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LILI LIMITが語る、“未知のポップス”を生み出す発想術「本や展示をきっかけに曲を作り始める」

2016年10月25日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

LILI LIMIT(撮影=下屋敷和文)

 山口出身の牧野純平(Vo)と黒瀬莉世(B)が土器大洋(G)の才能に惹かれて福岡に移住。そこに山口時代からバンドのファンだった志水美日(Key)や丸谷誠治(Dr)が加わり東京に拠点を移すと、期待のニューカマーとして一気に注目を集めてきた5人組、LILI LIMIT。彼らが7月のメジャーデビューEP『LIVING ROOM EP』に続いて、メジャー1stアルバム『a. k. a』を完成させた。


(関連:ポップミュージックをどうアップデートするか? 次世代音楽集団=LILI LIMITへの期待


 牧野純平が「『LIVING ROOM EP』から咲いた花ではなく、むしろその幹のような作品」と語る通り、バンドが本来持つ多彩な魅力を溢れんばかりの情報量で詰め込んだ全13曲は、印象的なフックを持った各メンバーの演奏や牧野純平のリリカルな詞世界が絡み合い、頭と体とを同時に踊らせる、彼ら特有のカラフルなポップ・ワールドを伝えてくれる。その制作過程について、ソングライティングの中核をなす牧野純平と土器大洋の2人に聞いた。(杉山 仁)


・「自分たちの変化がより分かりやすくなった」(牧野)


――メジャー1stアルバム『a. k. a』が完成しましたね。今回のアルバムについて、牧野さんが公式ブログ(http://lineblog.me/lili_limit/)の8月5日の投稿で言っていた「『LIVING ROOM EP』から咲いた花ではなくて、むしろその幹のようなアルバムだ」というのは、どういう意味なんでしょう?


牧野:今回の曲を考え始めたのは、『LIVING ROOM EP』の制作と同時期だったんですよ。『LIVING ROOM EP』はメジャー・デビューEPということもあって、僕らとしてはあの作品でLILI LIMITのことを知ってくれた人も多いと思っていて。今回はその人たちに、そこから咲いた花を見せるというよりは、もっとその下にあるバンドの根っこのような部分を提示できる作品になったんじゃないかと思いますね。


――『LIVING ROOM EP』の時には見せられなかった、バンドがもともと持っている別の側面が入っているというイメージですか?


土器:そもそも、今回のアルバムに入っている曲たちは、インディーズでのラスト・アルバム『#apieceofcake』(全8曲)を出した時からすでに作り始めていて、その時はそれほどコンセプトも立てられていなかったんですよ。ただ、これまで自分たち自身が影響を受けたフルアルバムについて考えると、流れが感じられて、なおかつ全編を聴くとちょうど満たされるようなアルバムだというの共通点があって。僕はMr. Childrenのフルアルバムが好きなんですけど、そういうアルバムたちって色々な曲が入っているのにちゃんと流れも感じられるので、僕たちもポンポン曲を入れただけのものにはしたくない、という気持ちはありましたね。


牧野:今回は、とにかく自分たちが今できるのは何なのかということを考えていきました。「メジャーというタイミングでちょっとだけ変わった姿を見てみたい」ということもディレクターの方に言っていただいて。だから、その年のトレンドも入れて、自分たちの変化がより分かりやすくなったというか、時代を感じられるアルバムになったなと思いますね。


――曲によって様々な工夫がされていますよね。1曲目の「A Short Film」というタイトルは、以前牧野さんが話してくれた「映画みたいな音楽が作りたい」ということともリンクしているような雰囲気を感じました。


牧野:ああ、言っていましたね。昔、僕の大切だった愛犬が亡くなったときに作った曲があって、その曲ができてちょうど1年後にこの詞を書くタイミングが来て。それで縁があるなぁと思いながら、「あいつのことを書いてみよう」と、改めて自分の過去を振り返りながら物語のように書いてみたんです。それでタイトルも「A Short Film」にして。今回MVも、フォーリーアーティストという映画の効果音をつけていく仕事をテーマにしているんです。これは映画の中ではあまり知られていない仕事で、でもなくてはならない本当に重要な仕事で。それって人生でいうと、僕らがここまで来る間に出会った、バンドを陰で支えてくれる、聴いてくれる沢山の人たちのことですし、そういう人たちとリンクするような作品を作りたいなと思って。今まで支えてきてくれた人への感謝を思って書きました。


土器:音楽的にはこれまでのLILI LIMITに影響を受けてできた曲ですね。牧野も言った「僕たちに今できることはなんだろう」ということを音に乗せたというか。過去をベースに、今LILI LIMITや自分の中で来ているサウンドを乗せたので、音的にも過去と今とが繋がってます。


――土器さんにとって「今来ているサウンド」というと、具体的にはどういうものですか?


土器:最近は割とインストゥルメンタルを聴くことが多くて、ジェイミー・エックス・エックスの作品を聴いたりしています。今は「誰かがどこかの部屋で作っているようなサウンド」が一番気持ちよく感じられるんですよ。だから、何の音かも分からないような、でも聴いたことのあるような音を曲にさりげなく仕込んだりするという意味で影響を受けましたね。他にも聴いているものは色々あるんですけど、そういう雰囲気を出してみたかったんです。


――確かに、「A Short Film」のイントロの部分は、ジェイミー・エックス・エックスの作品で使われているスティールパンのような音とも雰囲気が似ているかもしれません。一方、「Neighborhood」は歌詞がバグルスの「ラジオスターの悲劇」へのオマージュのようになっていて面白いですね。


牧野:ありがとうございます。それもオマージュしながら、徳永英明さんの「壊れかけのRadio」を入れてみようと思ったんです。そうしたら、怒られて……(笑)。実はもともと、〈本当の幸せ教えてよ/壊れかけのレディオスター〉という歌詞だったんですよ。


・「この1年間、音を波形で考えることが多くなった」(土器)


――(笑)。そして何と言っても目を引くのが、8曲目と11曲目で対になっている「Space L」と「Space R」です。これはどんなアイディアで生まれたものだったんですか?


牧野:今回の収録曲の頭文字を取って並べ替えると、「also known as」になるんですよ。それでアルバムタイトルが「a. k. a」になっているという。でも、それだけだと単語の間のスペースが足りないので、「Space L」と「Space R」を入れることにしました。これはアルバムを作る前からあったアイディアですね。そもそも、その時点でやりたいアートワークがあったんですよ。それは「何枚かのカードを並べ替えたら、文字が変わってひとつの作品が色々な見え方をする」というもので。その時既に12曲が上がっていて、ここにもう1曲加わったら、スペースも含めてちょうど「also known as」になるな、と。僕らの1年間が出ているアルバムなので、「a. k. a(=~として知られる/通称)」という言葉が一番合うと思ったんですよ。


――つまり「今回のアルバム a. k. a 今のLILI LIMIT」ということですね。


牧野:そういう感じですね。


土器:「Space L」は先にできていたんですけど、「Space R」ができたのは「A Short Film」よりも後で、本当に最後の方でした。曲が出揃って、「L」の対になる「R」をどこかに入れたいという漠然としたアイディアが牧野から出てきたんです。


牧野:もうひとつピースが入ったらアルバムがまとまる感じがして、「インストがほしいな」と思ったんですよ。僕が詞と曲をどっちも書いた曲(「Space L」)がひとつだけあったから、だったら「土器が作ったインストも入れられたらいいな」と思って。僕ら2人はよくLILI LIMITの「右脳(牧野)と左脳(土器)」と言われますけど、自分としてはそれがあまり好きじゃなくて。だから、(牧野が作った曲を「Space L:左」に、土器が作った曲を「Space R:右」にすることで)それを少し揶揄する感じの曲にしてみました。


土器:この曲は自分が遊びながら部屋で曲を作っている様子を俯瞰しているようなイメージの音にしたいと思って。なので、最初の少し音質が悪い部分は部屋にマイクを立てて、「Space L」の音をサンプラーで叩いてぶつ切りにしたり、ビー玉が入っている瓶を鳴らした音を録って使いました。曲の世界観に入り込むのではなくて、曲の外側から聴く印象にしたかったんです。僕はこの1年間、音を波形で考えることが多くなってきて。ボンベイ・バイシクル・クラブが好きなんですけど、あの人たちも、バンドなのにボーカルの方はワールド・ミュージックとか昔のボリウッド音楽をサンプリングして曲を作っていますよね。そういうところから、ヒップホップ的な手法をバンドに入れたいと思ったんです。


牧野:僕は本や展示をきっかけに作り始めることが多いです。音楽から影響を受けるとそのままになってしまうので。たとえば今回の「Space L」だと、『サウンドエデュケーション』(R・マリー・シェーファー著。音に対する感受性と想像力を育てる教育書)という本から影響されて曲を作り始めたんです。小学生とかに「これはどんな音がするでしょう?」ということを文章で書いている本で、その音を実際に聴いてみると全然違う音だったりするという感じのもので。「On The Knees」の場合は、土器が作った音を聴いた時にゴダールの『軽蔑』で女の人が駆け落ちしようとして交通事故で死んじゃう時の映像が浮かんで来て。「だったら浮気の歌を書こうかな」と思いました。ただ、そのままでは面白くないと思ったので、緯度と経度を設定して、その舞台が分かるようにして。


――「35:39:44/ノースラティチュード」「139:43:49/イーストロンジチュード」から始まって徐々に数字が変わっていく部分ですね。これはどの辺りの地域なんですか?


牧野:藤沢から品川のとあるホテルまでの道のりにした気がしますね。他にも「Neighborhood」では、大阪のラジオ局に僕らが本当にお世話になっている人が2人いて、その人たちのことを思い浮かべながら曲を書いたりとか。


――そこにバグルスと徳永英明さんへのオマージュを加えていった、と。


牧野:バグルスの曲は時代に対して歌っているものですけど、僕はそれを恋愛の歌に変換して作っていきました。あと、「Self Portrait」は寝ずにずっと歌詞のことを考えていたら、まったく出てこなくなってしまった時期があって。必死こいて頑張って、外を歩いてみても全然出てこなくなったんですけど、その頃、僕は寝言でまで歌詞のフレーズを言うようになっていたらしいんですよ。それを友達から教えられて「やばいな」と思って。サビの30センチ定規のくだりは、その時の自分の寝言をちょっと変えたものですね。


――その「Self Portrait」には在日ファンクの村上(基)さんがトランペットで参加していて、ストリングスと一緒に曲のクライマックスになる部分を彩っていますね。


土器:サビの後に来るメインのフレーズを吹いてもらって、音を重ねたいというアイデアだったんです。でも、それだけだともったいないということで、遠くの方で人がアドリブで演奏しているような曲が録れたら面白いかなと思いついて。その場で自由に吹いてもらったものを沢山録らせてもらって、キーボードの志水が「この音の上がり方はおいしい」みたいなものを選んで、波形を切って並べたんです。本当に無茶な仕事を頼んでしまったんですけど……(笑)。


――(笑)。「A Few Incisive Mornings」の歌詞にある〈毎月変わる花瓶の花〉というのは、以前話を聞かせてもらったときに話してくれた、牧野さんの日常生活での実体験ですか?


牧野:そうです。それをきっかけにして福岡時代のことを考えたりしながら歌詞を書きました。よく過去を否定しながら成長していく人がいますけど、僕は「そういう成長の仕方ってどうなんだろう?」って疑問を感じるんですよ。そこから「今の自分の姿を過去の自分が見たら、どう思うだろう?」ということを考えていて、こういう歌詞が出てきたんです。


土器:これはメンバーが音を出す中で変わっていった部分が多い曲ですね。ピアノメインになったのも志水が途中でピアノを弾き出したのがきっかけだし、Aメロのドラムのリズムが変わったのもリズム隊が曲をこなす中で出てきたアイディアで。ちなみに、仮タイトルは「ノルウェー」で、最初はノルウェーの山奥で妻を亡くしたおじいちゃんが細々と生活している、というイメージで作ったものでした。


・「人生の一部になったと言ってもらえた方が嬉しい」(牧野)


――それにしても、今回の『a. k. a』もそうですが、LILI LIMITの曲には歌詞にも音にも本当に様々なアイディアが詰まっていて、どこかトーキング・ヘッズの音楽を連想させるような雰囲気を感じます。


土器:本当ですか? 実は「トーキング・ヘッズを連想する」というのは、僕の父にも言われたことがあるんです(笑)。僕は父に言われるまで聴いたことがなかったんですよ。でも言われてみて聴いてみると、確かに納得できる部分もあるというか。


牧野:僕も土器のお父さんから言われたことがありますね。でもそれからは聴いてないんで、ちょっと聴いてみようかな……?


土器:僕ら自身は、今の5人になった瞬間から、ニュージーランドのザ・ネイキッド・アンド・フェイマスがひとつの理想の形でした。この間聴いて、「やっぱりかっこいいな」と再認識したところで。バンド・サウンドなのに空白を生かしているというか、音はすごく歪んでいたりするけど、ちゃんと余白を残しているのが好きなんです。僕らはライブにしても、音源にしても、聴いた後に何かが残るよりは、幸せな感じで聴き終わってほしいという感覚がありますし。前座をさせていただいたこともあるMEWも初期からの影響源ですね。あとは、それぞれ影響を受けるものがあるという感じです。黒瀬だったらThe 1975とかが好きで、ベースのどっしりとした感じに影響を受けているみたいですし。今回フルアルバムを作ってみて、自分たちのことを改めて見つめ直した部分もありました。演奏力であるとか、メンバーそれぞれ「何が好きだったんだっけ?」みたいなことであるとか。アレンジ力や、アイディアの引き出しがまだ全然少ないと思う部分もあって、やりたい音を具現化するには、まだまだこれから考えていかなきゃいけないこともあると感じましたしね。


牧野:それは確かにね。でも、初期から知っていて、今でもこのバンドのことを変わらず愛してくれる人も沢山いて、「人に恵まれてるな」って改めて思いますね。「ファーストフルアルバムを出したらもう若手じゃない」ということもあって、最近ずっと、これまでを振り返っていたんですよ。そうやって改めて考えても、今もメンバーと一緒に音楽を作ることができて、田舎から出てきたバンドが「ハイセンスなサウンドとヴィジュアルで」と書かれて発信されているというのは、喜びもありますし、流石に成長を感じますね。


――ちょうどこの間、LILI LIMITと対バンした翌日にNYのポップ・エトセトラに話を聞く機会があったんですが、彼らも「LILI LIMITはNYに来てもハイセンスなバンドとして受け入れられると思う」と言っていました。


土器:へええ、嬉しい。


牧野:田舎からNYに行けちゃう(笑)。


土器:そういえば、最後の「Self Portrait」は福岡時代、今より少ない機材で打ち込みをし始めた頃からピースがあった曲で、その頃エンジニアさんから譲ってもらったマイクで録ったのが最初のアコギのフレーズなんです。それが東京に来てメジャー1stアルバムに入ることになって、今回はストリングスも生で入れさせてもらって。在日ファンクの方や、一流のエンジニアさんや……色んな人に支えられながら、東京から日本中に発信されるというのは不思議な感じですね。


――これからLILI LIMITはどんなバンドになっていくんでしょうね?


土器:その答えはまだ出ていないんですけど、今、変わっていくためにメンバーと話し合っているところなんです。たとえばNYでやりたいということもそうだし、それぐらい大きな夢はあるんで、サイズ感を広げていくためにどうするかを考えているところです。僕は、5人のメンバーそれぞれが発信できる人間になるのが理想だな、と思うんですよ。「それぞれにすごい5人が集まったものがLILI LIMITだ」という、そういう5人になっていきたいですね。


牧野:単純にいいものを作りたいと思うし、自分の物差しだけで判断しないように気をつけようと思いましたね。僕は「『個人的にいいもの』というのは、本当にいいものなのかな?」と疑っちゃうので。それよりも、このアルバムが色んな人にとって「僕、私の人生の一部になった」と言ってもらえた方が嬉しい。そういう曲を作れるようになっていきたいです。(取材・文=杉山 仁)