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中島美嘉が語る、デビュー15周年を超えた“現在地”「曲ごとに主人公を変えながら歌ってる」

2016年11月02日 19:02  リアルサウンド

リアルサウンド

中島美嘉

 中島美嘉が『花束』以来、約1年ぶりとなるニューシングル『Forget Me Not』をリリース。映画『ボクの妻と結婚してください。』の主題歌として制作されたこの曲は、作詞・作曲を「ORION」「ALWAYS」などのヒット曲を手がけた百田留衣が担当、アレンジを武部聡志が手がけた極上のバラードナンバーに仕上がっている。さらに、C/WにはSALUをフィーチャーした「ビルカゼスイミングスクール feat. SALU」を収録。気鋭のヒップホップアーティストとのコラボレーションも大きな注目を集めそうだ。


 今回リアルサウンドでは中島本人にインタビューを行い、シングル『Forget Me Not』を中心に、デビュー15周年を超えた“現在の中島美嘉”について語ってもらった。(森朋之)


(関連:中島美嘉は“歌うこと”とどう向き合ってきたか 自叙伝『あまのじゃく』を読み解く


・「“終わりじゃない”ということは伝えなくちゃいけないと思った」


ーー『SONGBOOK あまのじゃく』(半生を語りつくした自叙伝+新曲「Alone」など全14曲を収録したCD)とても興味深く読ませてもらいました。これまでの人生が赤裸々に綴られていますが、こういう本を出そうと思ったのはどうしてですか?


中島:どうしてだろう? 何も思わなかったからかな。「イヤだな」とは思わなかったから、全部話してもいいかなって。これまでのことはけっこう覚えてるし、あとは家族と「あのときはどうだったかな?」って答え合わせもしましたね。


ーーいままでの人生を振り返ることにもつながりますね。


中島:そうですね。まあ、自分では普通だと思ってるんですけどね。もっといろんな経験をしている方もいるでしょうから。


ーーさらに今年の夏は、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』や『氣志團万博』に出演。いままではあまりフェスに出演してこなかったので、これも大きな変化ですよね。


中島:正直「私(バラード)で大丈夫かな?」という気持ちでした。だけど「すごくありがたいな」って思うんですよね。ずっと出ていなかったのに、声をかけていただけて。夏フェスのイメージがないですからね、私。夏の歌もあまりないし(笑)。


ーー『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』でいきなり1曲目に「雪の華」を披露したことも話題になりました。


中島:それ、私が急に変えたんです。1曲目は「雪の華」にしようって。それが正解だったというか、すごく良かったと思いますね。


ーー『氣志團万博』も楽しそうでしたね。綾小路翔さんのインスタグラムに特攻服を着た美嘉さんが森山直太朗さんと一緒に写ってる写真がアップされてたり。


中島:楽しみ過ぎました(笑)。あのピンクの特攻服はファンの子が作ってくれたんですよ。ライブもすごく楽しかったです。白い学ランを着た氣志團のファンの男の子たちがすごく喜んでくれて。何か通じるものがあるんじゃないですか?(笑)


ーーそして11月2日にニューシングル『Forget Me Not』がリリースされます。『花束』以来、約1年ぶりのシングルになりますが、今年は人前に出る機会が多かったせいか、そんなに期間が空いている感じはないですね。


中島:そう、私も1年ぶりという気はしてなくて。今年はMIKA RANMARU(中島美嘉、土屋公平によるロックユニット)のライブ、アコースティック・ツアーもありましたからね。15周年ということで、スタッフからも「今年はやろう」って言われていたので(笑)。


ーー『Forget Me Not』は優しさ、温かさ、切なさが同時に伝わってくるバラードナンバーです。中島さんはどんな印象を持っていますか?


中島:すごくいい曲だし、「またこういう曲が来たな」と思いましたね。もちろんバラードは好きなんだけど、ときどき自分でも「あれ? どの曲だったかな」ってわからなくなったりするんですよ(笑)。ライブでイントロが始まって、「あれ?」と思って、チラッとセットリストを確認したり。特に百田さん(「Forget Me Not」の作詞作曲を手がけた百田留衣)にはこれまでに何曲も作っていただいているし、特徴がありますからね。声で始まるところだったり、メロディが駆け上がっていく感じだったり。だからレコーディングのときは「どうやっていままでのバラードと違いを出そうか」って考えましたね。


ーー具体的には?


中島:制作スタッフからは「あまり悲しくしないでほしい」という要望があって。もともとバラードは切なく歌う方向に持っていきがちなんだけど、今回はディレクター、プロデューサーと相談しながら、切なさを出し過ぎないように意識してましたね。


ーーひとつひとつの言葉を丁寧に伝えるようなボーカルですよね。最近は「メッセージを伝えるのが自分の役割」とおっしゃってますが、「Forget Me Not」の歌い方はまさにそうだなと。


中島:ちょうどアコースティック・ツアーが終わった後にレコーディングしたからかもしれないですね。普段とは違うツアーだったし、「やっぱりこういうアレンジで歌うのは好きだな」と思えたし。


ーー<君と交わした約束 叶え続けたい/終わりじゃない>という歌詞も印象的でした。


中島:この歌詞は映画(『ボクの妻と結婚してください。』)のために書かれていると思っていて。歌っていても“曲=映画”というイメージが強かったんですよね。ただ切なくて悲しいだけではなくて、“終わりじゃない”ということは伝えなくちゃいけないなと思ってましたけど。


・「映画に出てくるすべての人の立場がよくわかる」


ーー『ボクの妻と結婚してください。』は、余命半年と宣告された男性が、妻と息子のために自分がいなくなった後の夫を探すというストーリーですが、この男性についてはどんなふうに思いますか?


中島:すごく気持ちはわかりますね。主人公の男性だけではなくて、映画に出てくるすべての人の立場がよくわかるなって。


ーーすべての登場人物に感情移入できる、と。その大きな視点は「Forget Me Not」の表現にも反映されていると思います。早くライブでも聴きたいですね。


中島:うーん、歌いたいたいけど、あまり歌いたくない気持ちも…。


ーーえっ?


中島:いや(笑)、難しいんですよ、この曲。歌で始まるし、すごく緊張するんです。「花束」や「ORION」もそうですけど、歌で始まる曲をライブで歌うときは、イントロを付けてもらうんですよ。自分の曲だから(歌い出しの)キーは覚えてるんだけど、緊張すると「あれ? どこだっけ?」って音が分からなくなることもあって。だから伸さん(中島美嘉のバンドマスターをつとめる河野伸)に「イントロ付けて」って(笑)。


ーー歌で始まる曲が多いのは、作曲家の方が「まず声を聴かせたい」と思うからでしょうね。自分の声、好きになってきました?


中島:そうですね。声の使い方、使い分けがわかってきたので。優しく歌うこともあるし、その逆で歌うこともあるし。そうやってビックリさせるのもおもしろくなってきたんですよね。


ーービックリさせる?


中島:そう。それもアコースティック・ライブが楽しかったからだと思うんですけど、優しく、ふんわり歌った後に、「蜘蛛の糸」をめっちゃ怖く歌ったり(笑)。主人公をどんどん変えながら歌うのがおもしろいんですよ。


ーードSな歌声もありますからね、中島さん。シングルのカップリングにはSALUさんをフィーチャーした「ビルカゼスイミングスクール feat. SALU」を収録。ヒップホップ・アーティストとのコラボレーションは初めてですよね?


中島:スタッフの提案だったんですよね。私、コラボレーションが得意ではないので、いままではオファーをもらってもあまり受けてなかったんですけど、これは「ぜひやりましょう」って言ってきて。SALUさんは声が独特だし、おもしろかったですね。歌詞はSALUさんから「こういうテーマでお願いします」ということを丁寧に説明してもらって、1日で書き上げました。SALUさんとはお会いしてないんですけどね。何度も曲を書いていただいてる方でも、基本的には会わないんですよ。


ーー作家の方には会わないで制作するという方針なんですか?


中島:会うのがイヤだというわけではないんですけどね。たとえばレコーディングに作曲家の方がいらっしゃると「上手く歌えてるかな」と緊張しちゃうんですよ。


ーーなるほど。映画『NANA』でコラボレーションしたHYDEさんとはステージで共演してますよね?


中島:そうですね。HYDEさんは唯一、レコーディングのディレクションもやっていただいたんです。HYDEさんが他のアーティストに楽曲を提供したのは、後にも先にも私だけでしょ? だからHYDEさんも楽しみにしていたみたいで。どのテイクを選ぶかは以前からずっと任せていたから、HYDEさんがスタジオに来てくれたときも、歌い終わったら「あとはよろしくお願いします」って帰っちゃったんです。そのときのことをいまだに言われるんですよ、HYDEさんに。トリビュートアルバム(2016年2月にリリースされた『MIKA NAKASHIMA TRIBUTE』)のためにいただいたコメントにも“知らない間に帰ってた”(「歌録りの時は「何て綺麗な声なんだろう」ってディレクターと盛り上がって楽しいレコーディングになりました。あなたは知らない間に帰ってましたけど(笑)」)って(笑)。


ーーさらにライブ音源「花束〈Live at NHK Hall 2016 07.22〉」も収録されています。先ほどから話に出ているアコースティック・ツアーの貴重な音源ですね。


中島:スタッフのみんなが「いい」と思って収録してくれたんですけど、私自身は(ライブ音源を)あえて聴かない時の方が多いんですよ。どこが悪かったかは自分でわかってるから、CD音源を聴いて(歌い方を)「次はここをもう少しこういう風に歌おう」とか自分で答え合わせをしながら直すほうが、しっかり頭に入って合ってるなって。だから、たまに曲の構成を確認するために「リハの音源を聴かせて」って言うと、まわりが「え?」ってなるんです(笑)。


ーー現在の中島さんの歌の魅力が伝わるテイクだと思います。オリジナルアルバム『REAL』(2013年1月)から約4年になりますが、次作の構想はあるんですか?


中島:そうですね…。何て言うか、自分の在り方がちょっとわからなくなってるんですよ(笑)。15周年のときに「どうしたい?」と言われたときも、「さて、どうしよう?」って考え過ぎちゃって。ライブ以外では、何を発信していいかわからないというか。ずっと考えてるかも(笑)。


ーーMIKA RANMARU、アコースティック・ライブを含めて、いままでとは違うスタンスの活動も増えてますけどね。


中島:そういう違う要素が加わるのはいいですよね。ずっと同じ人たちと同じことをやってると、どうしても幅が広がらないので。音楽以外のことでやりたいことはあるんですけど、一から始めなくちゃいけないから、なかなか難しいし。焦らず自分のペースでやっていきますよ。


ーー期待してます。最近、プライベートはどんな感じですか?


中島:寝すぎですね(笑)。ヘンに体温が上がって、ボーッとしちゃってます。私、丸1日くらい平気で寝ちゃうんですよ。3日休みがあると、1日は絶対に寝る日を作って、ずっと寝てる(笑)。寝る、寝ないっていうのをコントロールできるというか、寝ないって決めれば平気だし、寝ようと思ったらずっと眠いんですよ。そうなると日にちもわからなくなって、じつは今日もお休みだとカンチガイしてたんですよね(笑)。メールもらって「あ、仕事だ!」ってなったんだけど、鏡の前で30分くらい体育座りしてて。だから今日はマスカラしか塗ってないんです。


ーーナチュラルメイクですよね、珍しく。


中島:普段はしっかりメイクをしているときが多いですからね。0か100かだから、やらないときはやらないし。でも、みなさんのほうがしっかりメイクしてると思うんですよね。ナチュラルに見えるお化粧でも、じつは1時間くらいかけてやってるんでしょ? それは逆にすごいなって思いますね。私が1時間メイクしたら、ドラッグクィーンみたいになっちゃうから(笑)。(取材・文=森朋之)