大河ドラマ「真田丸」(NHK総合)が、いよいよクライマックスを迎えている。6日放送分では、とうとうタイトルにある大坂城の出城、真田丸が完成した。大阪の陣を目前に控えて、大坂城を包囲する徳川の軍勢と、真田信繁(幸村)ら著名な牢人5人衆との戦いが目前に迫っている。
僕はこのドラマを、初回から視聴し続けているが、まさに予想を上回る出来に舌を巻いている。そんな中、戦の準備を進める豊臣軍について、SNS上では、現代社会でよく見受けられる構図と酷似しているという指摘がある。豊臣方の家臣団を正社員と見て、牢人衆を派遣、非正規の人員と考えると、意外とあるあるな図式になっているというのだ。(文:松本ミゾレ)
非正規の牢人集団が考えた策を「牢人は信用できない」と却下する豊臣家臣団
史実では、主人公の真田信繁ら牢人衆は、奮戦むなしく敗れ去り、大坂城は陥落。その後徳川による太平の世が訪れることになる。諸説あるが、豊臣の敗因は家臣たちの傲慢、そして不手際に次ぐ不手際にある。豊臣政権末期の有力な家臣たちは、ことごとく読みが甘かった。
「真田丸」でもこうした点がよく描かれている。大坂城から打って出て家康の首を狙う策を信繁が提案すれば豊臣中枢に近い大蔵卿や織田有楽斎などの権力者はこれを突っぱね、かたくなに籠城を推す。ならばと出城を築き、各所を牢人衆が守ろうとすれば、「牢人は所詮金目当ての連中。裏切る可能性があるから要所は任せられない」などとこれもまた突っぱねる。
しまいには牢人衆も、「やってられるか」とモチベーションがダダ下がり。誰がどう見ても、人手不足で派遣や非正規を雇っておきながら、権限を与えずに使い潰すことばかりを考えるブラック企業の姿勢そのままなのだ。
豊臣のブラックすぎるやり方に「昔勤めていた会社みたい」という声も
社員だけでは到底回らなくなって焦げ付いた職場に、急遽人員を投入しておきながらも、そのような状態を引き起こした張本人がいつまでも手綱を握ろうとして譲らない。「真田丸」で描かれる豊臣の人々というのは、まさにこういうダメな職場の上層部そのものだ。
ツイッターでも「信繁さんは火を吹きまくっているプロジェクトに投入された派遣の人にしかおもえねぇ」といった声が出ていた。いくつか紹介したい。
「真田丸の浪人を信じないって話。社員はいいけど契約と派遣は信じないっていう昔勤めた会社みたいな話やな…そうやってブラックと化していくという」
「非正規ばっかり仕事させられてプロパーが全然仕事しないどころか妨害しかしないブラック企業、豊臣大坂城」
「真田丸で『浪人は信用ならない』といってる度にこれよく巷で聞く経営者や管理職が『だから派遣パートは信用できない。正社員じゃないとダメだ』と言ってるやつでは…と勘ぐってしまう。同じ仕事をしているのにこういう事を考えている人いるよね」
「社員じゃなにも出来なくて派遣に頼らざるを得ないのに、派遣に権限を与えたくなくて骨抜きの策にしてしまう沈没間際の中堅企業感」
かつて栄華を誇った豊臣家の人々は、殊更に余所者に対しては壁を作って接している。一方で敵方の徳川は、豊臣を放逐された者たちを家臣として重用し、人を活かす道を歩み、強大な勢力を築いてきた。
その差がまさしく出たのが、大阪の陣ということになる。大坂城の最期は余りに悲惨だが、結局のところブラック企業の豊臣がホワイト企業の徳川に敗れた戦い、ということになる。
歴史は勝者ばかりに学ぶのではなく、敗者からも学んだ方がいい
今、非正規の人材を軽く見ている企業は多い。しかし彼らも立派な労働力だ。派遣を招き入れている時点で、その職場は言ってみれば、本来確保しておくべき人員の余裕が欠けているということでもある。
そんな職場が、末端の非正規の力を削ぐような使い方ばかりしていると、いずれ会社そのものが倒れることになる。どんな強大な城や企業も、一旦瓦解しだすと止まらない。企業の寿命を少しでも長くしたいというのであれば、勝った者にばかり学ぶのではなく、敗れた者たちの姿を直視すべきではないだろうか。