2016年10月23日 10:21 弁護士ドットコム
自民党税制調査会は10月18日、非公式幹部会合を開き、2017年度税制改正のテーマを確認した。その中の一つが、ビール系飲料にかかる酒税の統一だ。
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報道によると、酒税については、発泡酒や第三のビールを含めたビール類の税額を55円に統一する案が浮上しているという。
税率一本化によって、消費者にはどのような影響が出るのだろうか。メーカーはどう向き合わなければならないのか。小林拓未税理士に聞いた。
まず、「ビール」「発泡酒」「第3のビール」の違いざっくりと見てみましょう。
1990年代のはじめは、酒税法では麦芽の比率が3分の2以上のものを「ビール」、それ未満は「雑酒」と分類してビールに比べて低い税率になっていました。そこで、ビールメーカーは麦芽を65%に抑えた発泡酒を開発。ビールより安価な価格で人気を博していくことになります。
ところが、発泡酒が人気を博すと、政府は発泡酒の税率を引き上げました。「麦芽使用比率50%以上67%未満」はビールと同じだとしたのです。これに対してビール業界はさらに低い麦芽比率の商品を開発して対抗し、発泡酒はさらに庶民の支持を得ていきます。
面白くない政府は、2003年にさらに酒税法を改正し発泡酒を増税します。これに対して、ビールメーカーも対抗…。こうして、発泡酒とも異なる、麦芽以外の原料を使用するなどした第3のビールが商品化され、人気を博していくことになりました。
このように、ビール、発泡酒、第三のビールという区分は、政府とビールメーカーの『イタチごっこ』の末に生まれた区分といえます。現在、350mlの缶一本あたり、ビールは77円、発泡酒は47円、第3のビールは28円の酒税がかかっています。
これが55円程度に統一されると、ビールは22円酒税が下がり、発泡酒は8円、第3のビールは27円、それぞれ増税されることになります。当然この分が小売価格に影響することになります。
そうすると、ビールの販売量は増加するものの、発泡酒、第3のビールについては、消費者がより割安な酒類を求め、販売量が減少することが予想されます。
消費者からは、「税金を取りやすいところから取るのか」「庶民の楽しみを奪うな」などの反発が起こるでしょう。
サッポロの商品「極ゼロ」が発泡酒か第3のビールかという点で、納めた税金の返還をめぐって争いが起きたことは記憶にあたらしいと思います。
税率が一本化されると、こうした税率や製法を巡るトラブルは無くなるかもしれません。しかしながら、急激な税率の変化は、直近の商品開発戦略や、生産計画に大きな支障を生じさせることになります。
また、メーカーの決算にも影響が及びます。売上の構成上、発泡酒、第3のビールの割合が高い会社は減益に、ビールの割合の高い会社は、増益になるかもしれません。
決算は当然株価にも影響を及ぼすことになりますし、ビール会社の業界再編につながる可能性もあります。政府は、少なくとも時間をかけて段階的に税率差を縮小するような配慮が求められるのではないでしょうか。
【取材協力税理士】
小林 拓未(こばやし・たくみ)税理士
東京都中央区にて平成19年から開業。「専門家として、長期的な視点で顧問先の発展に尽力する」ことを経営理念に掲げる。10年で5回の引越しを経て、業績拡大中。
事務所名 : 小林税理士事務所
事務所URL:http://www.ktaxac.com
(弁護士ドットコムニュース)