9月25日、アニメ制作技術の総合イベント「あにつく2016」にて、アニメ制作会社・グラフィニカのセミナー「デジタル作画によるライブドローイング」が行われた。アニメーターの実作業風景が楽しめるユニークな企画には約80人のオーディエンスが詰めかけ、会場のUDX GALLERY NEXT-3は大入りとなった。
セミナーではデジタル作画部所属の作画監督である能海知佳と錦織成が登壇。アニメ『進撃!巨人中学校』の作画をその場で完成させるライブドローイングを行った。二人は一時間足らずのスピーディーな手つきで作監修正や原動画を描き上げていった。
無事に作業を終えた二人は「人前で絵を描くということに緊張したが、作業に入ると集中できた」と笑顔を見せ、「実際の作業環境とは違うので、普段割り当てているショートカットが使えず焦った部分もあった」と感想を語った。
セミナーにはデジタル作画部のマネージャーである櫻井司と安藤圭一も登壇し、デジタル作画へ転換した経緯について語った。グラフィニカは2011年4月に作画部を開設。2013年7月末には部署名をデジタル作画部に変更し、作業工程のデジタル化を図った。2013年9月にはデジタル仕上げがスタート。現在ではすべての作画工程をデジタル化しており、作業効率の向上に成功した。
作業が紙からデジタルに変わることで多くの困難があったかと思いきや、問題はあまり起きなかったそうだ。月産動画枚数はデジタルに切り替えた直後こそ減っているが以降は順調に伸びはじめ、2015年には1人あたりの月産が400~500枚に達している。デジタル化によって脱落したスタッフもほとんど存在せず、転換はスムーズに進んでいった。
デジタル作画の利点としては、線ツールを使うことで新人もベテランのようにすべて同じ線で描けることを挙げた。動画のトレース技術は非常に難しいが、デジタルを導入することで誰でも綺麗な描線を表現できるようになった。また3DCGアニメではキャラクターが大写しになる場面でディティールが足りなくなることも多いが、デジタル作画を導入していれば描写を付け加えて情報量を増やすことができる。2Dだけでなく3Dにも対応できるのは大きな利点だろう。
さらにデジタル動画+仕上げの一括作業を導入したことで、収入を増やしながらアニメーターが知っておかなければならないワークフローを学べるようになったのも大きいと語る。新人アニメーターは金銭面で苦労することが多いため、業界の定着率を上げることにも役立っているようだ。
今後の課題としては、作業自体はアナログ時代とほとんど変わっていないので、その後のアニメ撮影ワークのことも考えなければデジタル化した意味がないと語った。作画を撮影に使う素材と捉えて作業すれば、より完成形を意識して作品を生み出せるようになりそうだ。
[高橋克則]
『進撃!巨人中学校』
(C)中川沙樹・諫山創・講談社/「進撃!巨人中学校」製作委員会