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Maison book girlが2ndワンマンで示した、アイドル・J-POPシーンにおける特異性

2016年11月07日 18:12  リアルサウンド

リアルサウンド

『Solitude HOTEL 2F』の様子(撮影=齋藤明)

 2016年11月6日に渋谷WWW Xで開催されたMaison book girlのセカンドワンマンライブ『Solitude HOTEL 2F』は、アイドルシーン、ひいてはJ-POPシーンにおけるMaison book girlの特異性を浮きあがらせるのに充分なものだった。それは音楽面においても、存在感においてもだ。


 コショージメグミ、矢川葵、井上唯、和田輪からなるMaison book girlは、2016年11月30日に<徳間ジャパンコミュニケーションズ>からシングル『river (cloudy irony)』でメジャー・デビューする。それを目前にした今回のワンマンライブは、キャパシティ約700人のWWW Xのチケットが即日ソールドアウトし、現在のMaison book girlの勢いを見せつけた。10月には『Next Music from Tokyo vol 9』に出演し、カナダ・ツアーも行ったばかりである。


 会場に入ると、「Maison book girl Solitude HOTEL 2F」という文字がスクリーンに映しだされ、そしておそらくはプロデューサーのサクライケンタの手による穏やかなインストゥルメンタルが流されていた。


 冒頭は「opening SE」。スティックを鳴らすような音にピアノなどが加わり、やがてストリングスも響く厚い音色になっていき、さらにドラムのキックが鳴りはじめた。スクリーンには、水に濃いインクを垂らしたかのような映像が流されている。


 そして、最後にドアが閉まる音が響くと、Maison book girlのメンバーがステージに登場。鳴りだしたのは、メジャー・デビュー・シングルに収録されている「cloudy irony」だ。アイドルのメジャー・デビュー・シングルのリード・ナンバーが7拍である事例は他に存在するのだろうか。しかも歌詞には<体を重ねる度に何かを失って>というフレーズまである。


 そして、「cloudy irony」でのMaison book girlのダンスは、「アイドルの振り付け」というよりコンテンポラリー・ダンスのようだ。それはまるで、現代音楽に影響されたサクライケンタによる楽曲に呼応しているかのようだった。


 音楽的に特異であるがゆえに、Maison book girlは2014年に活動を始めたとき、どこへ向かうのかはわからなかった。しかし、一般的な「アイドル」に何ひとつ迎合することもなく、この日のステージでは約2年の活動で結実したものを堂々と提示していた。「cloudy irony」を歌い踊るMaison book girlを見ながら感じていたのは、そんなことだった。
 
 「snow irony」では、矢川葵が可愛らしい声で「オイ! オイ!」と煽り、さらに<許さない><知らない>という歌詞に合わせてファンも叫ぶ。フロアではリフトも激しくなっていた。そうしたノリがあるということは、ファンもMaison book girlをポップスとしてごく自然に受容している証拠だ。


 「bath room」では、ファンから7拍のリズムでクラップが起きる。「リフトの位置が高いな……」と見ていると、そのままファンがクラウドサーフしていった。


 そんなフロアの光景とは対照的に、Maison book girlは淡々と儀式のようにステージを進行していく。いや、「淡々と」と言うのは語弊がある。そこには、フィジカルな熱を秘めながら踊る身体性が確実に存在しているからだ。


 そして、つい「儀式」と形容してしまうのは、メンバーがほとんど自身の感情を見せないからだ。Maison book girlは内面を封印する。その姿は、ロック系のアイドルたちが感情を露わにしているのと対照的だ。BiSに在籍していた時代のコショージメグミと、Maison book girlになってからのコショージメグミとでは、パフォーマーとしての姿がまるで違う。そうしたMaison book girlのスタイルこそが、シーンの中で彼女たちを唯一無二の存在にしている。


 「sin morning」から「film noir」へと続いたあたりでようやく気付いたのは、「ここまでMCがまったくない」ということだった。さらに、さらに、「film noir」から「remove」「last scene」「最後のような彼女の曲」「karma」「faithlessness」までは、トラックがノンストップで編集されていた。「last scene」では、フロアの最後部からでも井上唯が汗ばんできたのが見えた。フロアが暑いのだから、ステージはさらに暑いだろう。しかもノンストップのステージなのだ。


 Maison book girlは、サクライケンタによる表現のプラットホームであると考えることもできるだろう。しかし、背丈も髪型も髪色もバラバラな4人のメンバーの容姿や歌を通すことによって、より間口が広いものへと変換されていることも重要なポイントだ。そして、内面を封印されていても、そこからなお滲む感情が、Maison book girlの魅力を増幅している。「faithlessness」の<裏切られて 裏切られて 裏切るの>というシリアスな歌詞も、Maison book girlが歌うことで、甘いポップスへと変換されてしまうのだ。


 ノンストップだったトラックが止まったのは「SE」だった。メンバーが一旦ステージを去ると、蝉の鳴き声とピアノの音色が響きだす。「14days」は、ステージ上にメンバーが不在のままポエトリーリーディングが始まった。この「14days」も、「cloudy irony」や「karma」とともにメジャー・デビュー・シングルに収録されるのだ。スクリーンには野菜や果物、卵を包丁で切る映像が流され続ける。


 メンバーがステージに戻ってきたかと思うと、4人とも本を手にしていた。「empty」は、エレクトロニカなサウンドをバックにしたポエトリーリーディングだった。「君って本当に綺麗だ、まるで心がないみたい」。そんな一節といい、Maison book girlの言葉は、自分がこの世界に存在してしまうことへの悲しみに満ちている。


 「lost AGE」では、矢川葵も汗ばんでいるのが見えた。「lost AGE」から「bed」まで、フロアは熱気に包まれたままだ。本編のラストは「blue light」。そのメロディーは、聴く者に少し甘い感傷を残した。


 「以上、Maison book girlでした、ありがとうございました!」という最後の言葉が、本編で唯一のMCだった。


 アンコールのクラップは、「bath room」の7拍に対応したもの。しかも、普通ならアンコールのクラップはだんだん早くなりがちなものだが、ほぼ一定のBPMを維持していることに驚いた。


 Maison book girlはTシャツに着替えて再登場。この日初めてとなる普通のMCがようやく始まった。満員のフロアを眺めながら、メンバーは即日ソールドアウトについて感謝の言葉を述べた。


 そして、コショージメグミが「お知らせ大魔王から戦いを挑まれているので、魔法の言葉を一緒に言ってほしい」という主旨のことを言うので、指示された通りファンが「ポン!」と言いながら右手を広げたところ、スクリーンには告知が。2017年の初春にニュー・アルバム『image』がリリースされるという。


 アンコールは2度目の「cloudy irony」から始まった。そして、続く「my cut」ではリフトの嵐となり、フロアの混沌ぶりも鮮烈だった。それはMaison book girlという独自の道を行くアーティストだから生みだせる空間だった。


 こうしてニュー・アルバムの告知がされたものの、いや実はまだメジャー・デビュー・シングルすら発売されていないのだ。しかし、Maison book girlがアイドルシーンにとどまらず、広くJ-POPシーンでどのように受容されていくのか、さらに期待は高まった。Maison book girlが何かを「拡張」してくれるのではないか。そう感じさせるのに充分なライブが『Solitude HOTEL 2F』だったのだ。(取材・文=宗像明将)