トップへ

SuGが語る、ギリギリの“バランス感”を構築する方法「でっかい軸に立ち続けることが重要」

2016年11月02日 13:41  リアルサウンド

リアルサウンド

SuG(写真=下屋敷和文)

 「Shut Up(=黙れ)」のスラングをタイトルとした、 SuGのセカンド・ミニアルバム『SHUDDUP』がリリースされる。本作は、今年3月にリリースされた『VIRGIN』と対になる位置付けで、「アンチテーゼ」や「アナーキズム」をコンセプトとしたバンド史上最も過激な内容となっている。例えば、ツイキャスでファンから歌詞のアイデアを募集した先行曲「KILL KILL」は、世の中のあらゆるものに「No!」を突きつけるラディカルなパンクチューン。とはいえ、その根底にはポジティブな解釈やメッセージが込められており、全てに白黒をつけようとする息苦しい世の中に風穴を開けるような、清々しさすら感じるのだ。なお、この曲のMVには、きゃりーぱみゅぱみゅアートディレクターとしても知られる増田セバスチャンを起用。ダークな中にもユーモアや親しみやすさが込められた、魅力的な仕上がりとなっている。


 いわゆるヴィジュアル系としてキャリアをスタートさせるも、様々な音楽性やカルチャーを取り入れ唯一無二の世界観を構築してきたSuG。そのモチベーションはどこから来ているのか。新作についての話はもちろん、彼らのルーツなどにも深く迫った。(黒田隆憲)


(関連:)


■「『KILL KILL』を象徴するような“極悪”なアルバムタイトル」


ーー前作『VIRGIN』は、活動停止後に作った曲で構成された作品で、「ここからがスタート」という意味も込めて『VIRGIN』という名前をつけたと伺いました。今作『SHUDDUP』は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。


武瑠(Vo.):僕ら毎年冬に、「VersuS」というコンセプトライブを行なっているんですね。激しい曲を中心にセットリストを組んだ「極悪SuG」と、ポップな曲を中心にした「極彩SuG」の二日に分けて、お客さんの声量を測り、どちらが勝ったか? という参加バトル型にしているんです。前回、初期衝動で作ったアルバムが『VIRGIN』というタイトルで、たまたま「V」だったので、今回は「VersuS」の「S」をタイトルに掲げた、攻撃的なアルバムを年内に作りたいっていう、わりと後付けのコンセプトだったんです。すでにシングル曲「KILL KILL」は出来上がっていたので、この曲を象徴するような極悪なアルバムタイトルを...と考えている時に、「黙れ」という意味の『SHUDDUP』を思いつきました。


ーー昨年末にはヨーロッパツアーを敢行し、今夏も中国、台湾、タイ、メキシコなど精力的に海外展開を広げていますが、何か手応えを感じていますか?


Chiyu(Ba.):東京と大阪でも全然ノリが違うように、やっぱり国ごとにリアクションが違いますよね。バラードを演奏している時に、いきなり風船を放り込んでくる国もあれば(笑)、紙飛行機を飛ばしてくる国もある。でも、「みんなで楽しい空間にしよう」という雰囲気は、どの国からも強く伝わってきました。


shinpei(Dr.):やっぱり、海外だとなかなか会える距離じゃないので、その分の熱量は大きかったですね。


yuji(Gt.):メキシコの首都メキシコシティは標高2250メートルくらいのところにあるので、masato以外の全員が軽い高山病になってしまって(笑)。頭痛くなったり、気持ち悪くなったりして大変でした。


Chiyu:まるで高地トレーニングしているような気分でしたね。あれでお客さんが盛り上がってなかったら、何のために行ったんだろうっていう感じでしたけど(笑)、びっくりするくらい盛り上がったのでホッとしました。


武瑠:いろんな国へ行ってみて思ったのは、ファッションの傾向とかが国によってあまり差がなくなってきたなっていうことです。以前だったら、「ロスで火がついて、それが海を渡って日本にも入ってきて...」みたいに、流行の広がり方にタイムラグがあったと思うんですけど、今はSNSがあるから拡散スピードが桁違いに速くなっている気がします。それに、日本発のファッションやアートがどんどん増えているのも、SNSの力が大きいんじゃないかなって思います。例えば、僕らは数年前から「ストリートゴシック」というヴィジュアルテーマを掲げているんですけど、それが今ちょうど世界的な勢いで拡散していて。どこの国に行っても、みんなストリートゴシック系の格好をしていて驚きました。


ーー武瑠さんからは、音楽だけでなくアートワークを含めたヴィジュアルイメージまで、強いこだわりと美学を感じるのですが、どんなものに影響を受けてきたのですか?


武瑠:僕がもっとも影響を受けたのはアンディ・ウォーホルです。映画『ファクトリー・ガール』(2006年公開)を観て、彼のことを本格的に好きになりました。もちろん「キャンベルスープ」など有名な作品は以前から知っていましたけど、あの映画を見たことにより彼のダークな作品を知ることができて、さらにハマっていきましたね。僕らがインディ時代に出したアルバムは、アイスの缶を並べたデザインだったんですけど、それとか完全にウォーホルのオマージュでした。


ーー小説を執筆したり、映像作品の監督をしたり、ファッションデザイナーとしても作品を作ったりしているのは?


武瑠:もともと文章を書くのが好きだし得意だったので、それを活かす仕事をしたいって思っていたんですよね。中学生くらいになって、段々音楽とかファッションとかが好きになっていく中で、大槻ケンジさんがバンドをやりながら映画を撮ったり小説を書いたりしているのを知って。「そうか、そういうやり方もあるんだ」と勇気付けられました。村上龍さんも確か、小説を書きながらバンドをやったり、映画も撮ったりしていますよね。なので大槻さんの『グミ・チョコレート・パイン』と、村上さんの『限りなく透明に近いブルー』には、ものすごく影響を受けています。あとは10代の若い時に、HYDEさんのソロ公演を観に武道館へ行ったんですけど、その時の衝撃も大きかったですね。「僕もあのステージに立ちたい」って強く思って。それで、今まで自分が好きだったものを、全て融合した形でバンドをやっていこうって思ったのが、今のやり方につながっていると思います。


■「90年代半ばから00年代のJ-POPの雰囲気が好き」


ーーSuGの楽曲やストリートゴシックというファッションには、結構ヒップホップの要素も入っていると思うのですが。


武瑠:そうですね。「KILL KILL」のイントロとかは、去年ものすごく聴いてたあるヒップホップの楽曲から影響を受けています。最初に聴いたヒップホップはKICK THE CAN CREW。彼らが活動していた90年代半ばから00年代って、ヒップホップ的な要素がJ-POPの色んな楽曲に入っていたじゃないですか。あの雰囲気が大好きだったんですよ。


Chiyu:あの頃みんな好きだったよね。中学生とか全員キングギドラ(KGDR)聴いてたもん。「公開処刑」めっちゃ歌ってた。


武瑠:Dragon Ashも大好きで、KREVAさんのソロを聴いてからラップに入っていきました。言葉の使い方とかものすごく影響を受けましたね。ただ、コアなヒップホップというよりも結局はJ-POPが好きなんですよ。言葉がしっかり聞こえているメロディが好きだし、サビがしっかりある方がグッとくるというか。


ーー武瑠さんにとってのJ-POPとは?


武瑠:結局のところ、僕にとっては浜崎あゆみなさんのかなって思いますね(笑)。あの切ないメロディが大好きなんです。歌謡まではいかないけど、キャッチーに落とし込んでいる切なさ、みたいな。浜崎あゆみさんはバンドサウンドだった時期も長くて、それの影響も強いと思うんですよね。なんだかんだ言って、子供の頃に聴いていた音楽に一番影響を受けているじゃないですか。


ーー他のメンバーのみなさんは、どんなものに影響を受けました?


shinpei:僕は、元々Mr.Childrenとか王道のJ-POPを聴いていたんですけど、大学時代に洋楽にハマり、プログレが好きになってドリーム・シアターのコピーバンドをやっていました。それはSuGの激しい楽曲には活かされている気がします。


yuji:僕もミーハーな部分があって、メタルっぽいのだとスリップノットとか、ヴィジュアル系を始めた頃はなぜかマキシマム ザ ホルモンに一番ハマって。そういうテイストを、結構バンドに入れたりしていましたね。あとは、90年代の終わりから00年代のJ-POPも大好きでしたね。DA PUMPやSMAP、あと野猿とか(笑)。ブラックミュージックのエッセンスが入ったポップな楽曲が、とにかく好きでしたね。


masato(Gt.):僕はhideさんの影響でギターを始めて、そこからリンプ・ビズキットとか結構ラウドな音楽に影響されるようになっていきました。特にバンドへのこだわりもなくて、アイドルソングでも「このフレーズいいな」と思ったらクレジットをチェックしますね。ちょっと前だけど、AKB48の「プラスティックの唇」(作曲:津波幸平)っていう曲がすごく好きでした。他にも色んな音楽からインスパイアされています。


Chiyu:僕は、入りはX JAPANとかGLAYなんですけど、そこからJELLY→とかパンク寄りになっていきました。3B LAB.☆Sとかも好きでしたね。


ーー今作もサウンドプロデュースは、これまで通りTom-H@ckさん?


武瑠:そうです。でも、今回は「メンバー全員が曲を書く」というルールを定めました。アルバムタイトルが「シャラップ」のスラングである『SHUDDUP』なので、「何に対しての『SHUDDUP』なのか?」をミーティングで出し合って。それを基に、H@ckさんから「このテーマは誰々」っていう風に、作る曲を割り当てられたんです。H@ckさんがOKを出すまで、まずは個々で曲を作るっていうところから始まったんですよ。それまで他のメンバーは一切聞かないし口も出さないっていう、かなり特殊な制作環境でした。個人的には途中段階のデモを聞くと、そこで歌詞のイメージが固定されてしまうので問題はなかったんですけど。で、デモが完成したら、アレンジの傾向をH@ckさんと話し合い、さらにそれを他のアレンジャーさんに渡してブラッシュアップしてもらうという、かなり段階を踏んだレコーディングでした。


shinpei:デモ出しの段階でリテイクが多かったのは大変でしたね。他のメンバーは1、2回のリテイクで仕上げてたんですけど、僕だけ4、5回やり直したんです。メロディの良さをもっと引き出すよう指示されたんですが、やっているうちに何が良いのか悪いのか、段々分からなくなってきて(笑)。それが今回のレコーディングでは一番大変な作業でした。


■「大声で『KILLしたい!』と叫ぶことでストレス発散になったら」


ーー「KILL KILL」のMVは、きゃりーぱみゅぱみゅなどを手掛ける増田セバスチャンですが、彼を起用した経緯は?


武瑠:彼がきゃりーちゃんをやる前からちょこちょこ交流があって。活動休止している時にもよく遊んだりしていたし、「いつか一緒にやりたいね」という話もしていたんですね。で、増田さんが昔出した小説(『家系図カッター』)が最近になって文庫化され、それを頂いて読んだら半分自伝的な内容で。コンプレックスを作品づくりへと昇華する考え方とか、すごく共感するところが多かった。彼が過激なまでにポップになっていった経緯というのが、僕らの今度の楽曲「KILL KILL」の、「必要悪をポップにKILLしたい」っていうテーマとも合っているのかなと思ったんですよね。そんな風に、まるでタイミングに導かれるような感じで決まっていきました。


ーーきゃりーぱみゅぱみゅのカラフルなMVとはかなり違い、ダークな映像世界になっていますよね。


武瑠:きゃりーちゃんのMVでは、最終的にカラフルなコーティングがされていますけど、実は根底に流れているマインドはかなりダークで、そこの部分は僕らとかなり近いと思うんですよね。セバスチャン自身バンドも好きで、いつか男性アーティストを手掛けたいと思っていたみたいで、彼自身も「夢が叶った!」っていう風に言ってくれましたね。男性アーティストを手がけたのは僕らが初めてだったみたいです、浜田ばみゅばみゅを除けば(笑)。


ーーこの曲の歌詞は、どのようにして浮かんだのでしょうか。


武瑠:最初に「KILLしたい」という言葉が浮かんだんですね。おそらくその時、誰かを「殺したい」って思ったんですよ。


yuji:さらっとヤバいこと言ってる。


武瑠:いやいや、もちろん妄想ですよ(笑)。今となっては、誰に対してそう思ったのか忘れてしまったんだけど。で、「殺したい」だとちょっとストレート過ぎるなと思って、もう少しシニカルでユーモアもあるフレーズってなんだろうって考えた時に「KILLしたい」というフレーズが思いついたんです。「KILLしたい」とかいうと「不謹慎」って言われるかもしれないけど、ライブハウスでみんなで大声で「KILLしたい!」って叫ぶことでストレス発散になったらいいなと思って。


ーーなるほど。


武瑠:それで、「僕ら何に対して『KILLしたい』って思っているのだろう?」と考えた時に、じゃあファンのみんなに募集してみようかって言う話になりました。予想以上に集まりましたね。


Chiyu:ツイキャスで歌詞を募集したんですけど、最初20分くらいでやめるつもりが、1時間ずっと鳴り止まなかったですね(笑)。


yuji:みんな、よっぽどストレスが溜まっているんですね(笑)。


武瑠:かなりいいフレーズがたくさん送られてきたので、そこからどうやって選んだらいいのかも相当悩みましたね。結果、選んだのが「自分だけ加工アプリするやつKILLしたい」って言うフレーズ。女の子同士で写真を撮って、自分の顔だけアプリで可愛くしてインスタにアップするやつ、マジむかつくみたいな。「女子高生川柳」とかあったら優勝しそうな、ザ・現代っていう感じのキラーフレーズですよね(笑)。


ーー「すぐに不謹慎とか言うやつKILLしたい」というのも、今っぽいフレーズです。


武瑠:それは僕が考えました。何やっても「自由」なのも、何やっても「不謹慎」って言うのも、どちらもつまらない世の中になってしまうと思っていて。そのバランス感は大事だし、そのギリギリのラインを狙おうと。そのギリギリのラインの真ん中に、でっかい軸があって、そこは叩かれようがへし折られようが、立ち続けていることが重要だと思うんですよ。それでアルバムのジャケットは、「たとえ骨だけになっても、中指を立てて反骨心を持ち続けよう」と言うメッセージを込めてああなりました。骨をモチーフとした作品ばかり作っている「髑髏職人」の人にイメージ図を渡し、それを基に描いてもらったんです。


ーー他の曲も、ネガティブなテーマを取り上げていても、最終的にはポップで前向きな方向へ持っていくものが多いですよね。


武瑠:歌詞もそうですし、サウンドにもそれが直結していますね。重かったりエグかったりするフレーズがあっても、そこにポジティブなメッセージやポップなメロディを乗せているんです。


ーー今回のレコーディングで、新たに試みたことはありますか?


武瑠:今回、初めて英語の発音をネイティブの女性にチェックしてもらいました。その人にはコーラスでも参加してもらったんですけど、そのおかげで声質のレンジがグッと広がりました。それもアルバム全体をカラフルな印象にしていると思います。


■「来年は武道館公演を絶対に実現させる」


ーー「FLY WYVERNS」は、今秋から始まるプロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」のパスラボ山形ワイヴァンズの公式テーマソングですが、この経緯は?


武瑠:昨年、僕が監督した短編映画『WE CRY OUT HELLYEAH』で、山形国際映画祭にてアーティストシネマ賞を受賞して、それで山形に行った時に現地のスタッフの方と話していたら、その日にワイヴァンズが優勝したみたいですごく盛り上がっていたんですよ。で、僕もバスケをやっていたし、「何か一緒にやれたらいいですね」みたいな話をしていたら、正式にオファーを頂いたんです。SuGには、架空のバスケットボール・チームの曲「39 Galaxy」を作ったり、その名前をファンクラブ名にしていたり、以前からバスケットボールとは所縁があって。それは、バスケットボールがストリートカルチャーの一つという認識が僕の中あったからなんですね。


ーー「ストリートカルチャーとしてのバスケットボール」は、まだ日本に浸透しているとは言えませんよね。


武瑠:そこを「B.LEAGUE」は一生懸命変えようとしているらしく、SuGもそこで貢献できたら嬉しいですね。


ーーでは最後に、SuGの今後の展望をお聞かせください。


武瑠:最初に話したように、10代の若い時にHYDEさんの武道館公演を見て、「あそこに立ちたい」と思ったので、来年はそれを絶対に実現させるため、それに向かって調整していきたいと思っています。