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REOLが語る、“異質”のクリエイター3人がタッグ組んだ理由「精神的な部分で共鳴できる」

2016年10月31日 17:21  リアルサウンド

リアルサウンド

REOL(撮影=竹内洋平)

 れをる、ギガ、お菊という動画投稿サイトを中心に活躍してきた3人のクリエイターが集合し結成したユニット=REOL。ボーカリストで、パンチラインを連発する作詞家でもある「れをる」、刺激的なエレクトロでリスナーの耳を奪うサウンド・クリエイター「ギガ」、その世界観をビビッドに表現する映像クリエイター「お菊」。それぞれの視点から楽曲と向き合い、音、言葉、アートワーク、動画が一つとなった新しい音楽表現に、REOLは挑んでいる。


 今回、リアルサウンドではメンバー全員にインタビューを行った。3人はどのように出会い、ユニット結成に至ったのか。そして、10月19日にリリースされた1stアルバム『Σ』の制作では、3人のクリエイティビティはどのように共鳴し合ったのか。じっくりと話を訊いた。(編集部)


(関連:動画デビューからわずか3年 海外でも話題の次世代ボーカリスト・れをる、最新作の中毒性とは


・「私たちの強みは、音源からビジュアルまで作り込めるところ」(れをる)


――ついに「REOL」というユニットとしての1stアルバム『Σ』がリリースされました。動画投稿サイトを中心としたネットの音楽シーンに親しんだ人にはおなじみの3人ですが、今作を聴いて「何者なんだ!?」と気になっている音楽ファンも多いと思います。まずはユニット結成に至るまでのストーリーから聞かせてください。


れをる:高校生のとき、私はバンドを組んでいたんですけど、「卒業と同時に解散するだろうな」ということはわかっていて。そうしてひとりでできる音楽活動を探していたところで、インターネットで公開されているトラックを歌う、という文化を知ったんですよね。それで、もともと友だちだったお菊に「動画作ってくれない?」と頼みました。


お菊:私は、「じゃあ、動画の作り方調べまーす」という感じですね(笑)。


れをる:一緒にボカロ曲の二次創作を始めたんですよ。私も宅録の方法なんて知らなかったし、お菊も動画を作ったことなくて、「わっかんねー」みたいな感じでした(笑)。そうしてアップしていたもののひとつを、ギガが観て賞賛してくれて、知り合ったという感じです。


――ギガさんは、具体的にどの作品に惹かれたんですか?


ギガ:「magician's operation」(EZFG)という曲を歌っている動画を観て、声が魅力的だなと思い、気になってツイートもしましたね。


れをる:そのあと、偶然にもギガにミキシングを頼む機会があって、そこから話すようになりました。最初から息が合ったし、曲だけじゃなく、人としてもすごく個性的で面白いから、一緒にオリジナルの楽曲制作をやろうという話になったんです。


――良い意味で言うんですけど、皆さんきっと、誰とでもうまくやるタイプじゃないですよね。お互いリスペクトし合って、面白がっているという関係性が印象的です。


れをる:そうですね(笑)。やっぱり精神的な部分で合わないと、音楽性が合致してもぶつかっちゃうと思うんです。私達3人は、最初から空気感がすごく一致していたんですよね。


――3人で初めて制作したのは、2012年12月にニコニコ動画に投稿され、爆発的なヒットになった「ギガンティックO.T.N」ですね。3人がその才能をニコ動というプラットフォームに最適化した作品という印象で、もっと開けた場所でもスゴいことができそうだ、という感じがしました。


れをる:この曲がものすごいバズって、たくさんの有名な歌い手さんが歌ってくれたりして、「えっ、マジで!?」みたいな感じでした。私とギガが2人で作った曲にお菊が映像を付けたものが認められ始めて、「自己満足で終わっていないんだ」と思えるようになったんです。それで確信を持てたから、自主盤『No title-』の制作に踏み切れたという感じはありますね。


――ギガさんとお菊さんは、実際に一緒に制作をしてみてどんな手応えがありましたか?


ギガ:僕はラップみたいなことをやってみたいと思っていたんですけど、歌詞を書いてくれる方にどう伝えていいのかわからなくてなかなかできなかったんです。ですが、れをるとスカイプで話してると、ラフな感じでどんどんフレーズが決まっていく。これはいろいろできそうだな、と思いました。やっぱり、感覚を共有できるというか。


お菊:私はとにかく、2人が作ったものにかかわれる、ということがうれしかったです。今もずっとうれしいまま同じユニットの仲間としてやっています(笑)。


――同じくニコ動で大ヒットした「+♂」(2014年3月)も含め、本気で遊んでいる、という感覚が伝わってきます。


れをる:まさに、本気の部活みたいな感じでしたね。納期や期日が決まっていて、クライアントの要望に応える……という「仕事」ではなくて、何にも縛られず、好きなことを好きなときに、好きなようにやってきたので。楽しみながら、「全国大会に出ようね!」みたいな(笑)。


――で、実際に全国大会に出ちゃったという感じですね(笑)。今回のユニットについてですが、これまでもさまざまな作品でタッグを組んできたれをるさん、ギガさんだけでなく、動画を中心としたアートワークを手がけるお菊さんが名を連ねたことが、とても大きいと思います。ビジュアルも含め、トータルで世界観を提示できることで、手の届く射程がとても広いというか。


れをる:そうですね。聴覚的な部分より、視覚って情報量が多くて、揺るがないものとしてダイレクトに届くものだと考えています。だから、そこが変わってしまうのはダメだと思いました。これまで、れをるというものが広告塔になってきましたけど、ギガの音があり、お菊のアートワークがあってこそ評価していただいてきたわけで、ひとりでメジャーに出るのはなんか違うなと思っていたんです。3人で最初から感覚を共有して、音源からビジュアルまで作り込めるというのが、私たちの強みでもあるんです。


ギガ:そうそう。自分の音に似た、派手な世界観をお菊は作ってくれるので、アートワークは本当に大事です。


お菊:歌詞を見ながら音を聴いて、1回目で大体イメージができるんです。そこから2人とも相談しあって、骨子を固めていく事が多いです。基本的に、色から決まるよね?


れをる:うん、大体そうだね。


――3人がかかわった、れをるさんのソロアルバム『極彩色』(2015年7月)のときも、そうおっしゃっていましたね。どんな色になることが多いですか?


れをる:淡い色とかはあまりなくて、パキッとした赤とか青とか。音もビジュアルも含めて、基本的に何においても、みんなビビッドなものが好きなんです。役割が違うだけで、やっぱり3人ともセンスが近いんですよね。


・「顔を出すことで驚かせたかった」(お菊)


――今回のリリースの経緯についても聞かせてください。『極彩色』の制作時点から、本作を見据えていたそうですね。


れをる:そうですね。もう次のステップに移ろうと考えていて、『極彩色』は歌い手、二次創作というものへの区切りみたいな感じで作っていました。これまで、メジャーの契約のお話をいただいても断っていたんですよね。もし“やらされている”感が出てしまったら、作品が意図するものと相反するものになってしまう可能性もありますよね。そんななかで、さっき言っていた部活、本気の遊びみたいなことが私達の魅力だと思ってくれるところと奇跡的にも巡り会えたから、新たな出発地点になるこのアルバムを作ることができたんです。


――なるほど。それと同時に、ユニット名を決めることになりましたね。あらためて、アルファベットで「REOL」になったのは、どんな流れで?


れをる:やっぱり「れをる」というアイコンを追っていくと、必然的に3人の姿が見えてくる、というのが大きかったですね。私はボーカルだから、もちろん一番前に出ることになるのですが、実はフタを開けてみたらいつも2人がいる。実際、いろいろユニット名を考えてみたんですけど、全然しっくり来なかったんです。


――例えば、3人の名前の頭文字を取ってみたり……?


お菊:やめてー、恥ずかしいです!(笑)


ギガ:恥ずかしくて言えないです(笑)。


れをる:アナグラムとかも考えたんですけど、「れをる」がひらがなで、「ギガ」はカタカナで、「お菊」は漢字で、全然混ざらないんです(笑)。全然関係ない英語のユニット名をつけてみても、なじまないな、と思いました。結局、全員をREOLの一部と思ってもらうことが一番だと思ったんです。なるべくしてなった感はありますね。あと、ロゴのデザインのときに気づいたんですけど、RとEとLに縦線が3本、横線が3本入っていて、これも3人でひとつ、という感じがしていいなと思っています。


――おお! 暗号のようですね。そして本作『Σ』ですが、ギガさんの持ち味である派手なエレクトロを軸に、ロックやHIPHOPの要素も取り入れた濃い一枚になりました。どんな作品にしようと考えましたか?


れをる:驚きのある作品にしよう、というのが一番でしたね。タイトルの『Σ』も、ネットスラングというか、びっくりした顔文字によく使われる記号で(編集部注: Σ( ̄Д ̄;)のようなもの)。『No title-』のころから、顔を出すとしたら「あ、出てた」みたいな感じじゃなく、ドーン! と出したいと思っていましたし、映像も自分たちで作れる強みを活かして、ちゃんとやりたかったんです。「Σ」には数学で「和」という意味もあるし、ドンピシャだなって思いました。


ギガ:全作の『極彩色』は少し淡い感じだったので、今回は音でもバーン! と驚かせようと思いました。


お菊:アートワークについてもそうですね。リード曲の「ギミアブレスタッナウ」のMVやジャケットで顔を出すというのも驚かせたかったので、3人の中でかなり前から決めていました。


――「初の顔出し」という要素を抜きにしても、かなりインパクトのあるMVに仕上がっています。まさにれをるさんの七変化でカット数も多く、大変な撮影になったそうですが、制作はどんなふうに進んだんですか?


お菊:まずは私が絵コンテを描きました。


れをる:それを共同制作で入っていただいた監督の方に渡して、舞台装置や衣装を練っていきました。当日はスタジオに入ってから、40時間くらい寝ずにぶっ通しで撮影したんですよ。おかげで、自慢のMVになりました!


お菊:仕上がった映像を観て、ただただ「すごーい」って思いました(笑)。


ギガ:良い意味で狂っていて最高にクールだと思いました。他にはなかなかない作品だと思っています。


――楽曲自体は、どのように作っていったんですか?


れをる:私とギガで並行して曲を書いて、いいとこ取りをしていきました。「これはこっちのほうがいいね」とか相談しあって制作していきました。「DetaramE KiddinG」なんかは面白くて、けっこう早い段階から原型はあって、でも2人とも全然手を付けないまま放置していたんですよね。それで、私が夜中になんとなく触ってみたら、「これはヤバい曲ができる!」という感覚になって、一気に録音してギガに送ったんです。そうしたら、3秒後くらいにギガがスカイプで、「これ、ちょっとヤバいからこっちも録ります」と。その日、たまたまお菊がうちに泊まりに来ていたこともあって、本当に3人でガーッと作った感じなんです。これがグループで作ることの面白さだと思います。「RE:」もそんな感じで制作しました。


――化学反応で爆発的なものができる瞬間ですね。タイトル曲にもなっている「- FINAL SIGMA -」も、パワーを感じるインスト曲に仕上がっています。


ギガ:記号の形から音を想像して作りました。タイトルのまま、驚きのあるビビッドな曲になったと思っています。


――さて、心地よく転がりながら、突き刺すような鋭さのあるれをるさんの歌詞も、さらに磨きがかかっています。「ギミアブレスタッナウ」は、HIPHOPを昇華しつつ、“いい加減にしろ!”という本音感のあるリリックが魅力的です。これは、音と一緒に歌詞ができていく、という感じでしょうか?


れをる:この曲はメロディがギガ考案のものだったので歌詞は後付で、どうしても表現を譲れない部分だけわたしがメロディをつけて…という感じで進みました。「ギガンティックO.T.N」だとか、ギガとの共作の初期の作品からずっと、メロディと歌詞を同時出しするのがクセになっていて、決められたメロディに言葉を乗せていく作業の方が難しいんですけど、作曲が二人いる分いいとこ取りできるのが得手だなと思っています。


・「映像も曲も自分たちで作って、一番濃いものになった」(ギガ)


――ボーカルについても、例えば今作なら「コノヨLoading...」や「サマーホラーパーティ」など、可愛らしさを強調できそうな曲もありますが、やはり一筋縄ではいかないというか、イノセントなイメージもありつつ、グサグサと刺さるような印象があります。あらためて、れをるさんの歌声についてはいかがですか。


ギガ:すごくいいです。単純に可愛く歌っているのは想像できないんです(笑)。


お菊:うん、すごい声をしていると思ってます。


れをる:インターネットに動画を上げる前までは、外で話していると親に「あなたの声は通るんだから、変なこと話しちゃダメだよ」なんて言われて、「私の声って、通るんだな」くらいにしか思っていなかったんです。でも、ネットで「ボイチェン使ってる?」みたいに言われて、ちょっと人じゃないみたいな声に聴こえているんだな、ということに気づきました。客観的には、わりと高めで、幼な声だと思うんですけど、性格を知ってくれている人からすると、「可愛い曲とか歌いたくないんだろうな」と考えていると思います。実際そうで、尖った曲と化学反応しているから、この性格でよかったなって。最初のころは可愛い曲もチョロっと歌ってみたんですけど、やっぱり照れが出ちゃうんですよね(笑)。


――本質はロックボーカリストですよね。多くのクリエイターが参加した『極彩色』にもロックナンバーが揃っていたし、2014年12月にニコニコ動画にアップされた、人気歌い手のコラボ曲「Connecting」(halyosy)でも、れをるさんは最も勢いのあるロックなパートを担当していました。周りもそう捉えているのではないかと。


れをる:高校生のときにボーカルをやろうと思うきっかけになった先輩がいるんですけど、すごくぶっとんだステージングをする人だったんです。歌って巧さだけじゃないんだって、その立ち振舞に衝撃を受けて。そういう鬼気迫るというか、強く訴えるものがあるボーカリストが好きなんです。だから、根底にはロックな人への憧れがあるのかもしれません。


――今作もエレクトロ、ダンスミュージック的なサウンドのなかに、やっぱりロックなニュアンスが出ています。


れをる:そうですね。エレクトロ系だと、リズムの変化もロックほどないから淡々と歌うボーカリストの方が多いんですけど、逆にそういう人はいっぱいいるから、やってないところを攻めたい気持ちもあって。「ギミアブレスタッナウ」もそうで、変な歌い方をしてやりたい、みたいな欲は出ちゃいます。


――“中毒性”という便利な言葉でまとめるのもなんですが、繰り返し聴き、映像を観てしまう力があります。やっぱり、この3人だからできることなんでしょうね。


れをる:前に出るのは私でも、この2人についていかなきゃ、って必死なんですよ。


お菊:私もそうです。置いてかれないように必死についていってます。


ギガ:みんなスゴいと思います。


――お互いがお互いを引っ張り上げていると。


れをる:インターネットで活動しているアーティストは、いろんな人と組むことがよく見られますよね。普通、ボーカルがいろんなバンドを掛け持ちすることなんてなかなかできないけれど、例えばニコ動で言うと歌い手がいろんなボカロPと組んでも、何も言われない。そんななかで、私たちはなぜか3人で固まってやっていたという、異質な存在だったんです。「ギガの曲を歌っているのがれをるでよかった」と思われたいし、「その映像がお菊でよかった」と思われたい。3人ともそういう部分はあると思います。


――お互いにとって替えのきかない存在でありたいと。ニコ動でも、時おりそういう幸福な出会いがありますね。40mPと、動画クリエイターのたまさんとか。


れをる:そうですね。こういうのって、クリエイターとしての方向性が合っているだけだと思われるかもしれないですけど、やっぱり精神的な部分で共鳴できることがすごく大きいんです。そんな出会いを与えてくれるインターネットスゴい! って思います。もちろん、変な人もいるから注意ですけど(笑)。


お菊:そう、ツイッターに個人情報とかダメです!(笑)


れをる:でもリアルの場、例えば地元でかかわれる人間ってせいぜい100人くらいだけど、インターネットなら膨大な数の人がいるから、そのなかで本当に強く共鳴できる人と出会って、私たちみたいに音楽活動を一緒に始める人も増えていると思うんです。


――部活に例えると、地区選抜じゃなく全国選抜、世界選抜まで作れますね。


れをる:そうそう(笑)。可能性が大きく広がると思います。


――さて、これまで応援してきたファンはもちろん、今作はより多く音楽ファンに届いていくと思います。どんな気持ちで受け取ってもらいたいですか?


れをる:今までずっと聴いてくれている方は、その全員をちゃんと連れて次のステップに向かいたいと考えてきましたし、今後の作品も含めて、絶対に面白いものを見せられる、驚かせられると思っています。初めて聴いてくださる人は、世の中に音楽が溢れているなかで、こんな謎の新人を聴いてくれるなんて物好きな人だと思うので(笑)、やっぱり思い切り楽しんでもらいたいです。たくさんの人に聴いてもらうために音楽をやっているので、聴いてもらえるだけでうれしいし、見つけてくれてありがとう、と言いたいですね。


お菊:多分、私は2人の一番のファンだと思うんです。その感想として本当にいいアルバムになっているし、DVDにはファン目線でよろこばしいメイキング映像も収録したので、ぜひそれも観てもらいたいですね。絶対ハマりますよ!


ギガ:REOLになって映像も曲も自分たちで作って、一番濃いものになりました。ハマる人はものすごくハマると思うので、気をつけてください(笑)。(取材・文=橋川良寛)