2016年10月25日 10:22 弁護士ドットコム
1億円近いお金を横領した父が自殺しました。返済する義務はあるのでしょうかーー。亡くなった男性の長男が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーにそんな質問を寄せました。
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相談者には、母と妹がいます。悩んだ相談者が調べたところ、相続放棄すれば支払いの義務がなくなるらしいとわかりました。しかし、本当に放棄できるのか。また、「家族の誰が相続放棄すれば良いのか分からない」と途方に暮れています。
父親が横領したお金を遺族が返済する義務はあるのでしょうか。また、相続放棄をすることはできるのでしょうか。白土文也弁護士に聞きました。
●相続は、プラスの財産もマイナスの財産も対象となる
結論から言えば、遺族は、父親が横領したお金を返済する義務を負いますが、相続放棄をすれば義務を負いません。
民法上、相続人は、被相続人(亡くなった方)に属した一切の権利義務を承継するとされています。
横領をした父親は、被害者に対して損害賠償義務を負います。この損害賠償義務も、被相続人の財産に属した一切の権利義務に含まれます。つまり、預貯金のような「プラスの財産」だけでなく、借金のような「マイナスの財産」も相続の対象となるわけです。
そのため、遺族は、それぞれの相続分に応じてこの義務を相続する、つまり、被害者に対して損害賠償義務を負うことになります。
たとえば、父親が1000万円の損害賠償義務を負っていた場合、母親は500万円、相談者250万円、妹250万円の義務を負います。
もっとも、民法上、相続放棄という制度がありますので、相談者らも相続放棄をすれば義務を負いません。
相続放棄の手続きをするためには、家庭裁判所に出向いて届出をして、家庭裁判所にその届出を認めてもらう必要があります。詳しい手続きは、裁判所のホームページなどで説明されているので、参考にしてください(http://www.courts.go.jp/kyoto/saiban/katei/houki/)。
●相続放棄する必要があるのは、誰?
相談者と、母、妹が相続放棄をするとしましょう。しかし、相続放棄するのは、その3人だけではないかもしれません。3人が相続放棄した後、次の順位の相続人、たとえば、相談者らの祖父母や叔父叔母などが相続人になる可能性があります。被相続人の子などを「第1順位の相続人」、祖父母などを「第2順位の相続人」と表現します。
第1順位の相続人が相続放棄をするような場合、第2順位・第3順位の相続人も相続したくないのが通常でしょう。その場合は、次順位の者を含めて、義務を負いたくない者全員が相続放棄をする必要があるので注意しましょう。
また、相続放棄をした場合、「マイナスの財産」だけでなく、「プラスの財産」も相続できなくなりますので、その点も注意が必要です。
【取材協力弁護士】
白土 文也(しらと・ぶんや)弁護士
第二東京弁護士会所属。平成17年、司法試験合格。合格後、ベンチャー企業で2年間勤務。司法修習を経て都内法律事務所に勤務。中国上海市の法律事務所で1年間の研修の後、平成26年、白土文也法律事務所開設。相続・遺言と中小企業法務を中心に取扱う。
事務所名:白土文也法律事務所
事務所URL:http://www.shirato-law.com/index.html