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XOXはボーイズグループ界の“パンク”を目指す 仕掛け人による戦略とグローバルな音楽性を分析

2016年11月06日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

XOX

 “ジェンダーレス男子”として話題のリーダー・とまん、バトシン、志村禎雄という3人の原宿系人気読者モデルに、ソニー・ミュージックと若者に絶大な人気のアパレルWEGO主催の全国オーディションで選ばれた田中理来、木津つばさを加えた5人組ボーイズグループ、XOX(キスハグキス)の快進撃が続いている。彼らは2015年12月のメジャー・デビュー曲『XXX(キスキスキス)』をオリコンチャートの11位に送り込むと、2016年の『Ex SUMMER(エックス・サマー)』では同チャートの6位を記録。5月にラフォーレミュージアム原宿で初ワンマンを成功させ、今回11月にリリースされたばかりのメジャー第3弾シングル『Skylight』もオリコンデイリーチャートの7位を記録している。


動画はこちら。


・“オシャレな子がオシャレな音楽をやっている”という強さ


 その人気を支えるのは、各メンバーのストリート感溢れるファッション・センスと、全員がフロントを務められるような存在感。その個性を生かすためか、XOXはZOO以降日本のダンス・ボーカル・グループのひな型のひとつになったボーカリストとダンサーの分業制は採用せず、メンバーが揃ってダンス/ボーカルを担当している。また、総フォロワー数70万人にのぼるTwitterやMixChannelといったSNSも積極的に活用。日本のユース・カルチャーの先端を走る原宿のストリートらしい、ポップさとエッジを兼ね備えた高い音楽性も大きな話題になっている。彼らを中心となって手掛けているのは、とまんやバトシン、志村禎雄、こんどうようぢらによって結成した原宿系読モの中心チーム「読モ BOYS!&GIRLS!」の発起人であり、著書『ジェンダーレス男子』でも知られる総合プロデューサーの丸本貴司氏と、真心ブラザーズやスチャダラパー、フジファブリック、凛として時雨などの音楽ディレクションを歴任し、近年は夢みるアドレセンスなどでポップ・グループのクリエイティブも手掛けるソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズのチーフプロデューサー、薮下晃正氏。2人はXOXの個性をこう語る。


「彼らはオシャレをキーワードに集まっているので、クラスの中でも流行の最先端をいく子たちだと思うんですよ。でも日本のボーイズグループを考えた時、そこではドメスティックなある一定の音楽性のものが多くて、僕としてはそれはあまりオシャレじゃないなと思ったんです。だから、XOXではドメスティックなアプローチは敢えてやらないということを決めました。それに『この人がこれを歌ったら似合うだろうな』と、“服と同じ感覚”で音楽を考えた時、トレンドのちょっと先を行くようなものの方が、メンバーの感覚にも近いと思ったんですよ」(丸本)


「彼ら自身が今の原宿を中心としたユース・カルチャー、ストリート・カルチャーの主人公ですから、第一に彼らがかっこいいと思える音楽にしたい。そこで流行っているからといってド直球のEDMをやる必要はないんじゃないかとか、最初に禁じ手を決めていきました。裏テーマとしては近年の90年代的なものの再評価や、マーク・ロンソンを筆頭にした往年のダンス・ミュージック・リバイバルへの共感という側面もあって、流行を取り入れつつも一過性のモノではなく時代の流れに耐えうる恒久性を意識していますね」(薮下)


・高いジャンル/カルチャーの横断性を持つ『Skylight』はマイルストーン的な作品


実際、XOXの音楽は海外のシーンの最先端を取り入れつつ、同時にポップ・ミュージックとしての質の高さを感じさせるものに仕上がっている。XOXと薮下氏とのタッグがはじまったメジャー・デビュー曲「XXX」では楽曲制作に海外作家を迎え、四つ打ちにアコースティック・ギターを混ぜ込んだN.E.R.Dを彷彿とさせる序盤と、ヒップホップ以降の感覚とJ-POP的なキャッチーさを巧みにブレンドしたサビとを融合。続く「Ex Summer」では、カイゴがノーベル平和賞の祝賀コンサートでパフォーマンスを披露するなど近年海外のポップ・シーンを席巻しているトロピカル・ハウスを基調にしつつ、アクセントとしてフィフス・ハーモニーの「Work from Home ft. Ty Dolla $ign」などで一般層にも認知を広げつつあるトラップの要素を加えることで、2016年の夏の雰囲気をフレッシュなまま楽曲に落とし込んでいたのが印象的だった。


 そして今回の「Skylight」では、ライブを想定したと思しき冒頭のクラップに続いて、バトシン、田中理来、木津つばさの3人によるラップがカットイン。サビではとまんが歌詞を手掛けたクリスマスの聖夜を連想させる甘いボーカルを加えることで、ポップさとエッジの間を自在に行き来するXOXの雰囲気がこれまで以上に前面に押し出されている。5人のボーカル/ラップ・スキルも成長を感じさせ、それぞれのキャラがより明確に伝わってくるようになったのも大きな特徴だろう。2曲目「THE MUSIC」では、ライブを意識してよりクロい質感の本格的なファンク/モダンR&Bに接近。そこにインディーズ時代からあるグループのはじまりの曲にしてレゲエのアレンジを取り入れた「ダイジョーブ」を加えた全3曲は、音楽的には多方向に振り切れつつも、精神的にはアシッドジャズを筆頭にした90年代の欧州のクラブ・カルチャーや2ステップ/ガラージとR&Bを融合させたクレイグ・デイヴィッドにも通じる、ポップにおけるジャンル横断的なバランス感覚の高さを伝えてくれる。


「宇多田ヒカルの新譜にKOHHが参加したのも象徴的でしたが、海外ではそれこそ往年の女性R&Bグループ、SWVの曲にウータン・クランがラップしたり、ポップスとラップの最先端の距離は近かったと思います。でも、日本のボーイズグループにおいてはそこが分断している印象がある。『Skylight』は、だったらエイサップをはじめ海外のヒップホップが好きになり始めたバトシンにライブでもラップしてもらおうというアイディアが発端になりました」(薮下)


「加えて、冬を思わせる詩的な歌詞の世界観はとまんの発案ですね」(丸本)


「これまでの2枚はXOXのグループ・イメージを浸透させるため、敢えて匿名性に寄せた物語だったんですが、今回の3枚目に関しては当て書きのようにして、よりメンバー自身の個性を反映させています。それぞれのスキルも上がってきているし、リスナーとしても視野が広がってきているので、僕らも一緒にやれることが増えてきている状態で。そういう意味でも、この3枚目はグループにとってのマイルストーン的なシングルになっています」(薮下)


・XOXはボーイズグループ・シーンにとっての“パンク”になれるか


 ビヨンセやカニエらの諸作に加えて、ディプロとスクリレックスによるユニット=JACK Ü (ジャック・ユー)らと親交を深め、15年の『パーパス』でトロピカル・ハウスなどを導入したジャスティン・ビーバーや、ザ・ウィークエンド、フランク・オーシャン直系のオルタナティヴなR&BとDTMのエディット感覚を融合させる元ワン・ダイレクションのゼインらを筆頭にしたジャンル/カルチャー横断的なアーティストの活躍によって、現在のポップ・シーンには“ポップであることが最も実験的”という雰囲気が生まれている。XOXの音楽性もまた、そうしたポップ・カルチャーならではの魅力を伝えてくれるものだ。

「そもそも、僕の学生時代を考えても、ファッションに興味を持っている子たちの間では、共通の話題として自然に音楽が存在していました。音楽がただの音楽だけではない、カルチャーになっていたというか。そういうものを作りたいという気持ちはありますね。たとえば日本の90年代の音楽には、J-POPにも刺激的なものが多かったじゃないですか?」(丸本)


「たとえば安室奈美恵にとってのジャネット・ジャクソンであるとか、J-POPと洋楽の親和性が高かった時代。その頃のように、どんな背景があってこの音楽が出来ているのかという批評性を持ち込みたいという思いもあります。たとえば、SMAPはハイコンテクストなアーティストや作家の曲を起用しボーイズグループとしてひとつのポジションを作ったと思いますが、僕らも理想としてはそれに近くて、確信犯的にやっていることも含めて楽しんでほしい。XOXをきっかけに洋楽を知ってくれてもいいし、一時期クラブでモー娘の『LOVEマシーン』がかかったみたいに、逆にDJの現場でもかけてくれたりしたら嬉しいし。今、色んな音楽の距離がクロース化していく中で、ボーイズグループのトレンドの最先端としてXOXがいられたらいいと思うんですよ。ドメスティックなアイドル・ソングでもないし、ダンスに特化している訳でもない、所謂これまでの規制概念を壊すという意味で、僕はXOXはボーイズグループ・シーンにおけるパンクだと思っているんです(笑)」(薮下)


「リスナーの中には知識から入るのではなく純粋に音を楽しんでくれている子も多いので、ライブでは僕らが用意した文脈とはまったく違うノリ方になっていたりと、面白いカルチャーが生まれはじめている雰囲気も感じています。対バンもボーイズグループだけではなくて、音楽的に繋がれる人たちともやりたいと思っていますね」(丸本)

 12月23日にはZepp Divercity(東京)でのワンマンライブ『XOX COLLECTION 2016 Autumn/Winter』の開催も控えるXOX。<カレカノジョ/全部アリだCOLOR/行きたい 行こうよ/あの場所へ>と宣言するメジャー・デビュー曲「XXX」の雰囲気そのまま、様々なリスナーを巻き込んで原宿から刺激的なカルチャーを発信する彼らの今後に注目したい。(取材・文=杉山仁)