上どうしたいの? 何が欲しいの?」って感じだったので、とにかく曲を丁寧に聴いて、「ここはこうした方がいいんじゃないか」ってなったら、アレンジを進めるっていう。


澤村:2サビの前のブレイクとか、益子さんとの作業の中で自然とできちゃった感じで、オーガニック成分がホントすごいんです。録音も中野さんのときはバラバラに録ってて、ドラムが最後だったりしたんですけど、益子さんのときは私と佑で一緒に録ってるし。


ーー真逆の制作だったんですね。曲自体はもともとどんなイメージだったんですか?


沙田:最初はすごく冬っぽいイメージだったので、タイトルも「holy night」なんですけど、途中からスケボーとかサーファーが似合うような、ストリート感のあるビートになっていって、むしろ「夏っぽいな」って思いつつ、結局そのまま「holy night」になりました(笑)。ねごとの中では結構新しいリズムだよね。


ーーこれまでのねごとには「ストリート感」ってイメージはなかったですもんね。途中でリードボーカルを取ってるのは瑞紀さん?


沙田:そうです。Dメロは一番最後にできた部分なんですけど、その瞬間から景色が変わるというか、歌詞の内容もちょっと変わるので、違う人が歌ってみるのも面白いんじゃないかなって。でも、すごい緊張しました(笑)。やっぱり、ボーカリストってすごいなって思ったんですけど、今後は他のメンバーが歌うパートを作るのもアリかなって思いました。


ーー結果的には、「一人じゃ生きていけない」って歌詞ともリンクしてるので、すごくいいなって思います。そして、残りの2曲、「天使か悪魔か」と「school out」に関してはセルフプロデュースですね。


沙田:「天使か悪魔か」の原型は普通のバンドサウンドで、歌謡っぽいメロディーで。「黄昏のラプソディ」みたいな、哀愁漂う感じだったんですけど、中野さんと益子さんと作業をした後に、「この曲入れたいけど、このままじゃダメだ」って思ったんです。ぶれてる作品を出すタイミングではないので、4曲のテンションを統一したくて、リズムから大至急構築し直して、「school out」も同じですね。やっぱり、2人との作業がすごく大きくて、4曲並べたときに、ちゃんと最初の2曲に太刀打ちできてないとダメだなって。結構短いタームだったんで、「ヤバい!」ってなりながらも、逆に時間がなかった分、深みにはまらずに済んだのかもしれない。なので、ぜひ4曲を通して聴いてほしいです。


・「乗れるサウンドをどんどん追求していってる」(藤咲佑)


ーーでは最後に、新たな始まりに際して、今後のねごとにどんな展望を持っているのか、一人一人話してもらえますか?


藤咲:実は次の作品の制作も結構佳境に入っているので、楽しみにしていてほしいと思います。このe.p.の流れで、乗れるサウンドをどんどん追求していってるので、今後のステージングの変化も含めて、楽しみにしていてほしいです。


沙田:最近いろんな新しいバンドの音源を聴く機会が多いんですけど、洋楽志向のバンドが増えてきてて、本格的な方たちがいっぱい出てきてるなって思うんですね。私たちはもう中堅ですけど……。


ーーデビューが早かったからね(笑)。


沙田:でも、自分たちの音源を聴いて思ったのが、自分たちのカラーをちゃんと持ててるなってことで、この自分たちにしか出せない音っていうのを、これからも突き詰めていくことが大事なんじゃないかと思ってます。


蒼山:いろんな意味で覚悟が決まってきてるというか、曖昧さがなくなって、どんどんはっきりした方向が見えてきてると思うので、その中で、自分は歌い手として、必要とされる歌を歌っていきたいとすごく思ってます。最近はヒッキー(宇多田ヒカル)のアルバムをずっと聴いてるんですけど、ああいうずっと聴き続けられる作品を自分たちも作るべきだなって思うので、それを自分の声で、自分の歌詞で、どう表現していくかを考えたいです。


ーー最後に、小夜子さんいかがですか?


澤村:スケールのでかいバンドになりたいです。「アシンメトリ」を作って、ライブでやるようになって、「もっと広いところで鳴らしたい」ってすごく思うようになったので、大きいところが似合うバンドになりたいですね。大きいところっていうとどこだろう……ドームとか?


藤咲:宇宙じゃない?(笑)


澤村:いつか月とかでやれるのかなあ(笑)。


ーーブンブンもROVOも宇宙みたいなバンドだし、その助力も借りつつ、いつかはぜひ月でライブをやってほしいです(笑)。(取材・文=金子厚武)