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乃木坂46 橋本奈々未がグループを牽引し愛された理由 彼女の“危うい魅力”に迫る

2016年10月24日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『サヨナラの意味』初回仕様限定盤Type-A

 乃木坂46・橋本奈々未が、グループからの卒業を発表した。


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 卒業は、10月19日深夜に放送の『乃木坂46のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)内で本人の口から発表され、翌朝には大々的に各メディアで報じられた。ラジオ放送は、ストリーミングサービス「SHOWROOM」でも同時配信され、25時という深い時間ながらSHOWROOM単体でも10万人近くの視聴者数を叩き出し、Twitterトレンドにも多くの関連ワードがランクインしていた。ラジオ内で読まれていたメッセージや、Twitterのタイムラインを追うと橋本がどれだけファンから愛されていたのかがひしひしと伝わってきた。これは、昨年同じANNで卒業を発表し、乃木坂46を約1年間兼任したSKE48・松井玲奈の卒業時を彷彿とさせた。


 橋本は乃木坂46をグループ初期からフロントメンバーとして牽引してきた1人だ。1stシングルからこれまで全ての選抜で福神入りを果たしているのは白石麻衣と橋本の2人のみとなる。女優としてもドラマに多数出演し、『CanCam』の専属モデル、『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM)のパーソナリティと、幅広い分野で活躍している。しかし、橋本が愛されていた理由は他にもある。それは橋本が纏う“危うさ”。秋元康は写真集のタイトルを『やさしい棘』と題し、橋本がセンターを務める16thシングル曲「サヨナラの意味」のストーリー仕立てのMVでは“棘人”という種族で登場している。


 橋本はどこかシニカルな面を持ち、乃木坂46を客観的に見ているメンバーであった。筆者が初めて乃木坂46を観たのが2012年9月3日。今はなきPARCO劇場で上演した舞台公演『16人のプリンシパル』だった。第1幕終了後に設けられた「自己PR」の結果によって第2幕のミュージカル「アリス in 乃木坂」に出られるかが決まる。ほかメンバーがキャッチフレーズや特技を披露していくなか、その日の橋本は「私は今日、自己PRを考えてきませんでした」と真っ直ぐな眼差しで堂々と、舞台にかける今の思いをアドリブで叫び続けた。その時の映像はドキュメンタリー映画『悲しみの忘れ方 Documentary of 乃木坂46』にも残されているが、その張り詰めた空気感、橋本の気迫まではパッケージできていない。結果、橋本は前回の5位から順位を上げ、3位の白ウサギ役を獲得した。これは乃木坂46結成から1年が過ぎた頃のこと。橋本が如何にグループ初期から一線を画していたのかが分かる。昨年、写真集『やさしい棘』の発売記念イベントへ取材に訪れた際、橋本は秋元がつけたタイトルについて、「いくら私が明るくやわらかく振舞おうと、クールな部分は出てしまう。こういうところが私にとっての棘っていうところなのかな」とコメントしていたのを思い出す。


 橋本には常に“卒業”の2文字が付きまとっていた。『AKB48新聞 2016年10月号』(日刊スポーツ新聞社)で卒業について「考えてたのはずっとです」と語っているが、それがファンにも感じとれる“危うさ”を醸し出していたように思える。卒業発表に同席した生田絵梨花は「奈々未さんがアイドルをやってくれてただけで奇跡だよ」と語り、桜井玲香は「幸せになってくれればそれでいいよ」とコメントを送った。


 橋本は誕生日である2月20日を目安にグループを卒業し、同時に芸能界を引退することも発表した。初のセンターであり、今後の歌番組への出演などで橋本への注目はさらに増すことだろう。それは、5年間築いてきた“橋本奈々未”のイメージを損なうことなく、絶頂期のままでアイドルのステージを退くことでもある。誕生日の2月20日まで約4カ月。アイドルの“橋本奈々未”は、マイクを置くその瞬間まで続く。


(渡辺彰浩)