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北海道では“純粋”な音楽が生き残る? 地元在住ミュージシャンの動向をレポート

2016年10月23日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

The Floor『LIGHT UP』

<北の地が鳴らしてきた音>


「……ここ札幌と言えば、私が大変昔から尊敬しておりますbloodthirsty butchers、そしてeastern youth。fOUL、THA BLUE HERB、そして惜しくも、これまた解散してしまったんですけどもCOWPERS。その他色んな私が影響を受けたバンドが、ここ札幌には多くいらっしゃいますね」


 2002年11月30日。札幌のライブハウス・ペニーレーン24において、Number Girlが最後のライブを行った。この言葉は、その日に向井秀徳が放ったMCである。このMCからもわかるように、北海道という土地は音楽シーンの中でも稀有な存在を生んできた場所と言ってよいだろう。現在も活動している著名なミュージシャンを挙げても、GLAY、DREAMS COME TRUEといった、いわゆる「お茶の間」に浸透しているものから、怒髪天、the pillows、サカナクションといったロックシーンを出自としたバンドまで多数。近年は、道民の音楽DNAを支えるRISING SUN ROCK FESTIVALにも北海道のレジェンド達が出演していて、昨年は安全地帯、今年は松山千春や大黒摩季などのいわゆる大御所が出演し、オーディエンスを盛り上げていた。


 時は2016年。私事だが、筆者は昨年より日本の中心・東京で音楽に関わる立場から、故郷である北海道・札幌に戻って音楽に触れている。そこで最初に感じたことは、不思議と北海道にははっきりとした音楽シーンは存在しないということだった。東京のように、ライブハウスごとのわかりやすいジャンルの住み分けもほとんどない。しかし音楽性の違いこそあれど、私が故郷に戻ってから出会った目を引く音楽群に共通して感じたキーワードは「純粋性」。これから挙げるのは、すでに全国に向けて音源をリリースし、北海道の中でも注目を集めてはいるものの、全員がまだ地元在住のミュージシャンだ。これらの音楽に潜む「純粋性」が何故生まれ、この土地が何故ガラパゴス的な音楽シーンの広がりをみせているのかを考察していきたい。


(関連:怒髪天・増子直純が語る、熟練ロックの醍醐味 「バンドは歳を重ねたほうがいいものが出来る」


■The Floor


 今最も北海道で勢いのある北海道発4人組、The Floor。最近日本各地のイベントに顔を出し始め、今年は新人枠でRISING SUN ROCK FESTIVALにも出演した。彼らの魅力は、高レベルで絶妙なバランス感を創出しているところ。「ハイ&ロー」を一聴すればわかるように、PhoenixやVampire Weekendといった海外インディーロックの系譜にある世界水準のサウンドを披露。そこに、邦楽ロックど真ん中を貫く抒情的かつ力強い歌声が乗る。しかもそのメロディはリズミカルな音ハメをしつつも、サビではポップシーンにも馴染む普遍的なフックを持つ。ここまで様々な音楽の良質な部分だけを吸収して形にすると中途半端なものになってしまいそうなものだが、そうならないのが彼らの強さだ。――とにかく衒いなく、純粋に好き勝手に音楽で遊ぶ彼らは、新たなロックシーンのスタンダードに躍り出る可能性を秘めている。


■グミ


 飾らない出で立ちに、MV中でも見せる悪ふざけに滲み出る無邪気さ――はっきりと書いてしまえば「クソガキ」感溢れる、札幌在住の4人組ロックバンド・グミ。ライブでも平気でオーディエンスに「うるせぇ!!」と叫ぶわ、自撮りで写真は撮り出すわ、もうとにかく自由。しかし、楽曲を聴けばその印象などどうでもよくなってしまう。音楽的な真新しさ云々ではなく、とにかくメロディと歌詞にグッとくるのだ。彼らの代表曲「夏子」は、切なさと胸の高鳴りを呼び起こすメロディのフックを持ち、そこに綴られた飾らないリリックに、夏の刹那のすべてが鮮明に詰まっている。まだまだ演奏面ではこれからのバンドだが、ステージ上で彼らがみせる熱量の高さと無邪気さ、そして何より「歌」のよさは未来の可能性が煌めいている。純粋に音楽と青春を楽しむことを思い出させてくれる、ロマンのあるバンドだ。


■最終少女ひかさ


 最早北海道の域を出て、全国区の存在となりつつある札幌在住ロックバンド・最終少女ひかさ。彼らの音楽は、とにかく「剥き出し」。普通なら心の底に仕舞い込んでしまうような感情を捲し立て、世の中に対して牙をむくシャウトをぶち込むスタイルが平常運転。性急なBPMにエッジの利いたウワモノ隊が光る、今のフェスシーンにもリンクする点が彼らの広がりを助けているのだろう。ある意味、最も過去の北海道における音楽シーンの系譜にいるバンドで、eastern youthなどにも通じる泥臭さと生々しさが香り立つステージを披露している。それに加え、フロントマン但野正和の「ロックスターはこうでなきゃ!」と言わんばかりの風貌と、危うい魅力も彼らに引き付けられる理由の一つ。ロックと音楽を極限まで信じる純粋なマインドが生んだ、北海道オルタナティブロックの新星である。


■Softly


 今年2月にメジャーデビューを果たした、10代の2人組女性シンガーソングライターSoftly。彼女達は、苫小牧というフェリー移動のバンドマンにはお馴染みの港町の出身で、高校生の頃から注目を集めていた(ちなみに彼女たちは苫小牧の観光大使を務めている)。ギターのHARUKAが生み出す瑞々しい楽曲と、ボーカルMUTSUKIが綴る歌詞が創り上げる世界は、若い女性の等身大の心情を描く。そして、最も特筆すべきは、和声テイラースウィフトと言ってもいいほどの変幻自在の表情に加え、力強さと透明感を併せ持ったMUTSUKIの歌声。彼女たちが織り成す音楽は、歌謡大国である日本に幅広く届き得る、「ど真ん中」を狙えるもの。天真爛漫なキャラクター含め、とにかく良質なポップスを生み続け、それを届けたいという純粋な想いが光るふたりだ。


■NOT WONK


 最後に紹介するのは、すでに音楽フリークの間ではバズっている存在のNOT WONK。先に紹介したSoftlyと同じように苫小牧という街に住み、平均年齢も20歳とまだとても若いバンドだ。彼らの楽曲を一聴すれば、日本の枠組みを超えた世界レベルのサウンドに、とてつもない才気を感じることができるだろう。ステージ上でも雄弁に語るタイプではなく、とにかく自らが鳴らす音楽を楽しんでいる若者たちという印象が鮮烈に残る。周囲に左右されることなく愚直に自らが楽しむための音楽を鳴らした結果、彼らの音楽は国籍を越えたものになっているし、Literature(※アメリカのインディーロックバンド)と共演を果たしたことも頷ける結果だ。Galileo GalileiやFOLKS、もっと若い存在で言えばAncient Youth Clubなど、USインディーロックに傾倒しているバンドは北海道にも存在するが、ここまで純粋に日本のシーンなど脇目も触れずに突き進む存在は、日本中でも希少だ。


<北の地の離島が生む「純粋性」>


 少し話は変わるが、北海道という土地は離島であるが故に、基本的に他の土地から入ってきたものを受容していく文化である。「北海道のオーディエンスは、最初シャイだけど一度盛り上がると凄い」と様々なミュージシャンが口にしていることはご存じだろうか。その理由は、道民が外的なものを受容する生活を過ごす中で、すべての物事に対して一旦吟味をするタームを持つからだと感じている。だからこそ、音楽/姿が純粋ではないものを、北海道のリスナーが受け入れることは難しい。虚飾を持つものをピュアに評価することは難しいからだ。


 故に、まったくジャンルは問わずとも、先に紹介したような何かに対しての「純粋性」を持って音楽を放ち、その中でもフックを持つものが生き残る――今の北海道の音楽シーンの根幹にあるものは、こういう事象なのだと感じる。ロックシーンに限ってみても、怒髪天、bloodthirsty butchers、the pillows……過去に北海道から飛び出していった代表的なミュージシャンからも、共通のものを感じてならない。


 今後、どんな音楽がこの北の地から生まれていくかは予想もつかない。しかし、その音楽にはきっとこの土地で生き残るものだからこそ持つ、「純粋性」が光っているはずだ。(黒澤圭介)