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THE YELLOW MONKEYは“攻め”の姿勢選んだ 15年ぶりシングル『砂の塔』分析

2016年10月30日 16:11  リアルサウンド

リアルサウンド

THE YELLOW MONKEY『砂の塔』(通常盤)

■柴 那典のチャート一刀両断!


【参考:2016年10月17日~2016年10月23日のCDシングル週間ランキング(2016年10月31日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/js/w/2016-10-03/)


 今週のシングルランキングは、1位にSexy Zone『よびすて』、2位にTHE YELLOW MONKEY『砂の塔』、3位にアンジュルム『上手く言えない/愛のため今日まで進化してきた人間 愛のためすべて退化してきた人間/忘れてあげる』、4位にサカナクション『多分、風。』、5位にSUPER JUNIOR-YESUNG『雨のち晴れの空の色』という並びとなった。


(関連:音楽シーンの“90年代復活”は何を意味する? TAKUYA、イエモンらを例にレジーが考える


 やはりこの週の注目はTHE YELLOW MONKEYの15年ぶりとなるシングル『砂の塔』だろう。結果は初週9.5万枚を売り上げ2位。活動休止後にリリースされた2001年のシングル『プライマル。』が9.4万枚で3位だったのに比べるて、セールスも順位も上回った形になる。


 ちなみに、THE YELLOW MONKEY『砂の塔』がリリースされる2週間前、10月5日に事前予告なしで突如リリースされたHi-STANDARDの16年半ぶりのシングル『ANOTHER STARTING LINE』は、発売初週に13.6万枚を売り上げ、10月17日付オリコン週間シングルランキングで自身初となる首位を獲得。こちらも華々しい復活劇となった。


 実は両バンドには共通点がある。ハイスタは2000年8月に行われた『AIR JAM 2000』でのライブを最後に活動休止。そしてイエモンは、その半年後の2001年1月に初の東京ドーム公演となるワンマンライブ『メカラ ウロコ・8』を最後に活動休止している。90年代末に絶頂期を迎え、共にモニュメンタルなライブを行い、活動を休止したわけである。


 その後にメンバーが精力的な活動を繰り広げ、音楽シーンの前線に立ってきたのも共通している。イエモンの活動休止後、吉井和哉はソロとして7枚のアルバムをリリース。大規模なアリーナやホールツアーを繰り広げてきた。菊地英昭、廣瀬洋一、菊地英二もそれぞれのプロジェクトでミュージシャンとして活躍してきた。一方、ハイスタの活動休止以降、横山健はKen Yokoyamaとして、また<PIZZA OF DEATH RECORDS>の代表取締役社長として00年代以降のパンクシーンを支えてきた。難波章浩もNAMBA69として活躍し、恒岡章も数々のバンドでドラムを叩いてきた。だからこそ、2011年のハイスタの復活とAIR JAMの開催は大きなニュースになったし、2016年のイエモンの再結成も大きな衝撃と喜びを持って受け入れられたわけである。


 ちなみに、そういう経緯を辿ったバンドとしては、1993年に解散、2009年に再結成したユニコーンのあり方も近いと言えるだろう。彼らも、90年代後半から00年代の奥田民生のソロ活動を経て、再結成後に全盛期を更新するような活動を今に至るまで続けている。


 前線に立ち続けてきたからこそ、バンドの存在が「伝説」として語り継がれ、華々しい復活劇を果たすことに成功しているわけだ。


 というわけで。ここからはTHE YELLOW MONKEY『砂の塔』の楽曲について語っていこう。


 まず最初のポイントは、バンド復活のストーリーをテーマにした「ALRIGHT」をあえてカップリング曲におさめ、TBS系連続ドラマ『砂の塔~知りすぎた隣人』の主題歌として書き下ろしたタイアップ曲を表題曲にしたということ。僕としては、これは大正解のやり方だったように思う。再結成を喜ぶファンは沢山いる。しかしバンド側が狙ったのは、その熱気を「閉じた」ものにせず、彼らのことを知らない層や、なんとなく名前だけを知ってるくらいの若い音楽ファンに届けることだった。だからこそ、今回のシングルリリースにあわせては「ザ・イエロー・モンキー黙認 『バンド?』『お茶?』緊急大調査!」なる企画をウェブ上(http://yemon-chousa.jp)で行い、「イエモン、入門。」(http://yemon-chousa.jp/nyumon)なる特設サイトも作ったわけだろう。


 バンドサウンドにこだわり、イントロのギターリフからブルースやハードロックの骨組みを活かして展開していくストレートなロックナンバーの「ALRIGHT」。この曲は「THE YELLOW MONKEYが15年ぶりに出すならこれしかない」という真っ直ぐな楽曲だった。


 それに比べると、「砂の塔」はバンドらしさを押し出した楽曲ではない。イントロではストリングスの印象的なフレーズが耳をひく。マイナーキーの進行で、サスペンス・ドラマの主題歌らしい不穏なメロディがつづられていく。かなり歌謡曲テイストの強いサウンドだ。実際、このストリングスアレンジは昭和の歌謡曲の時代を支えてきた作曲家・編曲家の船山基紀の手によるもの。吉井和哉にとっても敬愛する存在であり、KinKi Kids「薔薇と太陽」でもコラボレーションを果たしたことで生まれた縁ということで、抜群のケミストリーを生み出している。


 また、歌詞においても、かなりドラマに寄り添った内容となっている。<そこに住めばどんな願いも叶うと言われる愛の城 だけどなぜかみんな笑顔はハロウィンのパンプキン>という歌い出しも、サビの<幸せも裏切りもいつもそばにあるよ 上に行くほど傾いた塔 安定はしない>というフレーズも、タワーマンションを舞台に人間模様の裏側を書いたドラマを思わせるものだ。ただ、そこでドラマだけでなくバンドの物語や人生に深いところでリンクするような言葉を選んで歌っているのも吉井和哉の作家性と言えるだろう。


 様々な意味で、THE YELLOW MONKEYにとっての「攻め」の選択肢となったのが「砂の塔」だったのではないかと思う。(柴 那典)