2016年10月29日 10:02 弁護士ドットコム
子どもが子どもに対してわいせつな行為をした場合、加害者に対してどのような法的責任を問えるのでしょうか。13歳の娘が同級生に襲われた、という男性から、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに相談が寄せられました。
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男性によると、中学2年生の娘(13)は、下校途中に同級生の男子(13)に待ち伏せされ、「駐車場に引きずり込まれ、押し倒され、キスをされ、胸を触られ、下半身を下着の中から触られ」たということです。偶然、男性の妻(母親)が現場を目撃し、加害者の顔は確認できましたが、逃げられてしまったといいます。
男性はその後、被害を警察に通報。警察が加害者を呼び出して事実を確認したところ、犯行を認めたそうです。男性としては、加害者に刑事罰を科すことを望んでいますが、13歳という年齢のため、「法律上できない」と警察から言われたといいます。
13歳の少女にわいせつ行為をした13歳の少年に対して、どのような法的責任を問えるのでしょうか。浅野英之弁護士に聞きました。
● 少年に刑事罰を科すことはできる?
13歳以上の男女に対して、暴行または脅迫によってわいせつな行為をした場合には、「強制わいせつ罪」(刑法176条)により、「6月以上10年以下の懲役」が科されます。今回のケースで、被害者は13歳の少女ですので、無理やり押し倒してわいせつな行為を行った場合には、加害者は「強制わいせつ罪」に問われます。
しかし、加害者が未成年の場合には、「少年」とされ、刑事処分が相当とされる重大な事件について「逆送致」がなされない限り、刑事罰は科されません。「逆送致」とは、家庭裁判所が検察から送致された少年事件を、家庭裁判所で審理するのではなく、刑事処分が相当として検察に再び送致することです。
少年事件の場合で、逆送致がなされないケースでは、逮捕、勾留の後に鑑別所に入れられ、その後、家庭裁判所での少年審判によって処分が決められるのが一般的な流れです。この場合、事件が重大な場合には、少年院において更生を行うこともありえますが、これは「刑事罰」ではありません。また、「前科」ではなく、「前歴」と呼ばれます。
したがって、警察の言うとおり、刑事罰とはならない可能性が高いですが、重大な事件の場合には、逆送致されて刑事罰が科される例もあり得ます。
● 加害者の親の民事責任を追求できる可能性はあるが...
加害者が子どもの場合、被害者が「法的責任」を追及する際には、民事上の責任と刑事上の責任を検討します。
親に責任追及をしたいというお気持ちは非常によく理解できます。しかし、道義的な責任はともかくとして、たとえ親子といえども、他人の行為についての法的責任を問うことは容易ではありません。
まず、刑事上の責任を問うことはできません。というのも、刑事上の責任は、その人の行った犯罪行為についての罰ですから、加害者自身が負うべきものです。
これに対して、民事上の責任については、次の通り、親の責任を追及できる可能性があります。
犯罪行為は、民事的には不法行為にあたります。不法行為によって被害者が損害を被った場合には、加害者に対して損害の賠償を請求できます。そして、不法行為の中でも、民法714条では「責任無能力者の監督義務者の責任」が定められています。これがまさに、加害者が未成年であるなど、責任追及をできない場合に、親の責任を追及するための規定です。
ただし、民法714条で定められているのは、「責任無能力者」の監督義務者の不法行為責任です。民法上の「責任無能力者」とは、小学校卒業程度を一応の目安とするといわれています。未成年が加害者であればすべてこの民法714条によって親の責任を追及できるわけではありません。
したがって、今回のケースでは加害者が13歳の少年ですから、「責任無能力者」だとして親の民事上の責任を追及できるかどうかは、非常に微妙なケースだといえます。
なお、加害者である子どもが「責任無能力者」ではなかった場合でも、その犯罪行為について、親に具体的な監督義務違反がある場合には、民法709条によって、親自身の不法行為責任を問うことができるケースもあり得ます。
【取材協力弁護士】
浅野 英之(あさの・ひでゆき)弁護士
離婚・交通事故・刑事事件・相続など個人のお客様のお悩み解決実績、相談件数を豊富に有するほか、労働問題を中心に多数の企業の顧問を務める。
東京都新宿区、四ツ谷駅至近にて、浅野総合法律事務所を設立、代表弁護士として活躍中。
事務所名:浅野総合法律事務所
事務所URL:https://office.bengo4.com/tokyo/a_13104/o_34695/