レース1、レース2の予選で見事Wポール獲得を達成した石浦。明日の決勝で逆転タイトルなるか。 スーパーフォーミュラ最終戦鈴鹿、チャンピオン争い大きなポイントとなる予選は、ふたつの驚きの展開となった。まずは予選Q1(レース1の予選)、そして予選Q3(レース2)の両方でトップとなった石浦宏明(P.MU/CERUMO・INGING)の速さ。そしてもうひとつは、ランキングトップの関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)がレース1、そしてレース2の両予選で13番手スタートと、まさかの低迷に陥ってしまったことだ。
石浦の速さは、昨年の好調ぶりを振り返ればまったく違和感がないが、前戦、第6戦SUGOの予選10番手、決勝16位という大低迷からは驚異の巻き返しになる。
「SUGOは僕のスーパーフォーミュラで一番悪いレース。チャンピオンシップは厳しいと思っていたので、急にチャンスが来て驚いています」と石浦本人が会見で話すように、予想外のリザルト。
それでも、開幕戦の鈴鹿では黄旗中のアタックでタイム抹消となり、Q1ノックアウトとなってしまったが、鈴鹿での速さはもともと備わっていた。その上で今回、石浦はほぼ完璧なアタックをQ1,Q3で決めたのだ(Q3ではシケインの立ち上がりで若干リヤを滑らせてしまったという。それがなければ1分36秒台でレコードタイムの可能性も……)。
前回のSUGOの敗戦から、どのように今回の鈴鹿に向けて準備をしてきたのか。石浦は「鈴鹿で他のドライバーたちがどうやって走っているのかなと、開幕戦の鈴鹿のDVDを結構、繰り返し見て研究しました。やはり同じドライバーが見ると、走り方もタイヤ1本分の走行ライン、ギヤ比も細かい部分なんですけど、全然違う部分が見える。クルマのセットアップの方向性とか、鈴鹿はどういう方(のセットアップ、走り方)がタイムが出るのかなとか真剣に見てきました。その効果があったのかなと思うとうれしいですね」と予選を振り返る。
ライバル研究が今回の石浦ドライビングや考え方にヒントを与え、今回の2ポールにつながったという訳だが、それでは大不振に陥ったSUGOからさぞかし大幅にクルマのセットアップを変えたのだろうと推測したが、実際には「……変わっていないですね」と石浦が話し、もう一度驚かされることになった。
「SUGOの不振の原因はわかっていません。でも、エンジニアが『SUGOは何かがおかしかったから、忘れよう!』と。それが良かったのだと思います。悪かったSUGOでいろいろセットアップを試したことを引きずったままで鈴鹿に来ていたら、たぶん、ダメだったでしょう。『水に流そう!』と、エンジニアがひと言、言ってくれたお陰で、僕らの調子が良かった頃に戻ることができた」
「それでももちろん、SUGOでのインパルの走りを見て参考になった部分のセットアップを準備はしてきましたけど、鈴鹿の走り始めから(変えなかった方の)バランスが良かった。でも、僕も準備しきたセットアップをやってみたくて、試したら、それはあんまり良くなくて(苦笑)。結局、セットアップを戻して走りました。調子がいい時って、そういうものなんですよね」。
速さを取り戻した理由は、意外にも「忘れる」という極めてシンプルなマインドチェンジだった。石浦とチームは、一丸となってSUGO戦を忘れることで、一時のスランプを脱出することになったというわけだ。
■ランキングトップの関口の低迷、バンドーンの予選
一方、その石浦と真逆の形になってしまったのが、関口とインパルだった。フリー走行では4番手と一見、好調のように見えたが、ニュータイヤを装着してからのタイムアップがライバルほど伸びず、まさかの13位。関口担当の柏木良仁エンジニアも「原因がつかめていません」と首を傾げる。
「SUGOの調子が良かったので、セットアップは基本的には変えていません。SUGOで足りなかった部分のアジャスト程度で持ってきています」と柏木エンジニアが話すように、SUGOでの関口車は2位以下に1周1秒以上の驚異的なペースで周回を重ねる速さを見せたが、同じベースのセットアップで、ここまで差が出てしまう原因が特定できない。
セットアップを変えなかった石浦、関口とは対称的に、ストフェル・バンドーン(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)は比較的、積極的にセットアップを変えて臨んだようだ。バンドーン担当の杉崎公俊エンジニアが話す。
「SUGOからはセットアップを変えて鈴鹿に来ました。予選でもQ1が良くなかったので、メカニカルグリップと空力のグリップのバランスを修正してQ2、Q3に臨みました」
Q3でのバンドーンは惜しくも0.005秒石浦に及ばず、2番手。セクター1、セクター2は石浦よりも速いタイムをマークしていたが、デグナーから130R手前までのセクター3で石浦の遅れをとってしまい、ここが敗因となってしまった。
「クルマのバランスは良かったですので、おそらくですが、バックストレートの風向きがQ1とQ2の間で変わってしまったのが影響しているのだと思います。その影響がなければ、ポールのタイムは見えていたので悔しいですね」と杉崎エンジニア。
サーキットの違い、気温、路温、風向き、サポートレースの後の路面のラバー状況などなど、いろいろ原因が推測されるが、そのわずかの変化が、ここまで順位に大きな影響を与えてしまう今のスーパーフォーミュラの難しさが、改めて見えた予選となった。
明日の決勝に向けては、関口陣営としては「速さを取り戻すために、チャレンジしないわけにはいかない」(柏木エンジニア)と、クルマのセットアップ、戦略含めてアグレッシブなトライを宣言。インパルのチーム特性上、無給油は考えられないが、タイヤ交換が義務づけられているレース2ではギリギリ無給油での走行も可能というウワサもあり、展開が複雑になりそうな気配だ。
また、P.MU/CERUMO・INGINGでは石浦とともにチームメイトの国本雄資もレース1で2位となり、チーム初のフロントロウ独占でのスタートとなった。両者とも僅差でチャンピオンを争っている状況だが、立川祐路監督によると、まずは「コース上では自由に戦ってもらう」という方針で臨むという。
もちろん、レース1の結果次第にはなるが、さらに僅差となった状態では立川監督がどんな決断を下すのか。レース2のグリッドでPPの石浦、3番手の国本へ、立川監督がどのように接するのか。ドライバー、チームの緊張感が今から伝わってきそうだ。