2016年11月04日 10:52 弁護士ドットコム
オフィス以外のカフェやコワーキングスペースなど、働く場所を自由に選択する「ノマドワーク」が広がりを見せる中、不動産情報サイト「SUUMO」を運営するリクルート住まいカンパニーは、カフェで仕事をする際のお茶代を支給する取り組みを10月から始めた。
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リクルート住まいカンパニーは「多様な働き方を創造・体現し、世の中へ発信していくことが必要」との理念のもと、2015年から、雇用形態にかかわらず全従業員が、自宅やカフェ、サテライトオフィスなど「会社の外」で働くリモートワークの取り組みを試験的におこなってきた。10月から全従業員を対象に本格的に導入することに伴い、カフェなどで仕事をする際、「場所代」として、1回500円、1日4回を上限に支給する。
こうした取り組みは、リクルートグループ内でも初の試みというが、そもそも一般的に、社外で作業する際に発生する発生する場所代などを「経費」として会社に請求することはできないのか。労働問題に詳しい大山弘通弁護士に聞いた。
「労働者が会社の指揮命令に従い業務を遂行するために要した費用のうち、会社の業務に必要な費用は会社が負担することになります。このような会社の業務に必要な費用は、『業務費』などと呼ばれます。
業務費の例を挙げると、作業服、作業用品代、出張旅費、社用交際費、器具損料などになります。
労働者は、業務費を負担した場合、会社に対してその償還を求めることができます。会社は、労働者の負担した業務費が必要性、合理性を欠くのでなければ、その償還を拒むことはできません(以上については,東京地裁平成27年12月16日判決が参考になります)。
社外で作業する際に発生する場所代などを『経費』として会社に請求できるかどうかは、社外で作業することが会社の業務として必要であって、さらに支出した費用が必要性・合理性のあるものであれば請求できることになります」
ノマドワークでカフェなどを利用した代金は、必要性や合理性が認められるのか。
「ノマドワークする人の動機はさまざまでしょうが、たとえば、(1)『社外で取引先の人間と打ち合わせが必要な場合』、(2)『社外で急遽作業する必要な事態が起き、カフェを利用した場合』、(3)『社外で作業する必要性はないが、気分転換などの理由でカフェで作業をした場合』と分けて考えてみましょう。
まず、『社外で取引先の人間と打ち合わせが必要な場合』については、通常、交際費として支出が認められているものであり、カフェ程度の金額であれば、必要性、合理性も認められるので、会社に請求することができます。
次に、『社外で急遽作業する必要な事態が起き、カフェを利用した場合』については、単にカフェで作業したというだけでなく、作業の内容としてカフェ利用を必要とすることが必要です。カフェ程度の金額であれば、必要性、合理性が認められることは先ほど述べたとおりです。
最後に、『社外で作業する必要はないが、気分転換などの理由でカフェで作業をした場合』については、特にカフェを利用する必要がないので、会社に経費として請求するのは難しいです」
「今まで述べたことは、特にカフェ利用について会社に何の決まりも無い時に労働者が費用を請求できるかについて述べたものです。
リクルートの場合のように、会社でカフェ利用の経費を支払うと定めているのであれば、労働者は会社に対して当然に費用の償還を請求することができます。
ノマドワークやリモートワークについては、会社が労働者にとって無理のない働き方を提案するのであれば、労働者個人にとっても社会全体にとっても望ましいものと思います。家庭の事情などにより、決まった日時・場所に出勤するという働き方が出来ない人も働けるようになるからです。
ただし、このような働き方が、かえって際限なく仕事をしてしまうことにつながったりするようであれば、長時間労働を強いられることなりかねず、問題があると考えます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大山 弘通(おおやま・ひろみつ)弁護士
労働者側の労働事件を特に重点的に取り扱っている。労働組合を通じての依頼も数多く、もちろん個人からの相談も多い。労働事件は、早期の処理が大事であり、早い段階からの相談が特に望まれる。大阪労働者弁護団に所属。
事務所名:大山・中島法律事務所
事務所URL:http://on-law.jp/