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作詞家zoppの『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』評:生々しい物語が伝える、金の大切さと怖さ

2016年10月23日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)2016真鍋昌平・小学館/映画「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」製作委員会

 金は人を狂わせるーー。


 映画『闇金ウシジマくん ザ・ファイナル』(10月22日公開)は漫画を実写化した作品である。原作は小学館漫画賞を受賞し、累計1000万部の大台を突破した真鍋昌平による同名コミックスだ。


参考:『闇金ウシジマくん』山口雅俊監督 × 岩倉達哉Pが語る、シリーズ6年間の挑戦と進化


 金融屋・カウカウファイナンスの丑嶋馨(山田孝之)は、「1日3割(ヒサン)」「10日5割(トゴ)」という非合法な金利で金を貸し付けている。そんな暴利な条件でも人は、借金返済、ギャンブル狂い、欲望を満たすため、自尊心を守るため、様々な理由で金を借りにくる。生々しい人間模様と社会の闇がリアルに描かれた作品だ。


 これまでのシリーズに続き、今作にも一癖も二癖もある人物が登場する。丑嶋の中学の同級生竹本(永山絢斗)、原作史上最凶キャラ・鰐戸三兄弟の長男である鰐戸一(安藤政信)、過払い金請求で稼ぎまくる弁護士の都陰(八嶋智人)が、対峙する相手だ。他にも、綾野剛、最上もが、高橋メアリージュン、真野恵里菜など、個性的なキャストが脇を固めており、物語を彩っている。特に中学の同級生である竹本は、これまでの登場人物にはない癖があり、丑嶋はそれに翻弄される。


 衝撃的な中学生時代が描かれており、丑島の人格や、彼を取り巻く環境や人間関係がどうやって構築されたのかが理解できるようになっているのもポイントだ。丑嶋は、冷酷非道だが、自分のルールを持ち、それを守ることに徹底している。彼のポーカーフェイスぶりがそれを後押ししている。とはいえ、彼も一人の人間であることを証明するように、仲間に対する思いは人一倍熱く、作品を重ねるごとに彼の人間性の魅力に気づくだろう。原作ありきの映画に数多く出演してきた山田孝之だからこそ、丑嶋のような癖の強いキャラクターを見事に演じることができたといえる。特に食事をする際の、箸の動かし方が特徴的なので、是非チェックしてもらいたい。


 監督・プロデュースは山口雅俊。彼の関連作品には「金」が絡んだ作品が多く、『ウシジマ』シリーズの監督に適した人物といえよう。例えば、『ナニワ金融道』シリーズのプロデュース、『カイジ 人生逆転ゲーム』、『カイジ 人生奪回ゲーム』『スマグラー お前の未来を運べ』の企画・プロデュース・脚本などを手掛けている。ちなみに『スマグラー』の原作は『ウシジマ』と同じ作者、真鍋昌平である。


 闇金ウシジマシリーズの主題歌とイメージソングは、これまで全てSuperflyが担当しており、今作でも素晴らしい歌声で物語を表現している。今作の主題歌「Good-bye」は、映画のラストシーンで物思いに耽る丑嶋の心の内側を具現化したような歌詞になっていて印象的だ。捉え方によっては、竹本のそれかもしれない。悲しげながらも、そこに希望を見出そうとするような、様々な思いやメッセージがメロディ、歌詞、アレンジ、歌声で見事に表現されている。


 また、私事ながら、今作のイメージソング「天上天下唯我独尊」の作詞を担当させていただいた。漫画は既読だったが、改めて全巻を読み返した。一人の物語が終わるたびに、お金の大切さ、怖さを改めて痛感した。社会に出てわずか十数年だが、これまで多くの、お金で我を失う人間たちを見てきた。彼らのことを思い出すと、自然とペンが進んだ。主題歌やイメージソングを作る際に気を付けなければいけないのは、作品に偏り過ぎないことだ。キャラクターソングとは違い、聴き手が想像できる隙間を作る必要がある。さらには、作品のテーマやメッセージを踏まえて、作り手である自分なりの答えやメッセージに落とし込む必要があるため、かなり苦労する。ただ、そのぶん遣り甲斐はある。


 原作は陰惨で暴力シーンが多いが、映画化に際してその色合いが薄まっており、幅広い客層に向けて仕上げられている。様々な物語が絡み合っていくため、120分が短く感じられた。思わず自己投影してしまうほどのリアルさが、この作品の良さだ。あのとき、もしも選択を間違えていたら、自分は登場人物のような末路を辿っていたかもしれない、と思わず考えさせられてしまう。


 さらには、ポーカーフェイスの丑嶋が、ラストシーンで見せる表情だけで語るシーンは、観客に判断を委ねるような意味深なものだったため、様々な想像ができるだろう。この映画を観終わったあと、誰かと情報を共有して、タラレバ話に花が咲くこと間違いなしである。そして最後に、お金や人間関係について考え直すこと請け合いだ。金の主人になるのか奴隷になるのか、この作品を見て、今一度考えてみるのもアリかもしれない。(zopp)