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スガ シカオがたどり着いた、ひとつの集大成 『THE LAST』アンコールツアーをレポート

2016年11月07日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

撮影=中河原理英

 「こんな遅いビートでこんなに盛り上がれるライブは、たぶん日本で俺だけだぜ!」


 アンコールのラスト「イジメテミタイ」の冒頭で、スガ シカオはこう言った。確かにそうだった。僕はスマホにBPMカウンターのアプリを入れていてよくライブを観ながらテンポを測ってるのだけれど、この曲のBPMは98。通常のロックやポップスのライブだったらしっとりと歌を聴かせるバラードの曲で用いられるテンポである。が、「イジメテミタイ」はこってりと濃厚なファンク・チューン。そういう曲を「最後にとっておきのやつを!」と披露し、がっつりと熱狂を作る。そういうステージをこの規模とこのテンション、このクオリティで繰り広げるアーティストは、やっぱり彼しかいない。


 10月21日に東京・豊洲PITにて開催されたスガ シカオのライブツアー『SUGA SHIKAO LIVE TOUR 2016「THE LAST」~ENCORE~』のセミファイナル公演。それは、かねてから「50歳までに自身の集大成となるようなアルバムを完成させたい」と語ってきたスガ シカオが「ヤバくて気持ちいい、剥き出しのアルバム」としてそれを形にした『THE LAST』という作品、そして自身のキャリアを通して築いてきた彼自身のオリジナリティを見せつけるような一夜だった。


 ライブのスタートは「赤い実」から。大歓声に迎えられ、サポートメンバーの坂本竜太(B)、Duran(G/Made in Asia)、Fuyu(Dr)、pochi(Key)、Maya Hatch(Cho)と共にスガが登場する。Fuyuの叩き出すビートが強烈にパワフルだ。重みのあるキックと筋肉質でシャープなスネアが場を支配する。スガ シカオのステージはグルーヴがとても重要だから、バンマスの坂本竜太とFuyuの担う役割はとても大きい。


 前半で披露した「オバケエントツ」「ごめんねセンチメンタル」「真夜中の虹」「青春のホルマリン漬け」という『THE LAST』収録曲は、いわゆる王道ファンクの方程式に頼らず、エレクトロ以降の新しいグルーヴを模索した楽曲だ。そこだとFuyuのドラムが特に存在感を発揮する。特に「真夜中の虹」のつんのめるようなビート、「青春のホルマリン漬け」の絶妙なズレを内包したアンサンブルは、ライブでは音源とは違った気持ちよさを体感させてくれる。


 中盤では、来年にデビュー20周年を迎えることを記念しての「20周年感謝のワクワクメドレー」を披露。デビュー曲「ヒットチャートをかけぬけろ」から「ドキドキしちゃう」や「アシンメトリー」や「FUNKAHOLiC」や「見る前に跳べ.com」など、代表曲やレア曲を続け、メドレーの途中でFIRE HORNSが加わってさらにフロアを盛り上げる。


 後半は「アルバムの中から人気の高い曲を――」と「海賊と黒い海」からスタート。ネオソウルのふくよかなテイストを持つこの曲は、cero以降今に至るまで続くブラックミュージックを吸収した日本のポップスの流れに、スガ シカオが先達として一つの解答を示すようなナンバーだ。リリース時点ではリード曲としてプッシュされていたわけではなかったが、この曲が支持を集めていることに今の時代性とのリンクも感じる。


 弾き語りで披露した「ふたりのかげ」や、アルバムのオープニングを飾った「ふるえる手」など歌心を示す楽曲を挟みつつ、終盤はぐっとテンションを高めていく展開へ。特に「愛と幻想のレスポール」「あなたひとりだけ 幸せになることは 許されないのよ」「91時91分」のファンクチューン連発は濃厚だった。当意即妙のアンサンブル、FIRE HORNSも含めたメンバーのソロ回しも披露し、フロアの温度をどんどん上げていく。本編ラスト「Re:you」まで、クライマックスがずっと続くようなステージだった。


 アンコールでは「SMAPへの感謝とリスペクトをこめて」と「夜空ノムコウ」を披露。この曲が自分の人生を支えてきたこと、そしてSMAPが年内いっぱいで解散することにも触れ、感謝の思いを伝える。そして「午後のパレード」「イジメテミタイ」とお祭り騒ぎを作ってステージは終了した。


 おそらくスガ自身にとっても、今はデビュー以来自分が歩んできた道程を再び振り返るような時期になっているのだろう。『THE LAST』というアルバムを完成させたこと、そしてそれを経たアンコールツアーとしての今回のライブには、そういうことを感じさせるムードもあった。


 以前、スガはインタビューで、アルバム『PARADE』を出してデビュー10周年を迎えた時に、大きな達成感を得たと同時に「次に自分が向かうべき方向がわからなくなった」とも語っていた。だからこそ、メジャーレーベルも所属事務所も離れて、自分ひとりでインディペンデントな活動を繰り広げた2011年からの5年間もあった。そういう中でイメージし続けた「50歳までに最高傑作を作る」という目標は、同時に大きなプレッシャーでもあり続けたはずだ。今回のツアーを観ていると、その呪縛の「憑き物落とし」を果たしたんだなあ、と思える感慨もあった。デビュー10年の延長線上にあるレールではなく、大きく迂回した道を歩んできたからこそ、スガ シカオは現在地にたどり着いたわけなのである。


 来年5月6日には、VIVA LA ROCKとのコラボレーションによりさいたまスーパーアリーナにてデビュー20周年を記念した『スガフェス!』が開催される。多彩なアーティストが集う一日は、こちらも彼の集大成を見せる場所になりそうだ。(文=柴 那典)