2016年11月01日 10:42 弁護士ドットコム
男性同士のカップルの宿泊を拒否したとして、大阪府池田保健所は10月下旬、池田市内にあるラブホテルに立ち入り調査して、行政指導をおこなった。
【関連記事:「同級生10人から性器を直接触られた」 性的マイノリティが受けた「暴力」の実態】
報道によると、このカップルが10月上旬、池田市のラブホテルを訪れたところ、「男性同士だから」という理由で宿泊を拒否されたため、池田保健所に相談していた。
旅館業法や府条例では、例外をのぞいては「宿泊を拒否できない」とされている。一方で、ネット上では「ホテルにも営業の自由があるのでは?」といった意見もあった。今回の宿泊拒否の法的ポイントについて、原島有史弁護士に聞いた。
「まず、形式的な話から入りますと、旅館業法は、ホテルなどの営業者は一定の場合を除いて『宿泊を拒んではならない』と規定しています。
そのため、客の宿泊申込みをホテル側が拒否できるのは、法の定める宿泊拒否理由に該当する場合に限られます。この中に『同性同士での利用』は挙げられていません。
単に『男性カップルだから』という理由で、宿泊を拒否したのであれば、このようなホテル側の対応が旅館業法に違反することは明らかです」
一部ネット上では「ホテル側の営業の自由」を指摘する意見もあるが、どうなのか。
「旅館業法は、そのような『旅館営業の自由』に制限を加えるための法律ですから、法に違反する営業に対して行政処分がおこなわれるのは、ある意味で当然のことです」
法律上、男性カップルの宿泊を拒否することはできないのが原則ということだ。
「男性カップルがラブホテルを利用する際に問題となりうる拒否事由としては、宿泊しようとする人が
(1)違法行為または風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき(旅館業法第5条第2号)
(2)ほかの宿泊者に著しく迷惑をおよぼすおそれがあると認められること(大阪府旅館業法施行条例第6条)
の2つが考えられます。
ネット上では、男性同士がラブホテルを利用すると、窃盗や盗撮、または違法薬物を使用する可能性があるという意見がありました。
しかし、そのような抽象的な可能性は、男女カップルや女性カップルにもあるでしょう。ある特定のグループについてのみ、抽象的な危険性を強調して宿泊を拒絶するというのは、その人たちに対する偏見に起因するのではないかと思います。
また、『男女でラブホテルに行ったときに同性カップルと廊下ですれ違ったら困惑する』『ほかの宿泊者に迷惑なら拒絶もやむを得ない』という意見は、マイノリティ(少数者)の存在自体が、ほかの(マジョリティ・多数派の)宿泊客にとって迷惑だという発想です。
こうした発想は、ハンセン病元患者の宿泊拒否事件(2003年・熊本)と同じように、偏見と差別に基づく人権侵害といわざるを得ません。現代のわが国では、理解を得にくいでしょう」
原島弁護士はこのように指摘していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
原島 有史(はらしま・ゆうじ)弁護士
青山学院大学大学院法務研究科助教。LGBT支援法律家ネットワークメンバー。特定非営利活動法人EMA日本理事。過労死問題や解雇などの労働事件、離婚・相続などの家事事件などに関わる傍ら、LGBT支援の分野でも積極的に活動している。
事務所名:早稲田リーガルコモンズ法律事務所
事務所URL:http://www.legalcommons.jp/