勝ったのはルイス・ハミルトン、王手をかけたのはニコ・ロズベルグ。切迫感が伝わるCSシリーズ“開幕戦”アメリカGPだった。26点差につめ寄る50勝目、この国で最多タイ5勝にも小さな笑いでいたハミルトン。次戦メキシコGPで10位以下になったら、ロズベルグに勝たれたら、そこで今年が終わる。3冠を制してきたチャンピオンだからこそ逆の立場、大詰めにきて敗れ去った者の不安な深層心理が分かるのかもしれない。
春から何度も体験した“ビッグ・バン”、中国GP予選、ロシアGP予選、ベルギーGPフリー走行、マレーシアGP決勝、自分のPUだけに起きた。初めてここでのPPを決め、スタートも決まり、独走展開に持ち込んでもトラウマがこびりつき長かった56周レース。それはハミルトン自身だけでなく、チームスタッフも全く同じ心境だった。
ふたりのタイトル争いをトラブル異変によって左右したら、コンストラクターズ3連覇メルセデスの威厳にかかわる。彼らが今季初めて金曜夜、残業作業でハミルトンのマシンを徹底チェックしたのもその表れだ。
初日FP1からトップ発進、流れがハミルトンに向いてきたと感じた。イニシャル・セッティングで先行、そこから慎重にブレーキ設定を進めていった。予選アタックラップでは1コーナーからセクター1の6コーナーまでが飛びぬけて速く、完全なカーバランスに一体化していたハミルトン。あれを見せつけられては、ロズベルグはコメントとは裏腹に「勝たずとも失わないレース」、2位堅持をメインテーマにした(はずだ)。
それを見越してレッドブル陣営は両面作戦で挑んでいった。ダニエル・リカルドにスーパーソフト、マックス・フェルスタッペンにソフト、スタートタイヤを分けた。前衛で切り込む任務をリカルドに託し、後衛から仕掛ける任務は若いフェルスタッペンに、二人のレーシングスタイルからこの逆はないだろう。チーム采配として正しく、現実にスタートで成功する。
3位グリッドから直進したリカルドが対決するメルセデス勢のインサイドを突き、深いブレーキングの特技でロズベルグに並んだ。「ポイントリーダーは無理はしてこない」、その心理をすくいとり2番手に。この緊迫場面で引いたロズベルグのリアクションに勝負師らしい勇気があった(いままでのニコは無駄な抵抗をしていたが)。レースの筋を通していくのはこれから、先を見通す冷静さがロズベルグに見てとれた。
さらに加えると10周目ピットインでミディアムを選択、いつSCが入っても入らなくても対応可能な策で“ロング・レンジ走行”も可能。1位ハミルトンは11周目にソフト選択、つまりメルセデスはタイヤ選択も含め自由に競わせるということ。結果的にVSC状態時の31周目に2台同時ピットイン。1位ハミルトンは独走を続けられ、ロズベルグは2位ポジションをリカルドから奪還する展開に切り返す。
――勝たずとも失わないレース、ロズベルグはしっかり2位18点を追加。こういう勝負師的なゲームを82年にケケ・ロズベルグは重ね、たった1勝でも2位3回、3位2回、入賞最多10回によってポイントを積み上げ初戴冠。そんな父親ケケさんに似てきたニコ、春のスペインGP衝突後から13レースずっと入賞中だ。そればかりか昨年ここオースティンで“失冠”してから21戦で12勝を上げ、ハミルトン7勝を超える驚異的な圧勝率できている。
3冠王が4冠めざし、無冠の最多勝者もめざしている第66代ワールドタイトルのユクエ、閉幕のときが近くなってきた。