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Official髭男dism藤原聡 ×「鷹の爪」FROGMANが語る、創作でのし上がるために大切なこと

2016年10月28日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Official髭男dism藤原聡 ×「鷹の爪」FROGMAN(撮影=三橋優美子)

 人生に寄り添うポップな音楽で支持率上昇中の「髭男」ことOfficial髭男dismが、1stEP『What’s Going On?』をリリース。収録曲「黄色い車」が、人気アニメ『秘密結社 鷹の爪 GT』(LINE LIVEなど)の10月からの新エンディングテーマに起用されている。島根県を拠点にしていた髭男のボーカルを務める藤原聡は鳥取県生まれ。方や、「鷹の爪」を生み出したFROGMANは島根在住時にCGクリエイターとしてデビューしたということで、山陰地方という繋がりもある両者。今回はそんな二人の対談をセッティングし、お互いの魅力や作品のコンセプト、今気になる音楽や、業界でのし上がるために大事なことまで、たっぷり語ってもらった。(猪又孝)


(関連:Mr.Childrenやスピッツを彷彿? Official髭男dismがオーバー30にも響く理由


・「シナリオ、言葉をすごく大切に考えている」(FROGMAN)


ーー『秘密結社 鷹の爪 GT』のエンディングテーマになった「黄色い車」は、FROGMANさんが今回のEP収録曲すべてをお聴きになった上で選んだそうですね。


FROGMAN:僕は映像で使う音楽にこだわってるんです。僕が高校生の頃は、イカ天(「三宅裕司のいかすバンド天国」)ブームで、猫も杓子もバンドを組んでいて、僕もバンドをやってたんですね。もっと遡ると、僕は兄貴が6人いて、それぞれに好きな音楽を聴いていたんです。


藤原:どんな音楽ですか?


FROGMAN:一番上の兄貴はビートルズにハマってて、僕が幼稚園の頃からビートルズが家の中で流れていたから、音楽は生活の中にあってしかるべきという感じだったんです。でも、映画業界に入ってみると、音楽に対して意外にお粗末だなという印象があって。もちろん大人の事情っていうのも考えなきゃいけないんだけど、だからといっておざなりに済ませられないという思いから、「鷹の爪」で使う音は自分で選ばせてもらってるんです。


ーー「黄色い車」はどんなところが選定の決め手になったんですか?


FROGMAN:「鷹の爪」って、悪の秘密結社と正義の味方が戦うコメディーなんですけど、僕の中では家族の物語なんです。「総統」は疑似の父親で、その他は子供たち、みたいな。ずっとそういう関係で描いてるつもりなんです。「黄色い車」はまさしく家族との別れと新しい出会いをテーマにしているので、一番ぴったりだなと思ったんですよね。


ーー藤原さんは、今回のタイアップの話を聞いたとき、率直にどう思いましたか?


藤原:島根県では鷹の爪団が身近な存在なんですね。駅にもポスターが貼ってあるし、カレンダー(「島根スーパーデラックス自虐カレンダー」)もすごく有名だから、ご一緒させてもらえると聞いたときはビックリして。アニメのタイアップは初めてだったんですけど、最初が自分の故郷にゆかりのあるアニメに携われたのは嬉しかったです。


ーーそもそもFROGMANさんがOfficial髭男dism(以下、髭男)を知ったキッカケは?


FROGMAN:ぶっちゃけ、ウチの本部長がたまたま所属事務所の方と知り合いになって、島根出身のバンドがいるから今度紹介しますと。で、「Official髭男dism」っていうから、最初はお笑いかと思ったんです(笑)。


藤原:あはは! よく言われます(笑)。


FROGMAN:「ルネッサーンス!」みたいだなと(笑)。それで気になってネットで調べていって、「SWEET TWEET」(デビューミニアルバム『ラブとピースは君の中』収録)のMVを見たんです。そのときに「うわー、こいつらスゲエ」と思って。演奏がずば抜けて良かったことと、歌詞もよく考えられているんですよね。


ーー言葉が気になりましたか。


FROGMAN:僕はシナリオを大事にしているし、言葉をすごく大切に考えているんです。こんなことを言うと怒られるけど、正直、最近の若い子たちの曲って「もう少し、お前ら、国語勉強しろよ」みたいな。呆れるを通り越して怒っちゃうような歌詞が多い中で、自分たちの伝えたいメッセージを野暮ったくなく描けている歌詞だなと思ったんです。それにサウンドには僕がかつて聴いてた渋谷系みたいなテイストもあったりして、これはいいなと。


ーー「鷹の爪」シリーズは、『THE FROGMAN SHOW』から数えて今年で10年ですが、『鷹の爪 GT』は、“GT”ならではのコンセプトがあるんですか?


FROGMAN:NHKじゃやれないこと(笑)。以前はEテレだから僕らも常識の範囲内でやってたんですけど、一方で、最初にテレビ朝日の深夜でやってた常識外れのことってやれてないなと思って。あと、NHKで4年間やってるうちに新しいファンがすごく増えたんです。昨日も島根県に帰って、子供たちの文化祭みたいな催しでサイン会をやってたんですけど、小学校一年生の子とかが僕にサインをねだってくるんですよ。今まで島根で子供たちが僕にサインをねだるなんてことはなかったんで、そういうニューカマーに「本当はそんな、いいオジサンじゃないんだぞ」っていうところを見せとこうと(笑)。


ーー本当はトガってるんだぞと(笑)。


FROGMAN:やっぱり僕がいちばんやりたいのは、シュールな笑い、ブラックな笑いなんです。観ている側を置いてけぼりにするような、自分だけ楽しければいいっていうところなんで。こないだ発表した新作も「君の縄」ですからね(笑)。


・「メッセージをポップな音楽に乗せて伝えていく」(藤原聡)


ーー一方、髭男のEP『What’s Going On?』のコンセプトは?


藤原:今回はリード曲になってる「What’s Going On?」がまずできて。普段は言わないけど、僕は昔いじめられていた経験があるんです。いじめによる自殺は相変わらず多いし、最近は過労死とかもある。そうやって自ら命を絶ってしまうことに対して、僕たちはこう思うぜって投げかけようと思って書いたのが「What’s Going On?」なんです。で、その曲を作りながら、今回のEPに何か意味を持たせていこうと考えていたときに、新聞記事みたいなものにしていこうとひらめいて。だから、最初は新聞の社説っていう意味で、EPに「Editorial」っていう仮タイトルをつけてたんです。


ーー新聞の社会面や文化面に対する社説を書くような感じで曲を作っていこうと。


藤原:そうです。2曲目の「未完成なままで」は、僕もそうだったけど、今って、高校一年生くらいで文系/理系の進路選択を迫られるじゃないですか。そうやって自分の夢もはっきり定まってない状態で選択の時は来るっていう世の条理に対するメッセージを書いた曲なんです。「ニットの帽子」は、こじつけなところもあるけど、「そろそろ冬ですね」みたいな時候を絡めた記事、社説。4曲目の「黄色い車」は、僕らが地元の山陰を離れるときの気持ちを歌った曲なんですけど、地方の若者離れみたいな問題もよく取り沙汰されるじゃないですか。


ーー地方の過疎化問題ですね。


藤原:自分たちも夢を追いかけて出ていくといえば聞こえはいいけど、過疎化の一端にもなっているわけで。それで通常盤のジャケットは、新聞記事の上に自分たち色の絵の具をぶちまけたようなイメージにしたんです。一方、初回盤の方は、FROGMANさんの提案で、マーヴィン・ゲイの『What’s Going On?』のジャケットがモチーフになってるんです。


FROGMAN:オマージュってヤツですね。


ーーそれにしても、『What’s Going On?』とは、つくづく大胆なタイトルですよね。パッと聴き、マーヴィン・ゲイを思い出しちゃいますから。


FROGMAN:そうなんですよ。怖いモン知らずだなって(笑)。


藤原:あはは。1個前に『MAN IN THE MIRROR』というアルバムを作ってからタガが外れました(笑)。でも、僕が好きなマイケル・ジャクソンやマーヴィン・ゲイは自分の考えをしっかり持っていて、それをちゃんと世に向けて発信していたというところが共通していて。先程FROGMANさんが仰っていたように、僕も最近の邦楽のメッセージ性とか言葉選びには疑問を感じているんですね。自分たちはそうじゃないところに髭男の価値を見出したいなと思ってるし、メッセージをポップな音楽に乗せて伝えていくという姿勢を、平成生まれの僕らも受け継ごうということで、タイトルをそのまま拝借したんです。


ーー今の会話に出たように、藤原さんはもともとモータウン系のソウル音楽が好きなんですよね。


藤原:そういう古いものも聴きますけど、最近はアヴィーチーにハマって以来、スクリレックスとかジャスティン・ビーバーとか、トラックものを聴くようになりました。ああいう音楽を聴いていると、昔ながらのアコギにフィルターをかけてみたり、今だから出来る音の遊び方をしてるんですよね。バンドだとマルーン5とかフォール・アウト・ボーイは、新しい音を追求してるなと思う。たとえばフォール・アウト・ボーイは、トランペットとかストリングスを上手いことサンプリングして使ってるんですよ。それってDTMステーションを構えられる現代だからこそ作れる音楽だと思うし、そういうことをやらないというのは、周りは電子システムをどんどん導入してるのに、自分たちは帳面を付けてるのと同じことだから、使ってメリットがあるとかカッコイイと思えるものならどんどん採り入れていこうと思ってるんです。


ーーFROGMANさんは最近どんな音楽を聴いていますか?


FROGMAN:最近は懐メロが多いですね。初期のレニー・クラヴィッツとか、90年代の曲ばっか聴いてます。あとはテクノとかハウスも好きなんで、4ヒーローとかニューヨリカン・ソウルとかも聴いてますね。


ーー創作時にインスピレーションをもらう音楽はありますか?


FROGMAN:ひとつ挙げるとしたらエイミー・マンですね。ポール・トーマス・アンダーソンが作った『マグノリア』という映画があって、そのサントラに彼女の曲が使われているんです。映画も音楽も本当最高なんですよ。


ーー映画は2000年に日本公開。サントラはグラミー賞にもノミネートされましたね。


FROGMAN:ポール・トーマス・アンダーソンって僕とあまり年齢が変わらない監督で、『マグノリア』を観に行ったとき、僕は20代だったんですけど、自分がやりたいと思ってたことを全部やられちゃったと思ったんです。なぜ彼がこんな素晴らしい映画を作ったのかなと思ってパンフレットを読んだら、もともと彼はエイミー・マンの曲を聴いてインスパイアを受けて、シナリオを自分で書いたそうなんです。だから音楽と映像が何から何までぴったんこなんですよね。超かっこいい。そのときに、俺はこういうことがやりたい、音楽先行で映画を作ってみたいと強く思ったんです。だから今でもシナリオを書くときにエイミー・マンを聴くと、ポール・トーマス・アンダーソンに対する悔しい思いと、その映画を見たときの最高な気分が甦ってきて、創作意欲が沸くっていうのはありますね。特に「One」という曲。


藤原:エイミー・マンは初めて名前を聞きました。


FROGMAN:ちょっとフォークっぽいスタイルのアーティストなんですよ。声がすごくいい。ちょっとキャロル・キングみたいな感じもあるかな。


藤原:そうなんですか。じゃあ、今度聴いてみますね。


FROGMAN:ところで、僕はさっきも言ったように「SWEET TWEET」が好きで。藤原くんは、髭男でもっと気軽な恋愛の歌を作った方が当たるかも、とか思わない? たとえば西野カナみたいな(笑)。


ーーもともと髭男は甘酸っぱいラブソングも得意ですからね。


藤原:確かにそういう曲をずっと作ってきてたんですけど、だんだん、自分たちがこれを歌ってていいのかと思うようになってきて。髭が似合う年になっても4人でバンドをやろうぜっていうことでグループ名をつけてやってるけど、何十年後かにステージで胸を張ってそういう曲を歌ってる画が浮かばなくて。


ーー青春時代の甘酸っぱさをオヤジになっても歌えるかと?


藤原:甘酸っぱい恋の歌は今でも髭男の中で評判が良いし、うれしいことなんですけど、そればかりになってもいけないなって。それよりはリスナーの辛いときに寄り添える曲とか、もっと別の背中の押し方ができる曲を作っていけたほうが、自分たちで自分たちをカッコイイと思えるなっていうところがあるんですよね。


FROGMAN:でも、恋愛の歌はこれからも作っていって欲しいな。甘酸っぱいだけじゃなくてさ。例えば五輪真弓の「恋人よ」みたいな、ただれた恋愛の歌があってもいいんじゃない?(笑)


藤原:ただれたって……(笑)。


FROGMAN:それに万国共通じゃないですか、恋愛の歌って。ヘヴィーというか、偽りのない恋愛の歌って、若いうちじゃないと作れないときもあるだろうし、髭男みたいな言葉のテクニシャンのバンドがそれをやったら説得力があると思うから。老婆心ながら、恐れずにやっていった方がいいんじゃないかなって思います。


・「今はアイデアが具体的になってきた」(藤原聡)


ーーお二人は共に島根県でものつくりをしていたわけですが、創作活動に於いて島根ってどんな場所ですか?


藤原:上京後、島根に帰ると街の静けさが全然違うんで、そこは僕にとって大きなことだったなと思います。東京だと、音を出すことひとつにしても近所迷惑かもとか考えなくちゃならないから、島根はストレスフリーでやれるんですよね。あと、僕は曲の骨子をつくるときに他の人がいるとダメなタイプなんです。だから、自分がやりたいことに集中して向き合いたいときとか、曲作りに行き詰まったときは、2~3日空いてたらすぐ飛行機の切符を取って、鳥取の実家に帰ることもありますね。


FROGMAN:僕は島根に住んでから創作活動を始めたんですが、山陰がいいのは何もないことなんでしょうね。何もないから自分で1から10まで段取りしてやらないと前に進まない。その恐怖に掻き立てられたのがいちばん良かったわけで。東京だと、声優さんを探してたかもしれないし、シナリオも知り合いのライターさんに声を掛けてたかもしれない。そうなったらたぶん、ひとりでアニメ書いて、ひとりでシナリオ書いて、ひとりで声も入れてっていう今の僕の創作スタイルはできてなかったと思うんです。


ーーFROGMANさんが上京したのは、何年ですか?


FROGMAN:まさしく10年前です。2006年の4月にテレビシリーズが始まるということで、1月に上京して。あと3カ月切ってるっていうんでバーッと作り始めたのが最初。会社に300連泊して、泊まり込みでやってました。


ーー当時はどんな気持ちでしたか?


FROGMAN:年齢が35歳だったんですよ。しかもクソ貧乏だったんで、このチャンスを逃したら俺、もう一生無理だと。あと、後悔しないようにと思ってました。とりあえず自分がやれることは、ある限りの時間を使って、全部やろうと。そしたらありがたいことに「鷹の爪」がすごくウケて、取材依頼とかも来るようになったんで、これは手を緩められないなと。むしろそこからガツガツやってましたね。


ーー藤原くんは上京して9カ月ですが、今、どんな思いですか?


藤原:上京していろんな現実が見えて来つつも、上京してからの方が自分たちのやりたいことがどんどん出てくるようになりました。それまでは「いい曲を作りましょう」とか「かっこいいライブをしましょう」とか、目標が漠然としてたんですけど、今はこういうことができるから次はこうしてみようとか、アイデアが具体的になってきた。人生の中でこんなに出てきたことはないだろうっていうくらい、今はがっついた感じが出てきてますね。


ーーそんな藤原さんに、FROGMANさんから、東京でものつくりをしていく上でのアドバイスをお願いします。たとえば、こんな奴には気をつけろとか(笑)。


FROGMAN:僕の場合は人の巡り合わせが良かったんですよ。20代の頃の僕は本当にダメ人間だったんです。借金も作るし、約束も破るし、遅刻するし、仕事できないし、だけど偉そうに威張り出すみたいな。でも、結婚してすごく変わって、さらにウチの椎木(隆太)社長に出会って変わって。ウチの奥さんも椎木社長も強運の持ち主なんです。そういう人に対してリスペクトというか感謝の気持ちを持ち続けると、やっぱり返ってくるんですよね。


藤原:なるほど。


FROGMAN:髭男は、もう作ってるものは間違いないから、あとはどうやって人間関係を築いていくか。強運の持ち主っているんだよ。だから、本当に人の繋がりは大事にした方がいいですよ。そして感謝、謙虚を忘れない……って、ごめんね、スピリチュアルな方の話になっちゃって(笑)。


藤原:いやいや、全然(笑)。


ーーでも、自分が頑張ることで、運の強い人に引き寄せられたりすることもあるでしょうしね。


FROGMAN:そういうところってあると思うんですよ。だから、アドバイスとしては、運の強い人にくっついていく。悪い奴とは繋がらない!(笑)


藤原:島根県に悪い縁を切って良縁を繋げる縁切り神社があるんですよ。


FROGMAN:ありますね。佐太神社。


藤原:早速、そこに参拝に行ってきます! 今度帰ったら行ってきますね!(取材・文=猪又孝(DO THE MONKEY))