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『拝啓、民泊様。』中野裕太が明かす、タレント業をやめた理由「退路を断って、役者一本に絞る」

2016年10月23日 15:21  リアルサウンド

リアルサウンド

中野裕太

 新井浩文、黒木メイサW主演ドラマ『拝啓、民泊様。』が、本日10月23日から放送される。本作は、2020年の東京オリンピック開催に向けて、昨今よく話題に上がる“民泊問題”を題材としたヒューマンドラマ。突然リストラを言い渡された主人公・山下寛太(新井浩文)は、リストラされたことを妻の沙織(黒木メイサ)に言い出せないまま民泊ビジネスを始めるのだが、不満を爆発させる宿泊客や無理な仕事を押し付ける企業、さらには地域住民との様々なトラブルに巻き込まれていくことに・・・・・・。民泊がはじめて認可された大田区の全面協力のもと、民泊ビジネスのリアルやHow to要素も交えつつ、“人と人との繋がりの大切さ”や“家族愛”が描かれていく。リアルサウンド映画部では、沙織の兄で、寛太の良き相談相手でもある江南昌平役の中野裕太にインタビュー。共演者との印象深いエピソードや、近年の俳優活動について語ってもらった。


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「“民泊”をキッカケに展開されるヒューマンドラマ」


ーー本作は、ハートフルドラマである一方、東京オリンピックに向けて話題になっている“民泊問題”を取り上げた社会派ドラマという側面もあります。


中野裕太(以下、中野):僕みたいにあまり民泊に詳しくない人が、民泊の仕組みを知ることができる要素もあると思いますが、それ以上に夫婦愛や家族愛などの人間模様が、しっかりと描かれています。社会派ドラマでもありますが、“民泊”をキッカケに展開される、味わい深くほっこりとしたヒューマンドラマという印象を受けました。


ーー民泊をテーマにしたドラマって珍しいですよね。


中野:本当に珍しいみたいですよ。民泊をテーマにしたドラマや映画などの映像作品は、世界初だと監督が言っていました(笑)。僕もあまり聞いたことはなかったのですが、比較的安価なので、宿泊する際の選択肢の一つしてして魅力的だなって。


ーー海外で民泊は結構多いらしいですが。


中野:記憶が定かではないのですが、僕がイタリアに留学していたのがちょうど10年くらい前なんですけど、そのときは耳にしたことも、泊まったこともなかったです。“Airbnb”(宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのウェブサイト)を知ったのも、わりと最近ですね。


ーー中野さんが演じる昌平も、イギリスに留学経験のあるキャラクターですよね。自身と近い部分もあったのでは?


中野:昌平は、黒木メイサさんが演じる沙織の兄という役柄なのですが、僕にも妹がいるのでそこも一緒ですね。実際、沙織への接し方や会話のやり取りなどが、実の妹との関係性に似ているな、と思う事もありました。昌平には共感できる部分も多かったので、役には入りやすかったですね。でも、共感できない部分ももちろんあって、昌平は僕のようでいて僕ではない、不思議な感覚を抱きました。昌平は、優しくて良いやつなんだけど、自然に面倒事に巻き込まれていくタイプです。飄々とした性格をしているのですが、ドラマが進むにつれて、彼なりの悩みやバックグラウンドが徐々に明かされていくので、そこは注目していただきたいですね。


ーー中野さんは、留学の経験がお芝居に活かされていると感じることはありますか?


中野:言ってしまえば、どんな経験でも役者として活かすことができます。もしかしたら、自分自身じゃ気付かないところで、留学の経験が僕の独自性になっているのかもしれない。すごい身近なところで言うと、語学は役に立っていると思います。これから色々な国の作品にトライしようと思っているのですが、英語やイタリア語などを話せることによって、役者としての選択の幅が広がっていると感じます。


ーー黒木メイサさんとの共演はいかがでしたか。


中野:黒木さんは、何事にもサバサバしていて潔い、素敵な方でした。撮影の合間に銭湯の脇でよく世間話をしていたのですが、そういうアットホームな感じがこのドラマらしくていいな、と。黒木さんが妹感を出してくれたおかげだとは思いますが、初めての撮影シーンから自分の妹のように感じることができたため、兄妹という関係がスムーズに出来上がったと思います。


ーー沙織の結婚相手である寛太役の新井浩文さんとの共演については?


中野:新井さんは、いつも自然体で真っ直ぐな方だと感じました。自分の趣味に誠実なところなどは、寛太と似ている部分だと思います。それに、大変気さくな方で、撮影現場でも新井さんからよく話しかけてくれました。劇中では、寛太と昌平の2人で話すパートが多いのですが、ディープな会話を繰り広げるシーンは印象深く残っています。昌平と寛太の関係を、細かく打ち合わせするのではなく、演技を重ねる中でリアルな空気感を作り上げていきました。


ーー自然な演技を意識したのですね。


中野:僕は、芝居はリアクションが大事だと考えています。アクションにばかり気を取られていると、登場人物の関係性や物語の背景が見えにくくなってしまうと思うので、現場ではとにかく自然体でいることを心がけていますね。フラットな姿勢で多くのことを吸収し、その都度リアクションするようにしています。もちろん、演じる上で葛藤や悩みは常に存在します。本作でも、役者としてのスタンスを一旦切り替えて、新たな挑戦をしてみようと試行錯誤していました。共演者の方からも、これまで経験したことのない面白い刺激をたくさん受けることができたので、充実した有意義な撮影になっています。


■「疑問に感じることも多くなってきた」


ーー『拝啓、民泊様。』の谷内田彰久監督がメガホンを取った、日台合作映画『ママは日本へ嫁に行っちゃダメというけれど。』で、中野さんは主演を務めています。同作をきっかけに、役者として何か変化したことはありましたか?


中野:主演は作品においての軸であり、責任が重大なポジションなので、学ぶことは多いです。でも、主演を演じたというだけで、役者としてガラリと何かが変化したワケではありません。映画や舞台で主演をやらせていただいたり、バイプレイヤーとして出演するなど、様々な経験を通して自然と見えてきたものが、現在の方向性なんです。『ママは日本へ嫁に行っちゃダメというけれど。』では、中国語を使う役ではないのですが、この役をきっかけに中国語を学び始めました。台湾での撮影は、やはり雰囲気や人当たりなどの違いはあるのですが、根本的には日本での撮影と変わらない印象を受けましたよ。この作品を通して、中国の芸能界や国自体にすごく興味を持ったので、空いた時間に勉強していきたいと考えています。


ーー中野さんは、クラシックバレエやアートなどの趣味も多いですよね?


中野:クラシックバレエは本格的に踊れるというわけではなくて、身体の使い方やインナーマッスルの強化、ストレッチの一環として取り入れています。幼少期から絵や詩を書いたり、音楽を演奏したりと、様々なカルチャーに触れてきました。僕の理想は、そのような元々ライフワークとして行ってきた趣味の世界観を、俳優としての仕事に合致させることなんですよ。最近、それが少しずつ噛み合ってきたかな、と思います。ただ、うまく合致させるためには、役者としてのテクニックや実績などが必要で…僕はまだそこには達していないですね。


ーー中野さんは、以前はバラエティー番組で活躍されていた印象があるのですが、現在は俳優業に力を注いでいますよね。


中野:『仮面ライダーキバ』に出演していた頃から、ずっと一貫して役者業をやりたいと考えていました。ただ、どんな仕事をしていても、誰もがやりたいことだけをできるわけではない。自分らしい道に少しずつ近づくための努力をし続けた結果、今はタレント業を一旦お休みして、役者業に専念することができるようになりました。


ーータレント活動を休もうと思った時期は、どういうことを考えていたのですか?


中野:タレント業を行っていく上で、だんだんと疑問に感じることも多くなってきました。たとえば、ラジオ番組に出演しているとき、僕はラジオパーソナリティーの勉強をしているわけでもないので、どんな声で「こんにちは」ってリスナーに呼びかければ良いのか、わからなくなってしまったんです。すごく細かいことだとは思うのですが、そういう部分を気にしてしまうタチなんですよ。それに、タレント業をやっているときも、物作りや演技に対する欲求がどんどん強くなってきて、自らショートフィルムを撮ることもありました。


ーー自分の仕事とやりたいことにズレが生じていたのですね。


中野:あの頃は、とにかく芝居を練習しないと、と思っていました。自分で演技の先生を見つけてきて、週2回ほどプライベートレッスンを受けていたり、ハリウッドのメソッド演劇の先生に、「とにかく1から叩き込んでください」とお願いして、2年半くらい教わっていました。世間に見える仕事としては、タレントとして活動していたのですが、裏ではコツコツ俳優としてのスキルを磨いていました。


ーーなるほど。


中野:それで、2年くらい前に事務所の方と良く話し合い、役者一本に絞っていこう、ということになりました。もちろん、自分から退路を断つようで不安もありましたけどね。 今振り返ってみると、大変な時期だったと思いますが、当時行っていたタレント業を通じて、 貴重な経験をさせて頂けたことには本当に感謝しています。


ーーでは、これから役者として新しく挑戦したいことはありますか?


中野:秘密です(笑)。でも、とにかくいい芝居をして、いい作品を作って、見た方たちに「今日、良かったね!」と言っていただけるような、そんな作品にどんどん携わっていきたいです。(戸塚安友奈)