東京・六本木ヒルズにて開催されている第29回東京国際映画祭において、細田守監督と堤大介監督によるスペシャルトーク&『ダム・キーパー』『ムーム』の上映が行われた。司会はアニメ・特撮研究家の氷川竜介。
2人によるトークはアニメーション特集「映画監督 細田守の世界」におけるプログラムのひとつ。堤はアメリカ在住で、この日のために来日した。堤はブルースカイ・スタジオやピクサーなどでアートディレクターを務めたあと独立し、ロバート・コンドウと共にトンコハウスを設立。2014年に18分の短編アニメーション『ダム・キーパー』がアカデミー短編アニメ賞にノミネートされた。
まずは『ムーム』と『ダム・キーパー』の上映。とある湖に流れ着くガラクタたちについている“思い出”を空に返す仕事をしているムームを描いた『ムーム』は精巧な3DCGで描かれている。一方、街を暗闇から守る仕事を父から受け継いだブタの少年の友情を描いた『ダム・キーパー』は油絵で描かれたような独特のルックだ。
細田と堤の出会いは、まだ堤がピクサーに在籍していた2012年のこと。細田ら数人の関係者でピクサーを見学ツアーを開催し、映画『おおかみこどもの雨と雪』をピクサースタッフに向け上映した。
細田作品は伝統的な2D作品、ピクサーは3DCGを主軸とした作品が主体だが、アニメーションには多種多様な表現方法があるべきだという考え方、作品に合った表現を模索していくという共通した姿勢があるようだ。
さらに、堤からは“主体性”に関するトピックも。作品づくりにおいて、流行など“外”を見て何を作るか決めるのも間違いではないが、内側にあるものを見つめ、自分にしか伝えられないものを表すことが大切だと語った。
同時に、自身の内にあるものから作品を構成していくと袋小路になることもある。その際には客観的意見が必要だ。堤はロバート・コンドウと共同監督体制でアニメーションを制作している。このメリットについて「ロバートがアイデアを出す時は僕がセラピストの役割を果たすことも」。互いにブラッシュアップをかけられる良さがあるという。
質疑応答では来場者から興味深い質問も飛び出した。ライティングの面で新海誠監督の大ヒット映画『君の名は。』についてどう思うか聞かれると細田は「『君の名は。』はまだ見ていませんが、これまでの新海監督作品でいえば光の演出がどうというより、あれそのものが新海監督のトーン&カラーなのだと思う」と回答。劇場で同作を楽しんだという堤もこれに同意見だった。
加えて「アイデアに対して時に厳しい意見もあると思う。腹が立ったり嫌になることは?」という質問も。堤は、まずはそれに耐えらえる強さ、どうすればその意見を取り入れ良くしていけるかを考えられる能力が必要だという。
細田は「作り手は常にそうしたものにさらされている」。厳しい意見も取り入れることで作品に磨きがかかった経験を踏まえ「意見を取り入れることは絶対に必要」としながらも、必ずしも全ての意見が作品を良くするものではないこと、時間を有効に使っていい意見を反映させていくことが重要だと話した。
第29回東京国際映画祭は11月3日(木)まで。アニメーション特集「映画監督 細田守の世界」では『時をかける少女』『作家性の萌芽 1999-2003 (細田守監督短編集)』や、ドキュメンタリー『プロフェッショナル 仕事の流儀 アニメーション映画監督 細田 守の仕事“希望を灯す、魂の映画”』の上映も予定されている。