晩婚化・晩産化の影響で、出産適齢期を逃しやすい現代女性。いざ「産もう」となった時には妊娠力が低下し、授かることが困難となっているケースも多い。
特に日々老化してゆく卵子の問題は深刻で、自然妊娠率は35歳で18%、40歳で5%という切実なデータも出ている。そこで注目されているのが、卵子凍結の技術。現段階での状態の良い卵子を採取し、それを凍結保存しておくことで将来の妊娠の可能性を残しておくというものだ。(文:みゆくらけん)
1000人を超える健康な女性が卵子を凍結保存する現状
凍結した卵子を使う際は、解凍後に体外受精させて子宮内に戻す。「今は無理だがいつかは産みたい」という願いを持つ女性にとっては期待の新しい選択肢だ。
そんな卵子凍結の実態を掘り下げたのが、10月26日のNHK「クローズアップ現代+」。番組取材によると、現段階で少なくとも全国の44の医療機関で、1005人の健康な女性が卵子を凍結保存していたことがわかった。
何十万という高額な費用を支払ってでも、「少しでも若い時の卵子を取っておきたい」と望む女性。しかし卵子凍結は夢のタイムカプセルではなく、心身への負担やリスクも大きい。日本産科婦人科学会は、健康な女性の卵子凍結を「推奨しない」見解を発表している。
懸念はおもに3つ。「卵巣が傷つき、将来の不妊につながる恐れがあること」と「高齢出産を助長すること」、そして「子どもへの影響がまだ分かっていないということ」。それでもリスクを背負って決意する人がいる。番組ではアパレル会社社長(40歳)を取材した。
「仕事が第一優先。仕事が落ち着いたら子どもを作ろうと思っていたら、この歳になってしまって、もう後がないから焦る。残された道は卵子凍結。子どもが欲しいという夢を叶えるために、できる限りのことはやりたい」
総合職の40歳独身女性「凍結した卵子は保険か、隠し球」
大手金融会社で総合職として働く40歳独身の女性も、卵子凍結を実行した。
「年齢が45歳になったとき、『45歳の卵子じゃなくって40歳の卵子がある』と言える。凍結した卵子は保険か、隠し球です」
凍結までの8日間は仕事の合間にクリニックに通い、ホルモン注射を打ち続ける。注射は体に負担がかかり、卵巣が腫れて鈍い痛みに襲われる。そして手術。ストロー状の特殊な針を膣から貫通させて、卵巣まで刺し込み、卵子をひとつずつ吸い出してゆく。全身麻酔をしているとはいえ、見ているこちらが緊張したシーンだった。
かかった費用は約100万円。肉体的にも経済的にもここまで大変な思いをして受けたのだから、将来良い結果が出ることを祈りたい。しかし、凍結した卵子を使っての妊娠・出産はなかなか実を結びにくいというのが現実だ。
番組内で紹介されたあるクリニックでは卵子を凍結した32人中、出産まで行き着いたのは1人。解凍することで質が低下し妊娠に結びつかなかったり、数年経っても本人の出産準備が整っていなかったりするケースも多いようだ。このクリニックでは当初20代から30代前半の女性を卵子凍結の対象と想定していたが、実際は違ったという。
「希望だけ与えて現実は厳しい」と中止する医師も
「40歳を前に、駆け込み寺のように集まってきたというのが事実」――。そう話す医師は、出産につながりにくい卵子凍結を「希望だけ与えて現実は厳しい」と考えて中止した。採卵時の年齢が高くなるほど体への負担やリスクは増え、妊娠率が低下するのは当然なのだ。
番組からみえてきたのは、女性たちが相当追い込まれているという現実だ。卵子凍結はまだ新しい技術で、それによる出産は全国でもまだ12人しか出ていない(番組調べ)。前例が少ないため、生まれてくる子どもへの影響などが不安だという声もある。
しかしそれでも、様々なリスクを背負ってでも「産みたい」と覚悟する女性たち。ネットには番組を視聴した人たちから、
「卵子を凍結で老化を止めることが可能だとしても、子宮や身体の細胞の老化は止められる訳ではない。どこまでのリスクを負わなければならないのかよく考えた方がよい」
「キャリアのために卵子凍結ってのは違うだろ。出産しても子育てしてもキャリアアップできる社会制度にしないといけない」
など多数の声が上がっていた。