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cinema staffはインディーズ時代の名曲をどう更新した? 『前衛懐古主義 part1』東京編レポート

2016年10月22日 15:51  リアルサウンド

リアルサウンド

cinema staff(写真=Daisuke Miyashita)

 cinema staffが、『前衛懐古主義 part1』の東京編を10月17日に恵比寿LIQUIDROOMにて行った。同ライブは、インディーズ時代の音源『document』(2008年)、『Symmetoronica』(2009年)、『Blue, under the imagination』(2010年)、『水平線は夜動く』(2011年)でセットリストを構成するという企画で、東名阪の3会場で開催。東京公演当日は月曜にも関わらず多くの人が詰め掛け、cinema staffとしては初めて恵比寿LIQUIDROOMの会場をソールドアウトさせた。


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 定刻から10分遅れでステージに登場したメンバーを、客席は温かな拍手で迎える。4人が一斉にライブの始まりを告げる音を鳴らし、cinema staffが第1作目としてリリースした『document』の1曲目「AMK HOLLIC」からライブをスタートした。


 cinema staffのライブの名物ともなっているのが、三島想平(B)や辻友貴(Gt)のアグレッシブさを超越した演奏スタイル。「AMK HOLLIC」で辻は爆音のノイズを鳴らしながら頭の後ろでギターを演奏するなど、序盤から派手なパフォーマンスで会場を沸かせた。変拍子を含む強烈な楽器のサウンド、飯田瑞規(Vo, Gt)の伸びやかな歌声、三島の壮絶なシャウトが、絶妙なバランスで交錯して耳に届く。続けて披露した「チェンジアップ」「想像力」では、四つ打ちのリズムに合わせ観客が踊り、「ワン、ツー!」の掛け声で始まった「第12感」まで大きな盛り上がりを見せた。


 MCで飯田が「昔はここでやることなんて無理だった。長いことバンドやってきて良かったなと噛みしめております」と感謝を伝えたあと、『Blue, under the imagination』から「バイタルサイン」「Truth under the imagination」と飯田と三島の歌声で魅了する楽曲を披露。バンド全体の生み出すグルーヴが、歌詞の意味を鮮烈に伝える役割を果たしている。一瞬静まりかえった会場に、しっとりとした出だしから始まった「サイクル」。間奏で迫り来るようなドラムのビートを久野洋平(Dr)が鳴らした直後、飯田が<息が止まりそうで不安なんだよ>と歌唱した。また、イントロから穏やかな曲調で始まり、飯田のささやくような歌声を、三島のシャウトと激しい演奏が追いかける「妄想回路」では、直後に飯田が<叫ぶように 囁くように>と歌う。2人の歌声とそこで鳴る音が、歌詞の世界観をより鮮明に表現しているように感じた。


 飯田は、「(インディーズ時代の楽曲を聞いていた)当時のことを思い出しながら聞いてくれたら」と観客に語りかける。久野は「俺も浸りながら演奏してたけど、当時、飯田くんこんなやつじゃなかったなって(笑)。MCとかしてなかったもんね」と、当時を懐かしむ様子も見られた。


 その後、2011年にリリースしたインスト楽曲「水平線は夜動く」を真っ白なライトに照らされたステージで披露。cinema staffはデビュー後にリリースした4thアルバム『blueprint』の「陸にある海」、5thアルバム『eve』の表題曲と合わせ、インスト楽曲を3曲リリースしている。最近のライブではあまり披露されない同曲の演奏中は神秘的な空気が漂い、観客はステージに釘付けになっていた。


 ここからは「君になりたい」「ニトロ」と人気のナンバーを演奏。ギターが息をするかのようなオーバーなアクションを繰り広げていた辻は、とうとう客席へダイブ。最後は、ギターを鳴らし始めた辻が飯田と向かい合い、2人だけにスポットライトが照らされる。MV通りの演出で「GATE」の演奏をスタートさせると、観客の大合唱が巻き起こり、それに応えるようにしてメンバーは最高のパフォーマンスでライブの本編を締めくくった。


 アンコールで再び登場した飯田は、さまざまな時期から聴いてくれているファンが会場に集まったことに触れ、「今日、結構緊張していたんです。みんなが納得するようなライブがしたくて。楽しんでもらえましたでしょうか」と会場に尋ねると、暖かな拍手が起こった。また、11月30日にリリースするトリプルA面EP『Vektor E.P.』から初解禁となる「返して」をアンコールで披露。飯田と三島の歌声によるハーモニーが心地よい同曲に、初めて耳にする観客も自然と体を揺らしていた。


 メジャーデビュー後、計5作のフルアルバムをリリースし、自らのオリジナリティを確立してきたcinema staff。かつて『JUNGLE☆LIFE』で答えていたインタビューでは、初めてリリースした『document』の制作を振り返り、飯田が「自分たち的には納得いっていない感じだったんです。初めてのちゃんとしたレコーディングだったので全然上手くいかなくて」と語っていた。しかし、8年の時を経て、彼らの音楽の原型を作ったインディーズ時代の曲たちが、まるで新曲のようにいきいきと披露されていた。久野が「昔の曲も今やったほうがカッコいいじゃん」と得意げに話していた通り、バンド自身も楽曲そのものにも磨きがかかっていたように思う。リリース待ちの新曲を含め、cinema staffが自身の楽曲に今後どう磨きをかけていくのか楽しみだ。


 同企画の大阪、名古屋での残り2公演は、11月21日に梅田Shangri-La、11月22日に名古屋CLUB QUATTROにて開催される。(大和田茉椰)