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言い訳をしない新チャンピオン。国本とセルモのタイトル獲得までの『男気』ストーリー

2016年10月30日 21:21  AUTOSPORT web

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スーパーフォーミュラ第7戦鈴鹿でチャンピオンを獲得した国本雄資とチームタイトルを獲得したP.MU/CERUMO・INGING
スーパーフォーミュラ最終戦で見事、逆転チャンピオンに輝いた国本雄資(P.MU/CERUMO・INGING)。レース後の会見で喜びを語ったが、その背景には実は、国本とセルモならではの男気溢れるストーリーが隠されていた。

「長いシーズンが終わって、ホッとしています」と、シリーズチャンピオン会見でタイトル獲得の感想を話す国本。

「今年は開幕戦から2位を獲ることができて、2回目の岡山のレース2で優勝できて、やってきたことが少しずつ結果に表れてきているのが実感できたし、自分の中でも自信がついた。最後のレースも『絶対にチャンピオンを獲ってやる』という強い気持ちで鈴鹿に入ったし、そのためにたくさん準備をしてきてました」

「(今日の)レース1では今ままで一番のスタートとレースができて、レース2はスタートがうまくいきませんでしたが、周りの状況を冷静に見ながら自分のレースをすることができた。去年、悔しい思いをした分、本当に今のシリーズタイトルというのが、すごく重みがある感じがしますし、すごくうれしいです」

 国本が話すように、去年のスーパーフォーミュラはチームメイトの石浦宏明が51.5ポイントを獲得してチャンピオンに輝いた一方、国本はわずか7.5ポイントと大低迷。その差はあまりにも大きく、ワンメイクのスーパーフォーミュラではドライバー生命を左右しかねないほどのリザルトだった。

「たぶん、昨シーズンが終わったとき、来年、誰がチャンピオンになるかを予想したときに、誰も僕のことを予想する人はいなかったと思うんですけど、自分は『絶対にタイトルを獲ってやる』という気持ちがあったから、こうやって獲ることができたのだと思います」

■原因不明のトラブルに見舞われた昨シーズン

 いわば、今シーズンは国本の気骨溢れる信念が実った形となったが、実は昨年の国本のマシンは原因不明のトラブルに見舞われていた。石浦車とセットアップを合わせても同じようなパフォーマンスを出せず、国本はフィーリングで異変を感じ取っていたが、チームの方で調べても原因が見つからない。結局、そのトラブルは解決せずに、国本は不本意な成績のままシーズンを終えた。

 だが、セルモは今年も国本と契約を継続し、トラブルの真相解明に着手。シーズンオフのテストでは国本車に石浦が乗り込んで、原因を探した。石浦もすぐに自分のクルマとの違いを感じ取り、チームはファクトリーで国本車のクルマを何度もバラし、そしてついに、モノコックに亀裂の原因があることを突き止めた。

 だが、そのモノコックのトラブルを国本は一切、口外せずに、自分の中にしまい込んだ。

「昨シーズンは不甲斐ない結果で、すごく苦しいシーズンを過ごした。今年こそはと思って、シーズンオフからいろいろなことにトライして、すべてを変えなきゃいけないと思って挑んだシーズンでした」

 その国本の気持ちに応えるように、チームも男気を見せた。今年に向けて国本に新しいモノコックを準備することを決めたのだ。当然、ウン百万円の資金が必要になる。だが、国本の今年に懸ける強い気持ちに、チームが動かされた。昨年から今年に掛けての国本の変化を、同じドライバー目線で立川祐路監督が語る。

「国本は去年、石浦がタイトルを獲って、一番悔しい思いをしたと思うし、今年に懸ける意気込みが強いのはわかっていた。それをみんなでサポートしようと。去年は与えられた環境の中で普通に乗って走るように見えたのが、今年はもう『自分でなんとかする』という、そういう意識を感じたので、それに引っ張られて、チームのみんなが頑張るという相乗効果が生まれたのが良かった」

■最終戦レース1のスタートで、雄叫び

 そして国本は第3戦富士からモノコックを変えたニューマシンとともに、安定して上位フィニッシュを重ね、タイトルが掛かったこの最終戦までたどり着いた。12人という前代未聞のタイトル候補者の中で、国本が抜け出すことになった理由をひとつ挙げるとするならば、この最終戦でも見せた、国本の強い意思だ。

「レース1のスタートがなかったら、チャンピオンはなかったと思うし、それだけ、あのスタートに懸けていた。本当にプレッシャーのかかるあの場面で最高のスタートができて、『もってるな』と(笑)。それは冗談ですけど、そのスタートのために不安があった部分を、トヨタとチームが解決しれくれたのも、あの好スタートができた要因だと思います」

 レース1のスタートが、国本にとってのターニングポイントだった。立川も「オープニングラップを終えて戻ってきたときに、国本は雄叫びを挙げていた」とその時の状況を振り返った。

 そのレース1では、チームメイトの石浦にも男気を感じる場面があった。実は石浦はレース中に右リヤのアンチ・ロールバーが折れるという、まさかのトラブルが発生していたのだ。石浦はトップの2台からコンマ2秒遅れるペースで、序々に離されての3位。タイトル獲得が一気に遠のいてしまったが、レース後の会見でも、石浦はそのトラブルを言い訳にすることはなかった。

 国本と石浦の男気、そして、そのドライバーに応えるチーム。2年連続ドライバーズ・チャンピオンを生み出した背景には、お互いの厚い信頼関係があった。