「思えば、長いシーズンだったなあと(苦笑)」。昨年までのブリヂストンに代わって、今シーズンからスーパーフォーミュラでニュータイヤサプライヤとなったヨコハマタイヤ。その開発を担ったヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル開発本部長の秋山一郎エンジニアに、国内トップフォーミュラ復帰初年度の感想を聞いた。
「去年の5月のはじめての富士テストのときは、リミッターかけてもらって、キャンバーを起こしてもらって、内圧を高く設定してもらって、おっかなびっくりでスタートした。あそこから、一応、無事に最終戦を終えることができて、ホッとしております」
秋山エンジニアが話すように、タイヤ開発はデータがまったくない状態から、時間との闘いとなった。現在のスーパーフォーミュラでは開発テストがほとんど行われていないため、ヨコハマタイヤの開発はとにかく少ない走行時間内での見極めを強いられることになった。そのため、タイムを追い求めながらも、まずは安全性の確保が最優先で進められた。秋山エンジニアが振り返る。
「いわゆる耐久、安全という意味では前半は心配していましたけど、ある程度、我々も室内での耐久テストなど確認ができて大丈夫かなと。後半はタイヤのパフォーマンスがみなさんの走りにうまく機能してくれればいいなと、途中からそういう心配に変わりましたけど、とにかく無事に終わってホッとしております」
レースでのヨコハマタイヤは、『2レースもつのではないか』と言われるほど耐久性が高い一方、レース終盤でも摩耗やタレによるタイムの落ち幅が少なく、ピットインでもタイヤ無交換の給油あり、というパターンが定例化した。その点に関しては、来季に向けて、秋山エンジニアにも思う部分がある。
「最終戦を終えた今の段階としては、まだまだやりたいことがたくさんありまして、それがみなさんのお役に立てるかどうかはこれからですけど、要はスーパーフォーミュラに関しては、ワンメイクタイヤの供給をするという、単にそれだけの作業にはしたくないんです」と熱い口調で話す秋山エンジニア。来季に向けた動きも、すでに開発は進んでいる。
「先日のSUGOでもエンジンテストの合間に両メーカーの開発車でタイヤをテストをしてもらって、そこで、来年に向けての構造もゴムも、いくつかの種類を試すことができました。それでいいもの、少しでもよいものがイベントに貢献できるパフォーマンスにあれば、それを量産してスーパーフォーミュラの仕様タイヤにするかもしれませんし、あるいは来年のもてぎが2スペックになる場合は、その時の引き出しのひとつになるかもしれません」
来季はシーズンを通しての2スペック供給は難しようだが、もてぎなどいくつかのレースに限定しての2スペックの使用は検討しているようだ。スペック数が増えることでレース戦略は多様になるが、単純にタイヤがもっとタレてくれば、レース中盤以降でのオーバーテイク、ピットストップでのタイヤ交換という、順位変動のチャンスを生み出すことになる。
「来シーズンに向けたタイヤは、来年の3月の合同テストで同時に全チームに履いてもらうときに、全車分、そろうようなスケジュールで進めています。このシーズンオフは我々の引き出しを増やしておいて、最終的にレースでの仕様に落とし込めればと思います。いろいろ、開発は進行させています」
今シーズン、復帰初年度を無事に乗り越えたヨコハマタイヤ。今季は大きなトラブルもなく、もてぎの2スペック投入など、新しいアプローチに積極的な点は、ファン、レース関係者の多くの共感を得た。スーパーフォーミュラの未来を文字通り、足下から支える存在として、来季はより、レースの魅力をアップさせるようなアプローチに取り組んでもらうことを期待したい。