日曜朝のメキシコシティは厚い雲に覆われ予選とは打って変わってどんよりとしていたが、昼前には雲が消え晴れやかな青空の下で午後1時の決勝を迎えることになった。気温は19度、路面温度は49度まで上昇している。
特殊なグリップ特性を持つアスファルトゆえにタイヤの扱いに苦労するドライバーが多く、決勝でのベストタイヤやタイヤマネージメント方法は路面コンディションによって変わるとみられているだけに、再びタイヤの扱いに頭を悩ませる決勝となりそうな予感が漂った。
予選後のパルクフェルメでフロアを交換したロマン・グロージャンは、予選で使用したものとスペックの異なるパーツへの交換であったためピットレーンスタートを義務づけられることとなった。FP3後にモノコックにクラックが見つかったため予選に出走しなかったジョリオン・パーマーは、2号シャシーに交換し車検を受けて21番グリッドからの決勝出場が認められた。
スタートタイヤ選択は予選の段階から分かれ、Q3進出組の中ではメルセデスの2台とフェラーリの2台がソフトタイヤ。そしてトップ10以下ではソフトが中心でナッセのみがミディアム、パーマーが新品のスーパーソフトを履いて決勝に臨んだ。
1コーナーまでの距離が長く、グリッド2列目のレッドブル勢がスーパーソフトを履いてるだけにホールショット争いに注目が集まったが、各車はスムーズなスタート。
しかし、ターン1のブレーキングで右フロントを大きくロックさせてしまい、ランオフエリアを大きくカットしてターン3でコースに戻る。ルイス・ハミルトンは「ヘビーにフラットスポットを作ってしまった!」とバイブレーションを訴えるが、チームは問題ないと判断する。
3位 マックス・フェルスタッペンはストレートの中腹で2位 ニコ・ロズベルグに並ぶがターン1の手前で引き離されてしまう。しかしターン1のアプローチでインに飛び込み、行き場を失ったロズベルグはたまらずターン2をインカットし2位を守る。この一連のアクションは審議対象となったが、スチュワードはお咎めなしの判断を下している。
その後方ではエステバン・グティエレスがターン2のアウト側にいたパスカル・ウェーレインをプッシュしてしまい、スピン状態に陥ったウェーレインはマーカス・エリクソンのマシンに接触しながらその場にストップしリタイアしてしまった。
これでセーフティカー導入となり、ダニエル・リカルドがピットインしてミディアムタイヤに履き替えてロングスティントを狙う。ペース的にはアドバンテージの少ないミディアムだが、それでもリカルドは後続を次々に追い抜いていく。
これで順位は1位 ハミルトン、2位 ロズベルグ、3位 フェルスタッペン、その後ろに4位 ニコ・ヒュルケンベルグ、5位 キミ・ライコネン、6位 フェリペ・マッサ、7位 セバスチャン・ベッテルと続く。
フェルナンド・アロンソはターン3の立ち上がりでカルロス・サインツJr.に幅寄せされ、「ターン3でトロロッソに押し出されたせいで3つほどポジションを失った。本当に信じられない!」と怒りを露わにする。これに対しサインツJr.には5秒ペナルティが科せられた。
ハミルトンは少しずつロズベルグを引き離していき、追い抜きが難しいサーキットだけにレースは膠着状態に入り、ベッテルは「(マッサが)ストレートが速すぎて抜けなくてスタックしている」と訴える。
13周目のターン4で仕掛けるがマッサが際どくブロックしベッテルは「バカげている!」と不満の声を上げる。同じく「抜けないから戦略で別の何かを考えてくれ」と訴えたグロージャンは11周目にピットインしてミディアムに交換する。
これを機にピットストップが始まり、13周目にフェルスタッペン、サインツJr.、マグヌッセンらがピットインしてミディアムに履き替える。これでフェルスタッペンはリカルドの後方に戻りアンダーカットを許してしまった。
翌14周目にはヒュルケンベルグとマッサもピットイン。スーパーソフトでスタートした各車が続々とミディアムに交換していくが、ソフトでスタートしたアロンソも16周目にピットイン、フラットスポットに耐えながら走っていた首位ハミルトンも17周目にピットへ向かいミディアムタイヤに履き替える。
20周目にロズベルグ、ライコネン、セルジオ・ペレスがピットイン。ベッテルだけがソフトタイヤで長く引っ張り、ミディアムのメルセデスAMG勢に勝るとも劣らないペースで走り続ける。
ハミルトンは「このタイヤはフィーリングはグレートじゃない」と訴えるが、ペレスがピットインして前が開けたレッドブル勢は、戦略の違いから22周目のターン7でリカルドがフェルスタッペンを先行させる。前がクリアになったフェルスタッペンはロズベルグとのギャップをじわじわと縮めていく。
1ストップ作戦をプランAとして狙うウイリアムズ勢はボッタスが「プランAで行けると思う」と無線で報告する。マッサの後方にはペレスが迫るが、ストレートが速いウイリアムズをなかなか抜けず、「抜けない! なんでこんなにピットストップを遅らせたんだ?」と不満を訴える。
29周目にピットインの指示をスルーした首位ベッテルが32周目にようやくピットインし、ミディアムに交換。ライコネンの後方6位でコースに戻った。しかし僚友ライコネンを始め多くのドライバーがミディアムタイヤのグリップが低くフィーリングが好ましくないと無線で不満を述べている。
これでハミルトンが再び首位に立ったが、ペースは2位ロズベルグの方が0.3秒ほど速い。そのロズベルグに1.5秒差まで迫った3位フェルスタッペンには、「後で仕掛けるために充分にギャップをとって走れ」とタイヤをいたわるよう指示が飛ぶ。空には雲が増えてきて路面温度がじわじわと下がっていき、ラップタイムは上昇傾向になる。
しかし気圧が低くスリップストリームの効きづらいメキシコではコース上でのオーバテイクは難しく、レースは再び膠着状態に。後方ではスタートからノンストップで走り続ける12位ナッセを先頭とした集団の中で、マクラーレン・ホンダ勢が抑え込まれて15位・16位に留まる苦しいレースを強いられている。ピットインのタイミングでエリクソン、パーマーに先行を許したためだ。
45周目、ライコネンが2回目のピットストップへ。50周目には2周目から走り続けたリカルドも耐えきれずピットに飛び込んでソフトに履き替える。その50周目にはターン1でサインツJr.を周回遅れにしようとしたロズベルグがタイヤをロックさせ、一気に差を縮めたフェルスタッペンが続くターン4でインに飛び込むが、止まりきれずオーバーシュートして2位奪還はならなかった。
一方のリカルドは新品のソフトタイヤの勢いでファステストラップを更新する走りを見せ、ヒュルケンベルグを余裕でパスして5位に戻る。
レースが残り10周を切る頃には、首位ハミルトンはマシンをいたわりながらも2位ロズベルグに7秒以上の差を広げて快走。3位フェルスタッペンにもロズベルグを追いかけるまでの力はない。逆に4位ベッテルがペースを上げて3秒以内に迫ってくる。さらに5位リカルドはベッテルよりも速いペースで前の2台を追う。
6位はヒュルケンベルグとライコネンの争い。マッサとペレスの9位争いは依然として続き、8位ボッタスは単独走行となった。11位のエリクソン以下は周回遅れとなっているが、60周目のメインストレートでバトンがDRSを使ってパーマーをかわし12位に浮上し、クリーンエアでパーマーより0.7秒速いペースで周回を始めた。
46周目に2ストップ作戦に切り替えソフトタイヤに履き替えたアロンソは、パーマーを追いかけ13位を取り返した。
67周目、ライコネンはヒュルケンベルグをターン4でパス。そして68周目の1コーナーではフェルスタッペンがタイヤをロックさせターン3までショートカットしてコースへ復帰。
これに対してチームからは「ベッテルに譲れ」と指示が飛び、ベッテルも「彼は僕を先行させるべきだ!」と訴えるが、フェルスタッペンは頑として譲らない。
この3位争いに5位リカルドまで加わり、70周目のターン4ではリカルドがインに飛び込んでタイヤをロックさせながらサイド・バイ・サイドに。タイヤ同士が僅かに接触する際どい場面だったが、2台はともに致命的な接触は避けてレースを続行。
しかし、これでフェルスタッペンに仕掛けるチャンスを失ったベッテルは怒り心頭のまま4位でチェッカードフラッグを受けた。しかしスチュワードは即座にフェルスタッペンに5秒加算ペナルティを科し、ベッテルが繰り上がりで3位表彰台を獲得。リカルドも4位へと繰り上がり、フェルスタッペンは5位となった。
首位ハミルトンはそのままリードを守り、71周のレースを終えて優勝。ロズベルグは手堅く2位を手にして、両者の選手権ポイント差は19点となった。6位以下は順位の変動もなく、ヒュルケンベルグ、ボッタス、マッサ、ペレスのトップ10となった。マクラーレン・ホンダ勢は11位エリクソンに追い付けずバトン12位、アロンソ13位でレースを終えた。
※ベッテルはレース後の10秒ペナルティにより5位に降格している。