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『SCOOP!』『何者』『溺れるナイフ』ーー話題作の陰にこの人あり 伊賀大介に訊く、日本映画の「衣装」の現在

2016年11月07日 13:41  リアルサウンド

リアルサウンド

伊賀大介

 今年に入ってから公開された作品だけでも、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』『世界から猫が消えたなら』『ふきげんな過去』、そして現在公開中の作品では『SCOOP!』『何者』『溺れるナイフ』と、いずれもまったく方向性は違うものの、2016年を代表する作品群の「衣装」を手がけている伊賀大介。2012年にアニメ作品『おおかみこどもの雨と雪』の「衣装」まで手がけた時には、さすがにちょっとした話題となったが、普段は裏方に徹していることもあって、近年目に見えて充実ぶりを示している日本映画界における「陰のキーマン」であり続けている。


参考:菅田将暉と重岡大毅、対照的な二人に揺れる小松菜奈が羨しい! 『溺れるナイフ』レビュー


 ファッション誌や広告のフィールドを中心に活躍してきた超売れっ子スタイリストの彼は、どのような経緯で映画に関わるようになったのか? そして、何が彼を決して「割のいい仕事」ではない映画の仕事に駆り立てているのか? 『SCOOP!』『何者』『溺れるナイフ』、それぞれの作品における「狙い」について訊きながら、「衣装=伊賀大介」の発想とその方法論に迫ってみた。(宇野維正)


■「登場人物をトータルでとらえる必要がある」


——伊賀さんが最初に「衣装」として関わった映画というと、どの作品になるんでしたっけ?


伊賀大介(以下、伊賀):『ジョゼと虎と魚たち』です。犬童一心監督の。


——というと、2003年が始まりだったんですね。そもそものきっかけは?


伊賀:当時はアスミック(・エース)が製作する邦画にすごく勢いがあって。今思えばプロデューサーの意向で、これまでとは違う血を邦画の世界に入れてみようということで、スチール撮影がカメラマンの佐内正史さん、音楽がくるりの岸田繁くんって感じで、その流れで衣装の話が俺のところにきた感じだったのかな? でも、時間も予算も全然なくって(笑)、もしそういう意図がちゃんと見えなかったら受けてなかったかもしれないですけど、やってみようかなって。映画を観ること自体は子供の頃から大好きだったんですけど、当時はまだファッション雑誌しかやってなかったから。


——そこからは、もう立て続けに映画の仕事を?


伊賀:最初の頃はポツポツって感じでしたね。次にやったのが宮藤官九郎さんの『真夜中の弥次さん喜多さん』(2005年)で、その次が蜷川実花さんの『さくらん』(2007年)。


——あぁ、最初の頃は全部アスミックの作品なんですね。


伊賀:そうなんです。で、宮藤さんとはその縁で、その後、宮藤節が炸裂する舞台もずっとやるようになって。映画でも、今年は『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』もやらせてもらいました。


——一言で「衣装」の仕事って言っても、スタイリングの仕事だけじゃなくて、作品によっては衣装をゼロから作ることもやらなきゃいけないわけじゃないですか。


伊賀:映画では服を選ぶのと作るの、半々くらいですね。


——宮藤さんとかまさにそうですけど、一度伊賀さんに頼んじゃうと、もう元に戻れないみたいな(笑)。ここにきて急に本数が増えてきたのは、同じ監督からまたオファーがあってっていうのも大きいですよね。


伊賀:あとは、やっぱりこれまでその監督がどういう映画を作ってきたのか。やっぱり映画好きとして、過去に自分が好きな作品を撮ってきた監督から声をかけていただいた時は、『是非!』ってことになりますね。


——伊賀さんの映画での仕事が日本にも過去に何人かいる名の立った「衣装」の方と異なるのは、そこで「伊賀スタイル」のようなものを見せつけるわけじゃないことで。映画好きとして、すごく作品に寄り添った仕事をされてますよね。


伊賀:ハリウッド映画とか、一部の韓国映画とか、『え? これスタイリストついてるの?』ってくらい自然なスタイリングをやってるじゃないですか。まずは、そこまでいかないと話にならないなって。


——「この人、なんでこんな服着てるんだろう?」って日本映画、少なくないですよね(笑)。


伊賀:(笑)。あと、日本映画界のシステムとして衣装部と装飾部(持道具)の分業体制っていうのがあるんですね。つまり、靴や鞄や財布や時計といったアクセサリー類は、本来は衣装部の仕事ではなくて装飾部の仕事っていう。


——靴のセレクトが別部門って、スタイリストの仕事としては考えられないですよね(笑)。


伊賀:もともとは時代劇のシステムなんですよね。着物と履物を別の部署が用意して、履物は刀と一緒に管理するみたいな。多分、その方が当時は効率が良かったんだと思うんですけど、そういう6、70年前から風習がいまだに残っているっていう。


——時代劇はそれでいいのかもしれないですけど、現代劇ではそれははっきりと弊害ですよね。


伊賀:もちろん衣装部と装飾部の最低限の連携はあるんですけど、登場人物をトータルでとらえる必要があると思うんですよね。例えば、映画の中で登場人物がマノロ・ブラニクの靴を履いている意味と、3年くらい履き倒したファッションセンターしまむら的な靴を履いている意味、それぞれ明確にあるわけじゃないですか。そういうニュアンスを表現するには自分で全部やるしかなくて。その人物の足元を映しただけで、一発でわかる何かっていうのがあるじゃないですか。同じビーサンを写すのでも、ただ新品のビーサンを用意するのと、使い古したビーサンを用意して爪先をちょっと汚すだけでも、全然映画の表現として違ってくる。


——そうですよね。


伊賀:あと、例えば今ってカバンよりも、むしろスマホをどんなケースに入れているかに、そのキャラクターの特徴が出ていたりするじゃないですか。そういうところにも、できるだけ気を配りたいなって。だから、美術部ともなるべくちゃんと連携をとるようにしていて。登場人物の部屋のセット、特に出衣装とかーー。


——「出衣装」?


伊賀:クローゼットとか壁とかにかかっている服のことです。そこでただ服を用意するだけじゃなくて、ちゃんとその登場人物が普段から着てそうな服がそこにかかっているかどうか。そういうところまでちゃんと目を行き届かせることって、映画にとって効いてくると思うんですよね。


——そのあたり、大根仁監督の作品はいつもとても周到ですよね。


伊賀:そうですね。初めてご一緒した映画『モテキ』の時も、みんなでポスターやレコードといった私物を持ち寄ったりして。『恋の渦』の時は、それにその登場人物を演じている役者さんの私物も混ざり合って、自分の想像も超えるリアリティが生まれていましたけど(笑)。大根さんとは、『モテキ』のドラマの時から話をもらっていたんですけど、その時はどうしてもスケジュールの都合で参加できなくて。結局、自分の元アシスタントの女の子がやったんですけど、登場人物が昔のゆらゆら帝国のTシャツを着てるんですけど、そこに折り皺みたいなのがあったんですよ。


——あぁ、新品おろしたてみたいな?


伊賀:そう。『ありえないだろう!自分がやればよかった!』って。いや、その娘もちゃんといい仕事してたんですけどね(笑)。


■「“一人だけ時代が止まってる”感を出したかった」


——大根監督作品には、その後、映画『モテキ』から、来年公開予定の映画『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』まで続けて参加されていますが、公開中の『SCOOP!』ではどんなポイントに気をつかいましたか?


伊賀:あの作品では、福山雅治さん演じる主人公の“一人だけ時代が止まってる”感を出したかったんです。だから、できるだけワンポーズで通そうと。


——アロハに革ジャン。


伊賀:あれ、シャツは4枚、パンツも2本用意したんですけど、同じ服しか着てないように見せているんですよ。


——その小汚さも含めて、ああいう人が現代の社会にいるとしたら、きっといつも同じ格好をしてるだろうと。


伊賀:そうそう。その対比として二階堂ふみちゃんは着せ替え人形みたいバシバシ服を替えていこうと。


——なるほど。


伊賀:(二階堂)ふみちゃんと、一回原宿に一緒に買い物に行ったんですよ。『こういうリュックとかどう?』とか、いろいろ相談しながら。


——それって、つまり二階堂さんの趣味を反映させるってわけじゃなくて、役者さんと登場人物の着る服を一緒になって考えるってことですよね。


伊賀:そうです。あの役は、あまり洗練されすぎてちゃダメな役で。台本にも『あのきゃりーぱみゅぱみゅみたいなヤツ』ってセリフがあったので。


——あったあった(笑)。


伊賀:しかも、『ぱみゅぱみゅ』っておじさんだから言えないっていう(笑)。その感じも含めて、おじさんが遠目から見た感じの“きゃりー感”を出そうと思ったんです。


——先ほどの衣装部と装飾部の分業でいうと装飾の範囲に入る、カバンや財布やスマホにも伊賀さんの意見が反映されているんですよね?


伊賀:個人的に一番こだわったのは、福山雅治さん演じる主人公の財布で。どういう財布をつかっているかだけじゃなくて、劇中でその中身がチラッと見えた時に、風俗店の会員証がいっぱい入っててほしかったんですよ。


——入ってた入ってた(笑)。


伊賀:当然、ライターは使い捨てライターで。そこに、ラブホテルのロゴが入ってるやつにしてくださいとか。そういうのって、画面に反映されないことも多いんですけど、役者さんが小道具として財布を持たされて、そこにちゃんと役柄の名前が入った免許証と風俗店の会員証が入ってたら嬉しいじゃないですか(笑)。黒澤明イズムじゃないですけど、そういうところからちゃんとやっていきたいなって。


——観客の立場としても、作品にどっぷりと没入する上で、そういうのってすごく重要だと思います。


伊賀:そういう小さなディテールがリアルだと、映画としての大きな嘘もつきやすくなると思うんですよね。


——それ、本当に大事です。


伊賀:あと、今回『SCOOP!』で嬉しかったのは、福山さんが作品の宣伝の時に、劇中の服をよく着てくれていたことで。撮影中も、よくそのままの服で飲みに行っていて、その時はバレなかったらしいんですけど、作品の宣伝が始まってからはバレるようになったって(笑)。でも、実際にそういうアプローチって衣装の立場としてもすごく助かるんですよ。デニムとか、やっぱり撮影の間だけ履いているのと、それを普段も着てるのとでは、馴染み方が違うじゃないですか。『SCOOP!』に関しては、それがすごく効いていたと思いますね。


■「『何者』は、“あえてダサい”ものを狙ったパターン」


——続いて、公開が『SCOOP!』の翌週となった『何者』。これも伊賀さんが衣装を担当した作品でした。


伊賀:映画での自分の仕事にはいくつかパターンがあって、これは“あえてダサい”ものを狙ったパターンですね。生々しすぎて、気持ち悪いというか。三浦大輔監督とはこれが初めてだったんですけど、ずっとポツドール(三浦大輔が主宰する劇団)の舞台は大好きで見ていて。三浦さんがやるんだったら、こういうことだろうなって。観客に『あなたの話ですよ』って突きつけるあの感じを、衣装でも表現したいと思って。


——一般的な日本映画の青春モノや恋愛モノと比べるとその違いが歴然としていますが、大学生の登場人物たちの衣装のこなれ感がハンパなかったです。


伊賀:『何者』では、BOOK OFFの古着がいっぱい置いてあるようなところに行って、大学生が着古したような感じの服を集めて、それぞれのキャラクターに合わせて着てもらったんです。佐藤健くんとか、もちろん普段はかっこよくて、私服とか本当に洒落てるんですけど、『バクマン。』で一緒にやった時からそうでしたけど、役作りのアプローチを自然にやってくれる方で。『バクマン。』の時は『この役、童貞に見えないとマズイから』って、ルミネの6階、トータル18.000円みたいな服を着てもらって(笑)。今回もそれの延長線上だったんですけど、佐藤健くんから、原作の朝井リョウさんがよくフレッドペリーのポロシャツを着てるという話を聞き付けて。


——あ、知ってます。そうか、そこからなんだ。


伊賀:佐藤健くんの演じる主人公の服装として、『それ、いい!』と思って。一つのブランドに執着するのって、一見小綺麗に見えるけど、逆にダサいじゃないですか。


——朝井さんの立場がないけど(笑)、そうですね。


伊賀:いや、朝井さんのことではまったくないんですけど(笑)。お馴染みの店員さんがいて、その人がすすめるものばかり買ってるみたいな。そういう人ってよくいるけど、その受動的な態度って全然オシャレじゃないと思うんですよ。それってすごく、『何者』の主人公っぽいんじゃないかと思って、佐藤健くんには基本フレッドペリーのポロシャツを着てもらって。そこも、数年前、まだ演劇を真剣にやってる時は、本当に服に興味を割く時間なんてないみたいな感じで、学内でもジャージとかを着てるんですよ。でも、就職活動をするようになると、普段はフレッドペリーのポロシャツの象徴されるような、誰からもナメられないし小綺麗なんだけど、実はすごく安易な格好を、まるで自分を守る鎧のように着るようになる。そこに、何かを一つに決めちゃってる人のおもしろくなさが出るといいなって。


——なるほど。すごくわかります(笑)。


伊賀:その対比として菅田将暉くんの役は、まったく空気を読まないバンドマンみたいな自由な感じの服にして。ただバンドをやってるだけじゃなくて、家着ではフットサルのジャージとかを着てもらって、『あ、そっちでの友達関係もあるんだな』って観客に思ってもらいたかったんです。音楽もスポーツも、ナチュラルになんでもできるやつっているじゃないですか。小学校の頃に一番モテたやつみたいな、そういうイメージですね。


——『SCOOP!』に続いて『何者』にも二階堂ふみさんが出てますが、今回は?


伊賀:前にスペインに行った時に思ったんですけど、あっちの女の子って、20歳くらいなのにやたら大人っぽくて身体のラインが出る服をよく着てるんですよ。だから、そういう方向のファストファッションにしようかなって。


——ZARA的な感じですね(笑)。


伊賀:そうそう(笑)。ちょっと胸元が見ていたり。あと、ハリウッドセレブの私服みたいなイメージのTシャツ地のロングスカートとか(笑)。自分に自信がある感じ。


——おもしろい(笑)。有村架純さんの役は?


伊賀:有村さんが一番難しかったですね。有村さんって、ご本人にもあまりオシャレすぎる格好はしてほしくないっていうこちらの勝手なイメージがあるじゃないですか。


——はい(笑)。


伊賀:でも、ディズニーランドとかに行くと、有村さんに代表されるようなイメージの女の子の格好が、圧倒的なマジョリティだってことを痛感するんですよ。市川のイオンで買った服みたいな。もちろん有村さん自身がそうだってわけじゃないんですけど、『何者』の中では、そういう市川のイオン的な服を着てもらって。とにかく単品が安い、『化繊!』って感じの。お金はかかってないんだけど、実はそれが一番モテるって感じの。


——ルミネの6階とか市川のイオンとか、すごくイメージが具体的ですよね。普通、僕ら男が女の子のファッションの話をする時、CanCamっぽいとか、ViViっぽとか、特定のファッション誌のイメージで話したりするじゃないですか。でも、伊賀さんの発想はそういうのとは違うんですね。


伊賀:ファッション誌の世界って、今すごくクロスオーバーしてるんですよ。モデルの子が自分でInstagramやブログで私服を公開するようになってから、雑誌のモデルとしてのパブリックなイメージと、個人で発信しているイメージが、結構違ったりして。昔みたいに、CanCam=エビちゃんみたいな記号としての共有がしにくくなってるんですよね。


——なるほどねぇ。


伊賀:あと、今回の有村さんの役だと、絶対に生肌を見せないという。足は絶対にタイツとか。


——あぁ、そこにも二階堂さんの役との対比があるんですね。


伊賀:そうですね。そういう対比はいつも気にします。


■「自分ができる範囲だけでも、できるだけちゃんとしたい」


——『何者』ではリクルートスーツ、そしてこちらも現在公開中の『溺れるナイフ』では学校の制服と、そうした制服的な服のチョイスというのも難しそうですね。


伊賀:もちろん作品によりますけど、そこでもできるだけリアルなものにすることが多いですね。これは山戸監督に聞いた話なんですけど、関西の方がセーラー服の襟元の先が深いんですよ。『溺れるナイフ』で、小松菜奈ちゃんの役は東京から和歌山の学校に転校しますけど、東京の学校ではお洒落な感じのブレザーを着てて、和歌山に行くと、その襟元の深い、野暮ったいセーラー服になる。丈も長くて、それを短くするような気合いもない、諦めの中で生きていくという(笑)。それでも輝いちゃうところが、彼女のすごいところなんですけど。


——(笑)。


伊賀:映画で主要人物をやる役者って、基本的に美男美女だから、どうしても綺麗に映るようにしたくなるじゃないですか。そこをどれだけ抑えて、ダサくするかっていうのが重要だと思うんですよ。『溺れるナイフ』の場合、菅田将暉くんの役は、金髪だし、もう神に近いようなファンタジー的な存在なんで、『これは何着せてもええわ』って感じだったんですけど、他の役に関しては田舎の子の感じっていうのはちゃんと出さなきゃいけないと思って。田舎に引っ越してからの小松菜奈ちゃんの役の部屋着の気の抜けた感じだとか、重岡大毅くんの役の服はダサいけど中身に惚れちゃう感じとか。やっぱり、都会のダサさと田舎のダサさってまた違うんですよね。特に男の子の場合、田舎の子って本当にボンクラっぽい格好してるじゃないですか。同じ年で比べると、明らかに女の子の方が大人っぽく見える感じ。自分が衣装を担当した作品ではないですけど、『海街diary』の広瀬すずちゃんの役と、ボーイフレンドのサッカー部の男の子みたいな。


——はいはい。「えっ? この二人同級生なの?」みたいな(笑)。


伊賀:でも、あの感じって、すごくその通りだなって思って。今回の小松菜奈ちゃんと重岡大毅くんのギャップも、あの感じにちょっと近いかもしれませんね。


——今日は自分から頼んでこうして話してもらいましたが、伊賀さんの映画での仕事って、もちろん気づいている人は気づいているわけですが、あまり表立って名前が出ているわけではないし、伊賀さんも自分からそんなに語ったりしないじゃないですか。


伊賀:そうですね(笑)。


——それは、裏方の美学的な?


伊賀:それもあるし、自分から言うより、後から気づいてもらったほうが、単純におもしろいなって。


——それと、伊賀さんって本当にたくさん映画を観てますよね。映画に関わる仕事をする人がそうであるのは当たり前だとは思うんですけど、その当たり前のことが当たり前じゃなかったりするのが日本の映画界だから。やっぱり、伊賀さんが関わってる作品は全然違いますよね。


伊賀:もちろん他の人の仕事を見て刺激を受けたり感心したりすることもありますけど、そうですね……。だって、日本映画の予算が少ないこととか、お客さんには一切関係ないわけですからね。映画館では『スカイフォール』や『シビル・ウォー』と同じ入場料をとってるわけだから。映画好きとしては、そこで自分ができる範囲だけでも、できるだけちゃんとしたいという気持ちはあります。あと、映画の仕事が雑誌とかと違うのは、どんな作品でも、作品として間違いなく死ぬまで残るってことで。そこで下手なことはできないなって。


——いつか誰かが、映画での伊賀さんの仕事をちゃんとまとめるべきだと思います。


伊賀:まぁ、いつも出たとこ勝負ですけどね。『時代劇はやってないから、いつかやってみたい』とか、そういう自分のフィルモグラフィー的なことは全然考えてないです。あと、これは綺麗事みたいに聞こえるかもしれませんけど、日本映画のギャラが安いのはもう諦めているので(笑)、せめて必要経費として衣装代をもうちょっとつかえるようになったらいいなという気持ちはあります。それが唯一の悩みであり、切実な願いですね(笑)。(宇野維正)