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尾崎裕哉は単なる“尾崎豊二世”ではないーー音楽的ルーツから考えるシンガーとしての可能性

2016年10月21日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

尾崎裕哉「始まりの街」

 尾崎裕哉が、9月9日に「始まりの街」を配信リリースした。父親である尾崎豊を思わせる少しハスキーな声に驚いたリスナーも多いことだろう。受け継いだ声だけではなく、息遣いや歌い方にも父親への意識が垣間見える。しかし、楽曲に着目してみると、「始まりの街」はロックでもブルースでもない。壮大なストリングスから始まる、母親への感謝をストレートに歌った美しいバラードである。本稿では、裕哉の音楽的ルーツを辿っていきたい。


(関連:音楽プロデューサー・樫原伸彦が語る、尾崎豊との出会いと衝撃 「彼は全く音楽を生業としてやっていなかった」


 裕哉の著書『二世』(新潮社)によれば、裕哉は中学時代にギターを始め、メタリカ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、グリーン・デイといった流行のバンド、高校時代には、エリック・クラプトンやB.B.キングといったロックやブルースを聴き、中でもジョン・メイヤーを好んでいたという。オフィシャルサイトのプロフィールにも、「尊敬する人」の一人にジョンの名を挙げている。(参考:http://www.hiroyaozaki.com/about/)また、彼はこれまでにInter FMでラジオ番組のパーソナリティを務めた経験もあり、番組内では流行の洋楽や、自分の好きな曲を紹介するなどしていた。父親から受けた影響はあるものの、彼の音楽に対する好奇心旺盛さは、「尾崎豊の息子だから」という域を超えている。


 さらに、『二世』では、「最近の僕の音楽的関心はイギリスへと移っていた」とあり、アデルやジェイムス・ベイ、サム・スミスといったシンガーソングライターの名前を挙げている。さらに、裕哉が初ライブを行なった2012年の『FUJI ROCK FESTIVAL』では、父親にミュージシャンのジェイムス・リザーランドを持つシンガーソングライター、ジェイムス・ブレイクにインタビューを敢行。こうした彼のルーツから考えると、オリジナル楽曲として初めてリリースした「始まりの街」を、ギターではなくストリングスを用いたバラードにしたのは、アデルやサム・スミスといったシンガーたちを意識してのことかもしれない。


 また、以前インタビューで裕哉は「ぼくのなかでのミュージシャン像は、頼れる兄貴みたいな存在です。だから、ぼくもそうなりたい」と語り、高校時代、ジョン・ウッドによる授業に感銘を受けたことから、「音楽で社会問題を解決しようと決めました」と話していた。(参考:http://alternas.jp/work/challengers/64220)日本のアーティストは、社会問題に対する発言を積極的にしたがらない傾向にある。しかし、思春期のセンシティブな時期をアメリカで過ごし、社会への疑問や反抗を歌う父親・豊の音楽に加え、ゲイであることをカミングアウトしたサム・スミスなども好んで聴いている彼ならば、父親とは異なる「頼れる兄貴」として社会問題に臆さず言及できるシンガーとなる可能性も十分にある。


 彼のオリジナル楽曲のリリースは現時点では1曲のみ。しかし、ロック、ブルース、ポップス…と、海外の音楽をリアルタイムで貪欲に聴いている“尾崎裕哉”だからこそ書ける曲と詞が今後生まれていくのでは、という期待が高まる。また、音楽を使ってどのように社会と向き合っていくのか、彼の発言も追っていきたい。(村上夏菜)