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“小橋家の三女”でブレイク! 杉咲花、引っ張りだこの理由は“感度の高さ”にアリ

2016年10月31日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

 現在公開中の『湯を沸かすほどの熱い愛』。宮沢りえ演じる双葉のたくましく強い母親像が多くの人々の感情を揺さぶっているが、一方で注目を集めているのが、娘・安澄を演じた杉咲花だ。若手実力派女優として、数々の映画やドラマに引っ張りだこだが、本作では中野量太監督が安澄という役をあて書きしたという。そんな杉咲の魅力に迫る。


参考:石井杏奈が映画・ドラマに引っ張りだこの理由


 “味の素 Cook Do”のCMで回鍋肉を黙々と食べる少女として注目を集めた杉咲。ドラマ『夜行観覧車』(13年)では、受験の失敗や友人関係の間で揺れ動く複雑な感情を家庭で爆発させる少女の役を好演し、大きな話題となった。その後も、スタジオジブリ制作のアニメーション映画『思い出のマーニー』(14年)では、赤い眼鏡をかけた好奇心旺盛な女の子・彩香を、『トイレのピエタ』(15年)では、余命3か月を宣告された青年に対して、全身全霊で感情をぶつける女子高生・真衣を演じ、TAMA映画賞・最優秀新進女優賞、ヨコハマ映画祭・最優秀新人賞を受賞した。さらに連続テレビ小説『とと姉ちゃん』では小橋家の三女・美子を演じ、全国的にその名を知らしめることとなる。


 彼女の特徴として挙げられるのが、対峙する相手の感情を思う存分に引き出すということだろう。


 『湯を沸かすほどの熱い愛』でも、杉咲が宮沢と対峙するシーンでは、母の芯の強さや深い愛情が、強烈に伝わってくる。物語中盤、登校拒否で母とやりあうシーン、港で母から重大なことを打ち明けられた後のせめぎ合い……どちらも杉咲のあふれ出る感情を、宮沢がブレずに受け止めることにより、強くたくましい母親像が鑑賞者に印象づけられる。もちろん、そこには宮沢の圧倒的な演技力と安定感が根底にあるのは、言うまでもないのだが。


 こうした特徴は、他の映画にも多数みられる。『トイレのピエタ』では、RADWIMPSの野田洋次郎演じる宏が、余命3か月と宣言され、流されるままに生きているところに現れ、相手の感情なんてお構いなしに、心をえぐり傷つけながらも、その痛みを共有する高校生・真衣を演じた。未来は変わらないという絶望の中、確実に宏の生命の炎を宿らせる着火剤となった。


 杉咲の迫力に満ちた演技が、相手の感情やキャラクターをより強調する。中野監督は、杉咲について「とても感度の高い女優」と評しているが、こうした特徴は、彼女なりの役柄に向き合うスタンスが関係しているのではないかと思われる。杉咲は以前、準備の重要性を語っていたことがある。映画『愛を積むひと』では、長期の北海道ロケで役柄を自身に染み込ませた。『湯を沸かすほどの熱い愛』でも、クランクイン前から宮沢や妹役の伊東蒼と連絡先を交換し、家族としての準備をしっかり行った。『とと姉ちゃん』でも同じようなアプローチ方法で3姉妹の関係性を作っていったという。


 丁寧に役柄に寄り添うことにより、キャラクターとしての矛盾やブレが生じない。思う存分、目の前の相手や作品の世界観に没頭できる。こうした安心感が、対峙する相手としっかり呼応し、多くの相乗効果を生み出す。一方で、朝ドラを経験したことにより、短時間で状況にあった芝居を見つけていく瞬発力も学んだという。もともと「喜怒哀楽のスイッチの切り替えがうまい」という評価を制作サイドから耳にしたことがあったが、さらに自身が意識をすることで、今後より切れ味が増した演技が見られることだろう。(磯部正和)