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東京の味を訪ねて歩く、美味な街歩き案内

2016年10月30日 00:02  オズモール

オズモール

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【毎週土曜10:00配信】
コミック、エッセイから、絵本、レシピ本まで、ページを読み進めると思わずグーーッとお腹が鳴ってしまう、食欲刺激系の本を、“食”にまつわる本棚プロデュースやイベントなどを通じて、いろんなおいしいを提案・表現する〈COOKCOOP〉のブックディレクター・鈴木めぐみさんがピックアップ!





◆COOKCOOP 鈴木めぐみさん選

『焼き餃子と名画座 わたしの東京 味歩き』

東京は広い。そして、風情ある下町、ツーリストや若者で賑わう都会、サラリーマンやOLさんが集まるオフィス街など、それぞれいろんな表情を持っているのがおもしろい。

それと関係しているのかどうかは定かではないけれど、この『焼き餃子と名画座 わたしの東京 味歩き』には、日本橋のフルーツサンド、新橋のとんかつ、銀座のハイボール、幡ヶ谷の水餃子…など、おいしそうなものが次々と登場する。日々の生活に根ざした料理や食をテーマにした小気味よい文章にファンが多い、エッセイスト・平松洋子さんの作品だ。タイトルに“味歩き”とあるように、平松さんがふだんから好きで通うお店を中心に、その土地の名店や老舗を訪ね歩くエッセイである。ぱらぱらとページをめくっただけでもお腹がぐうぐう鳴り出すのだけど、この本のおもしろみはそれだけにとどまらない。平松さん独特の視点で描かれた、目的のお店までのアプローチや街の風景、店主やお客さんの様子。表現ひとつひとつが作用しあい、街の顔が生き生きと浮かび上がってくる。そうして、その店へのわくわく感がふくらんで、いますぐ街へ飛び出したい衝動に駆られるのである。

昔から親しまれてきたものや古いものが消え、新しいものが次々と作り出される、いまの東京。味気ないなと感じることもあるけれど、それを繰り返しながら街は更新され変化を遂げることで、またおもしろいなにかを生み出すのかもしれない。この本を通してその楽しさを知ることができたなら、これからも街と末永く付き合っていけるような気がする。





『焼き餃子と名画座 わたしの東京 味歩き』 平松洋子著 新潮文庫刊853円




鈴木めぐみ

食を中心とした雑誌の編集者を経て、料理本専門書店〈COOKCOOP〉のブックディレクターに。現在、実店舗は持たず、ブックセレクトや食関係のイベントの企画運営に携わっている。