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「囚われのパルマ」キャラデザ実田千聖に迫る 厚塗りに隠された苦労とは

2016年11月06日 18:52  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「囚われのパルマ」キャラデザ実田千聖に迫る 厚塗りに隠された苦労とは
カプコンより好評配信中のスマホアプリ『囚われのパルマ』。少女漫画風のビジュアルが並ぶ乙女ゲームの中で、リアル系厚塗りの本作はひときわ異彩を放っています。本作のキャラクターデザインを手がけるのはカプコンのグラフィッカー、実田千聖さん。実田さんは同社発売の『エクストルーパーズ』やTVアニメ『マクロスΔ』のキャラクター原案なども手がけており、その作風の広さに驚かされます。


そこで本稿では今最も注目のクリエイター・実田千聖さんにインタビューを敢行!『囚われのパルマ』制作秘話を中心に、キャラクターデザインのノウハウ、カプコン入社から現在までのお話など、人柄やクリエイティブな部分、そしてグラフィッカーの仕事について語っていただきました。

■実田千聖(@mitachisato)

カプコンのグラフィッカー。代表作はiOS/Android『囚われのパルマ』(キャラクターデザイン、スチル、背景画担当)、PS3/3DS『エクストルーパーズ』(キャラクターデザイン、背景、UIデザイン担当)。TVアニメ『マクロスΔ』のキャラクター原案も手掛けており、今注目のクリエイター。

企画・編集:栗本浩大(@koudai5511)
聞き手・文:みかめ ゆきよみ(@mikameyukiyomi)

◆カプコン流の乙女ゲーム『囚われのパルマ』
 
――『囚われのパルマ』のプロジェクトにはどのような経緯で参加されたのでしょうか?

実田:この企画が立ち上がってすぐ、プロジェクトに参加していたスタッフから、『エクストルーパーズ』からの縁で声をかけていただいてからです。

――『エクストルーパーズ』とは180度デザインの方向性が違いますが、『囚われのパルマ』のデザインはどのように決まっていったのでしょうか?

実田:デザインの方向については、私がチームに入った時から今の「リアル系の厚塗りでいくべきだな」と決めていました。カプコンは乙女ゲームの実績が10年前にプレイステーション2 向けに発売した『フルハウスキス』シリーズだけで、それ以降発売していません。お客様から見ても「乙女ゲームを出しているメーカー」というイメージはほぼないと思うので、他社と同じことをやったら埋もれてしまう。だから「他の女性向け作品と比べて目立たなければ!」という課題がありました。

そこでカプコンのグラフィッカーの特徴を振り返ったところ、人体デッサンがしっかりしてたり、色を塗り重ねて描く人が多いよねという話になって、この系統だったら沢山ある乙女ゲームの中で埋もれないのではないかということで、リアル系厚塗りでいくことが決まりました。

――『囚われのパルマ』は男性ユーザーも多いと聞きました。リアル系の絵柄だから男性ユーザーでも抵抗なくプレイできるのかなと思ったのですが、狙いとしてあったのでしょうか?

実田:男性にもプレイいただき嬉しいです。乙女ゲームの雑誌をパラパラとめくった時に「異質」に見えるように、という狙いは当初からチーム目標にありました。「カプコン流の乙女ゲーム」という部分が、男性にも受け入れられている理由ではないかと思います。

――キャラクターデザインについて、さらに詳しくお聞かせください。

実田:キャラクターのデザインについては、チームメンバーがくれる意見の最大公約数というか、尖りのない、丸い感じとかを大切にしています。男性向け作品のキャラクターは分かりやすく魅力的なアイコンをどこかに付けるようにしているんですが、逆に女性向けでは削って丸めて、平均的に見えるように気を付けています。


――確かにグッズ展開にしても、女性向けのものはさりげないデザインが求められる傾向がありますね。

実田:そうなんです。チームメンバーの女性たちはカプコンに入るくらいですから尖ったものが好きなのですが、お客様はそうではない。今までの自分たちがやってきた尖ったデザインを「さあ受け入れてくれ!」と言うのではなく、まず「嫌われないように」という方向で意見をまとめ、キャラクターに落としこんでいきました。

――アオイやサブキャラクターについても、その辺を意識したデザインになっているということでしょうか。

実田:そうですね。簡単に言うと、「髪とか肩とか尖っていない」みたいな(笑)。『囚われのパルマ』は1対1のバストアップでの会話劇が軸にあるので、胸から上にかけての情報が大切になってきます。どのキャラクターも、髪の毛や鎖骨から上の設計に気を遣っています。

――実田さんのTwitterにアップされていたハルトの設計図が「黄金比だ!」と話題になっていたようですが、この辺は意識されていたのでしょうか。

実田:アンドリュー・ルーミスというイラストレーターのイラストレーション参考書が好きで参考にしています。目と目の間は目一つ分の比率だよ、とか、そういうノウハウが詰まっていて。それを参考にしながら、主要パーツから他の部分の比率を導いて描いています。ものが美しく見える比率を守って描いた結果、黄金比っぽく見えたのかなと思います。


――サブキャラクターも個性的で本作の魅力を引き立てていると思うのですが、デザインはどのようにできあがっていったのでしょうか。

実田:実はNPCは一切登場しないつもりでいたんです。ところが、プレイヤーさんが島内を散策して話題を拾うという仕組みは当初からあって、作っていくうちに「独り言だけでは持たないな」となりまして(笑)。

――NPCだけシルエットにすると浮いてしまいそうですしね……。

実田:シルエットだけで表現する案もありました。影でもいいから、ある程度見分けがつくように描けば…という話にもなったのですが、プレイヤーが話題を拾うにはNPCにも個性がないと伝わらないだろうと。おかげで仕事がものすごく増えました(笑)。


――他にも制作裏話や苦労話などありましたらぜひ!

実田:この絵柄が必要であることはプロジェクトが始まった頃からわかっていたことですが、これは長い間このような厚塗りタッチに慣れ親しんだ方でないと実現できない絵柄でして、当時の私では描けないものでした。なので、長い期間試行錯誤を繰り返していたんですが、『パルマ』チームは常に走っていたわけではなくて、私自身も合間に『マクロスΔ』のキャラクター原案をやったり、『大逆転裁判』の背景をやっていたので、この絵に落とし込む画力を身に付けるのに苦労しましたね。

――別の仕事と並行しつつの作業、絵柄を切り替えるのは大変だったのではないでしょうか。

実田:それはもう、現在進行形で苦労しています(笑)!


――デザイン画から3Dに落とし込む際に様々な苦労があったと思います。

実田:平面から3Dへの作業は比率通りに落とし込めばいいと思われがちですが、実は大変な技術が必要です。個人的にあこがれている『バイオハザード』や『大逆転裁判』等で3Dモデルを作っている先輩がおりまして、この方に『パルマ』の3D変換を実現してほしいと思っていました。

――3D化にあたり、デザインの段階の制限などはあったのでしょうか。

実田:制限といいますか、3Dを作り慣れている先輩から「この絵のまま3Dにすると立体の辻褄があわない」と言われました。先輩いわく、多くのキャラクターデザイン画は横顔に比べ正面の顔は顎が引いているそうです。正面はかっこよく見せるためにやや上目遣いになっているんですね。でも横を向かせると顎をすっと伸ばした状態になっているので、「破たんしている」って(笑)。

――言われてみれば…!

実田:ほとんどのデザイナーはその癖で描いていると言われたのです。なので3Dにする場合、正面と横顔どちらを優先する?という話になりました。『パルマ』は5面図を用意したのですが、正面顔がいちばん美しく見えるようにお願いしました。本作は面会で正面で向き合うシーンが多くなるので、プレイヤーさんが一番見る機会の多い真正面顔の比率が整うようになっています。

◆「アオイ編」はハルトを踏まえて自由に!

――現在エピソード配信中の「アオイ編」について、魅力などを教えてください。

実田:ハルトは『囚われのパルマ』で初めてお客さんが触れるキャラクターなので、尖りがなくて柔らかい記号で作られていますが、アオイは二人目ということで、ある程度二次元的な記号も盛り込まれています。

――確かにハルトとアオイを並べると、アオイの方が二次元キャラクターっぽさがありますね。

実田:やや二次元に近く、より自分の理解できる方向というか(笑)。ハルトは先ほどお話したようなテーマで描いたので、個人的には物足りなさを感じてしまうんです。なにせカプコンに入社するくらい尖ったものが好きなので!なので、私みたいに「ちょっと尖ったところも欲しいな~」という方にオススメします!

――ハルトがあるからこその、アオイ編ということですね。

実田::ハルトはチームの総評でもあり、タイトルの象徴でもあるので、緩やかな心の動きや繊細なやり取りのグラデーションなど大事に大事に作りました。そんなハルトがいるからこそ、アオイは見た目を多少自由にすることができたと思います。

 
――アオイのここを見て!というところはありますか?

実田:アオイは見た目が尖っていて分かりやすい分、内面の設計が深いというか、心の壁が分厚いという設定になっています。外見と内面のギャップを楽しんでいただけたらなと。例えば、考えごとをしているシーンではピアスを触らせたり、目を泳がせる動きも含めて細かくモーション担当者が設計しているんです。仕草から本人の心の弱さみたいなところを見ていただけたら嬉しいです。個人的にはメモリアル面会のテレ顔が…!!あとは是非アプリでお楽しみください!

◆カプコンの自由な社風に惹かれ
――ここからは実田さんご自身に迫りたいと思います。カプコンへ入社した経緯や入社後の話などをお聞かせください。

実田:ユーザーとしてカプコンのゲームに触れていた頃、『ストリートファイター』や『バイオハザード』や『私立ジャスティス学園』などがリリースされていて、この会社に入ったら面白いものを作らせてもらえるんじゃないかなというのがありました。その当時カプコンにはデザイン室という部署があって、社外の仕事もしていたんです。今は独立なさった安田朗さん(「あきまん」の通称で知られるイラストレーター)が『∀ガンダム』のキャラクター原案をなさったりしていて。「この会社どんだけ自由なんだ!」と(笑)。ゲームの開発もできるし、もし腕があれば社外の仕事もできるという期待感もありました。

――ロボット繋がりで『マクロスΔ』のキャラクター原案を担当されたのは、先輩に続いてといいうことで感慨深いものがあったのではないでしょうか?

実田:そうですね。社外の仕事を受けること自体、カプコンは10年ぶりくらいでしょうか。とてもありがたいです。

――カプコンに入社して初めてされた仕事の話などをお聞かせください。

実田:入社してから10年は背景デザイナーとしてさまざまな作品に携わりつつ学ばせていただきました。

――ずっと背景を描いていて、キャラクターの仕事がしたいというフラストレーションがあったのではないでしょうか。

実田:ありましたね。「絶対できるはずなのに、先輩方がわかってくれない!」と思っていました(笑)。その頃は先輩方がどんな難しい仕事をやっていたのかが汲み取れなかったんです。だからずっと周りがおかしいと思っていたんですが、5年経っても周りがそのままで、「流石に5年間ずっと周りがおかしいのは変だな……はっ、もしかして私がおかしいのか!?」と思い、例え私に腕があったとしても、頑張る姿勢を見せなければ人から信用されないということに気が付いたのです。そこに気が付くまで5年くらい不貞腐れていました(笑)。

――そこに気が付いてからキャラクターデザインを任されるまで、どんなことがあったのでしょうか。

実田:先輩方に「どんな働き方をすれば重要な仕事を任せてもらえるようになるのか」と質問したんです。そこで「たくさん頭を使う事」「お客さんに喜んでもらうことを一番の目標にする事」といったアドバイスをいただきました。それまでは自分のことばかりを考えていて、目標が見えにくかったんですね。お客さんが喜んでくれることを目標にしたら、何が正解かがすぐわかるようになりました。それからは自分の担当作業を余裕を持って終わらせるようにして、「周りが困っていれば手を貸せるようにしていこう」「これを数年続けていけば責任のある仕事も任せてもらえるようになるんじゃないか」と思ったんです。


――そんな下積みを経て『エクストルーパーズ』でキャラクターデザインに抜擢されたのですね。起用された時はプレッシャーもあったのではないでしょうか。

実田:プレッシャーは感じませんでした。「失敗したらどうしよう」という想像力がないからじゃないかな(笑) それよりもやっと仕事を任せていただけるという喜びの方が大きかったです。キャラクターデザインを任された背景には『エクストルーパーズ』の成り立ちが影響しています。もともと『エクストルーパーズ』は『ロストプラネット』の派生作品でハードな雰囲気のゲームを作る予定で、私は背景とUI(ユーザーインターフェース)の担当として参加していたのですが、途中で方向転換してコミックっぽい、明るく元気な作品にするとなったんです。ただ、それだと最初に集めたメンバーでは実現しにくい方向性になってしまって。明るくてデフォルメの利いた絵が描ける人材が、たまたま背景班にいた私だったんです。

――もし方向転換がなければ、キャラクターデザインの仕事を任せられるタイミングはまだ先であったかもしれませんね。

実田:そうですね。まさにタイミングでした。

――TVアニメ『マクロスΔ』のキャラ原案を担当するまでの経緯についてもお聞かせください。

実田:『マクロスΔ』企画立ち上げ当時、総監督の河森正治さんはなるべく「色」のついていないデザイナーを探されていたそうです。というのも、『マクロスΔ』は『マクロス』シリーズの新作ではありますが、過去作の続編ではないことを意識されていたようで、過去に起用したデザイナーではなく、まったく新しいデザイナーである必要があり、キャラクター原案がなかなか決まらなかったそうです。

――まだ色がついていなくてしっかりデザインができて…となるとハードルが高いですね。

実田:キャラ原案の担当者を決める会議が開かれていたそうですが、いろんな可能性を探りつつ、3か月経ってもなかなか目途が立たなかったそうです。そんなとき安田監督が「『エクストルーパーズ』の実田さんはどうだろう?」って提案してくださったのです。『エクストルーパーズ』のアニメーションPVをサテライトさんが作られていまして、その時絵コンテや監督を担当してくださったのが『マクロスΔ』監督の安田賢司さんだったんですよ。


――初めてアニメーションのキャラクター原案をされたということですが、ゲームとアニメのデザインの違いや意識して変えた点はあるのでしょうか。

実田:『囚われのパルマ』のスチルのように、ゲームだったら最終的な成果物まで責任をもって見られるので、難しい情報量でもフォローしきれます。しかし絵をたくさんの人数で動かすアニメは、誰にでもわかる記号を持っていないと違うキャラクターに見えてしまう可能性があります。遠めに見てもわかるくらいのデザインに落とし込む必要がありました。

――誰にでも通じる記号化をするということですね。ちなみにゲームとアニメ、どちらが自分に合っていると思いましたか。

実田:“どちらが”と決めるのは難しいですが、『囚われのパルマ』に関して言うと、基礎力がないと描けない絵なのでとても苦労しました……やっぱり私、好きなんですよ。二次元が!二次元が好きなんです!!(笑) 『マクロスΔ』の方は、まず河森総監督の「こういうマクロスにしたい」という夢を叶えることを目指してやっていたので、「二次元的な記号をどう処理するか」というところで深く関われた実感があります。

――『エクストルーパーズ』や『マクロスΔ』のような二次元から、『囚われのパルマ』のようなリアル路線と作風を広げていますが、グラフィッカーとしての今後の目標などありましたらお聞かせください。

実田:体力づくりです(笑)。先輩方に「お前は精神力だけで動いている。倒れるなよ」と注意されるので……0か100かみたいな働き方をする癖があるんです。……でも、もっとカッコいい目標が言いたかったです(笑)。

――いえいえ(笑) ご自身の画風とは異なる『囚われのパルマ』は新しい自分の可能性を見つけるきっかけになったのではないでしょうか。

実田:同じ絵柄でずっと描いていると勉強する分野もそこまで広がらないので、『パルマ』は自分の糧になったと思います。一方で背景デザインも自分ではコアジョブだと思っているので、もっと極めていきたいなと思っています。キャラまわりの作業をすると精神力を使ってしまいますが、背景なら倒れずに安定して作業ができると思うので(笑)。どのチームに入った時も、「このゲームは絶対面白くなる!」という持ちが働く動機になっています。チームの目標に対して正確な仕事が出来た時の面白さにやりがいを感じるんです。だからキャラクターも背景も、全部やりたいですね!そうなるとやっぱり体力が必要なんです!

――なるほど!貴重なお話をありがとうございました!

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実田さんはとても気さくでユーモアのある方で、インタビューは和気あいあいとした雰囲気で進みました。作り手として携わっているゲームやアニメへの愛情が深く、キャラクターに寄り添った丁寧なデザインをされている実田さん。責任のある仕事を任されるための努力、そしてキャラクターに対する深い愛情が素敵な作品へと結びついているのではないでしょうか?今後のお仕事にも注目です。

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[INSIDE/www.inside-games.jpより転載記事]