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MANNISH BOYS、大胆な“音楽的進化”を遂げる 新作『麗しのフラスカ』のサウンド考察

2016年10月23日 16:01  リアルサウンド

リアルサウンド

MANNISH BOYS

 斉藤和義と中村達也という、異色の組み合わせにより誕生したバンドMANNISH BOYSが、前作『Mu? Mu? Mu? MANNISH BOYS!!!』からおよそ2年ぶりとなる通算3枚目のアルバム『麗しのフラスカ』をリリースする。これまでの、どこか人を食ったようなアルバムタイトル(1stアルバムは『Ma! Ma! Ma! MANNISH BOYS!!!』)から一転、詩的な映像が浮かんできそうなフレーズが付けられ、アートワークもザ・ビーチ・ボーイズの『サーフズ・アップ』を連想させるような、ダークで陰鬱なムードを漂わせている。そこに描かれた架空(?)の動物は、おそらく前2作でモチーフとなったピンクのキリンが進化し、羽根を生やした姿なのだろう。そんなタイトル、アートワークが象徴するように、本作『麗しのフラスカ』は、決して2人がMANNISH BOYSを片手間にやっているのではないということを証明するような、充実した内容となっている。


 MANNISH BOYSは2011年、斉藤和義と中村達也が「飲みの席」で意気投合したことにより誕生する。バンド名は、シカゴ・ブルースの代表的なアーティストであるマディ・ウォーターズが、ボ・ディドリーの「I'm A Man」に対するアンサー・ソングとして、1955年に発表した曲タイトルからインスパイアされたものである。サウンドは実に多様で、ロックンロールやブルーズはもちろん、ロカビリーにスカ、レゲエ、さらにはヘヴィメタルやテクノまでも取り入れ得意のユーモアセンスで料理していく。中には有名曲のパロディや、オマージュを思わせる楽曲も含まれるが、そこには過去の音源に対する二人の熱い愛情、飽くなき憧憬が込められている。そしてどの曲でも、斉藤のギター、ボーカルと中村のドラムが音像のメインに据えられており、時にガッチリと肩を組み、時に凄まじいバトルを繰り広げているのである。


 そんなMANNISH BOYSの最新作『麗しのフラスカ』は、共同アレンジャーとして蔦屋好位置や鹿野洋平(my hawaii)を起用し、日向秀和(B / ストレイテナー、Nothing's Carved In Stone)やタブゾンビ(SOIL & "PIMP" SESSIONS)ら豪華プレーヤーをゲストに迎えている。これまでの作品では、殆どの演奏を斉藤と中村の2人でおこなってきたが、ここにきて表現の幅を広げるために新たな血を送り込んだ。それにより、シンプルでありながらも骨太で凄みのあるサウンドプロダクションへと進化しているのだ。


 例えば、冒頭を飾る「グッグッギャラッグッグ」は、アレンジが蔦屋好位置との共同名義で、日向秀和がベースで参加したスウィングしまくるロックンロール・チューン。一聴するとストレートでシンプルなバンドアンサンブルだが、景色をガラリと変えるようなブレイクの仕方は、ヒップホップからの影響を強く感じる。また、LAを拠点に活動する6人組my hawaiiから、リーダー鹿野洋平がレゾネーター・ギターやバンジョー、ウーリッツアー、Miles Senzakiがパーカッションなどで参加した「真っ赤なバレリーナ」は、黄昏時のハワイの海が目の前に浮かんでくるような、トロピカルでアコースティックな前半から、徐々にサイケデリックな展開を見せる異色の楽曲(鹿野は共同アレンジャーとしても名を連ねている)。そしてインスト曲「Jungle Hurricane」には、SOIL & "PIMP" SESSIONSのダブゾンビがトランペット、タナトスこと田中秀和がバリトンサックス、日向がベースで参加し、スカとロカビリーを融合したようなカオティックなサウンドスケープを作り上げている。


 もちろん、二人のマルチプレイヤーぶりも健在。斉藤はギター以外にもベースやシンセを弾き、中村もドラムスのほか「ダンゴムシ」ではベースを、「My Dear FLASKA」ではともにトランペットを披露している。


 歌詞も、ナンセンスな言葉遊びの中に、時折グサッとくるキラーフレーズを忍ばせる。〈フラっと酔った勢いで グチュグチュッチュッするだけ〉などと、不埒なことを歌ったかと思えば(「グッグッギャラッグッグ」)、〈悩み事のない 憧れの道を それじゃつまんないとまた引き返すのさ〉と、道無き道を進んでいく2人の「覚悟」を表明する(「レモネード」)。かと思えば、自問自答を繰り返す歌詞が哲学的な「ダンゴムシ」や、まるでアレハンド・ホドロフスキーの映画のような、鮮烈な映像が浮かぶタイトル曲「麗しのフラスカ」のポエトリー・リーディングも印象的だ。酸いも甘いも噛み分けた、百戦錬磨の2人だからこそ生み出される「Jungle Hurricane」の鉄壁のグルーヴと、いい歳して(共に50歳越え!)「うんこメーカー」などと歌えるユーモア感覚、それらが無造作にぶち込まれた、ごった煮のようなアルバムに仕上がっているのである。


 11月3日、横浜BayHallを皮切りに、全国30カ所を回るツアーを翌年1月下旬まで行なうMANNISH BOYS。これまで以上にパワフルなステージとなることは必至。今から楽しみでならない。(文=黒田隆憲)