2016年11月02日 10:42 弁護士ドットコム
「ガッキー」こと、新垣結衣さん主演のドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」が、TBS火曜ドラマ枠史上最高の視聴率を記録するなど、話題になっている。
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原作は海野つなみさんの人気コミックで、新垣さん演じる家事代行業の森山みくりと、草食系サラリーマン・津崎平匡(星野源さん)との奇妙な共同生活を描いたラブコメディー。住み込みの家政婦と雇用主という関係の2人が、世間体や制度的な「お得」さから、「契約結婚」を選択するという内容だ。
契約結婚といっても、2人がするのは籍を入れない「事実婚」。作品では、みくりの住民票を移し、続柄を「妻(未届)」としていた。
事実婚の場合、法律婚のように配偶者控除や相続権などはないが、健康保険や年金は同様の扱いを受けられる場合が多い。企業によっては扶養手当がつくこともあり、別れても戸籍に「バツ」がつかない。ドラマでは、平匡が「健康保険や扶養手当を有効利用した場合の試算もしてみました」と言って、生活にかかる諸経費をプレゼンするシーンがあるが、扶養手当(家族手当)として1万8000円が計上されていた。
恋愛関係にない2人が手当などを当て込んで「事実婚」することに問題はないのだろうか。山岸陽平弁護士に聞いた。
「結婚しないで共同生活すること自体は法的に問題ありません。ただ、共同生活をしているだけで『夫婦の実体』があると言い切って良いかは疑問です。特に、本当は住み込みの家政婦さんのように契約で雇っている場合には、夫婦の実体があるとは言えないと思います」
山岸弁護士はこう説明する。では、「夫婦の実体」がない2人が扶養手当などを受けることに問題はないのだろうか。
「事実婚の場合に、『健康保険の被扶養者』や『扶養手当の給付』が認められるのは、夫婦間の扶養義務が前提です。ですが、番組での2人の関係は、『扶養』というより『雇用』ですよね。
夫婦の実体がないのに、あるかのように装って得をしようとするのは、ルール違反の可能性が高く、危険なことです。人を騙してお金を出させたということになれば、詐欺罪(10年以下の懲役)にあたるおそれもあります」
作品中の2人は結構危ない橋を渡っているようだ。
「とはいえ、ドラマの2人の場合、冷めた夫婦にはない『微妙な恋愛感情』があるようにも思えますので、今後『夫婦の実体』が伴ってくる可能性も否定できませんね」
「ちなみに、法律の世界では、『事実婚』よりも『内縁』という言葉をよく使います。社会的に夫婦と認められる実体があるのに、婚姻届を出していないという意味合いです。
事実婚を選ぶ理由としてよく知られているのは、夫婦は姓を同じにしないといけないので、『姓を変えたくない』というものです。しかし、『うまく行かなくても別れやすい』というのもかなりあるのではないかと思われます。
たとえば、フランスでは、事実婚のカップルにも戸籍上の夫婦に近い保護がされており、離婚が簡単にできないこともあって、事実婚を選ぶことが少なくないようです。国ごとに、結婚のメリットや離婚のしやすさには違いがあって、事実婚の理由にも影響しているみたいですね」(山岸弁護士)
ちなみに番組タイトルの「逃げるは恥だが役に立つ」はハンガリーのことわざ。2002年と古い統計だが、ハンガリーにおける20~40歳(当時)の事実婚の割合は10.8%で東欧諸国の中では割合が高いようだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山岸 陽平(やまぎし・ようへい)弁護士
金沢弁護士会所属。富山県出身。京都大学法学部・同法科大学院を経て弁護士登録。相続、離婚、交通事故、不動産、会社法務などへの取り組み多数。不貞慰謝料の請求を受けた方の代理人活動にも力を入れている。
事務所名:金沢法律事務所
事務所URL:http://bengokanazawa.jp/