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2016年のMV決定打に? TV・雑誌で評価集めるBURNOUT SYNDROMESの映像美

2016年10月21日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BURNOUT SYNDROMES

 青春文學ロックバンド・BURNOUT SYNDROMESの「少女とタイポグラフィ」で表現されるMVのクオリティや技法が、様々なファンやメディアから注目を集めている。


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 彼らはインディーズ時代のMV「文學少女」から一貫して、“ 少女”というテーマや、タイポグラフィで構成したリリックビデオで音楽を表現しており、「文學少女」はアニメーションを使用したモーショングラフィックスが話題となり、『テクネ 映像の教室』(NHK Eテレ)などで取り上げられた(http://arakaze.ready.jp/archives/3264)。その続編というべき「FLY HIGH!!」は、実写とグラフィックを使用した“2.5次元”というべきデザインで、こちらは映像などを紹介する雑誌『MdN』にも掲載されるなど、カルチャー系メディアからの評価も高い。


 そして、彼らの新曲「ヒカリアレ」は、表示される文字が合成・CGではなく、 全てプロジェクターを使用し、撮影現場で投影した光のみで実写撮影を行なった3次元のリリックビデオだ。同MVは公開から2週間で100万回再生を突破するなど、若手ロックバンドのなかでもひときわ目立つバズを起こしている。では、彼らのMVは他アーティストとどのように違うのか。洋邦問わずさまざまな音楽に精通するライターの杉山仁氏は、同バンドのMVに「文学性を感じる」とした。


「昨今スマートフォンなどを使ってMVを気軽に見られる状況が生まれる中で、『歌や演奏シーン以外の要素で魅せるMV=アーティストの魅力を拡張できるMV』の重要性は増しているのではないでしょうか。何を拡張するのかはアーティストによって様々ですが、BURNOUT SYNDROMESの場合はどれも、歌詞の魅力を伝えることに焦点が当てられていると感じます。縦組みを意識した印象的なタイポグラフィと女の子の映像を掛け合わせることで、まるで小説のページをめくっていくような効果が生まれている。これは自身を“青春文學ロックバンド”と呼び、歌詞に文学作品からの引用も忍ばせるなど、20代前半ながら古風な趣も感じられる彼らの魅力を的確に伝える役目を担っているといえます」


 同時に、彼らのMVがクリエイター・カルチャーメディアに高い評価を得ている背景をこう分析する。


「ひとつには、かかわっているクリエイターや出演陣の顔ぶれが挙げられるかもしれません。彼らのMVのディレクションを担当しているのは、乃木坂46などの作品を手掛ける川本拓三氏(Sony Music Communications)で、『文學少女』ではそこにfhánaの『kotonoha breakdown』などのMVでも知られる気鋭の映像ディレクター・大橋史氏、他にも多数のクリエイターが参加しています。また少女役として『第3回JUNONプロデュース ガールズコンテスト』グランプリの若手女優・染野有来さん(『FLY HIGH!!』)や人気若手女優・モデルの武田玲奈さん(『ヒカリアレ』)が出演するなど、クリエイター/出演陣は今の時代を反映したものに仕上がっています。ただレトロなのではなく、それを新しい感性で解釈した雰囲気や完成度の高さ、そして切り口の多さが、高い評価を受けている要因なのかもしれません」


 続けて杉山氏は、岡崎体育「MUSIC VIDEO」やlyrical School「RUN and RUN」など、MVのバズからさらなる人気を獲得したアーティストが頻出している2016年の音楽シーンについて、下記のような見解を述べた。


「その理由としては、動画系SNSの普及などによって、若者の動画への注目が再び高まっていることが挙げられるのではないでしょうか。彼らはSNSを使って自ら動画を配信/発信したり、受け取ったりすることで、動画コンテンツに対する親近感と肥えた目を同時に養っていますから、少しでもサッカーを経験すればプロの選手のすごさが具体的に理解できるのと同じように、彼らはアイディアに溢れた動画制作の難しさを知っているということです。ほかにも、2台のスマホを並べて2バージョンのMVを同時再生することで物語の全貌が分かるHaru.Robinsonの『愛が降る街』、インスタグラムにアップされた動画が組み合わさって最終的にMVになる上坂すみれの『恋する図形』など、スマートフォンやSNSを通じて日々動画を閲覧する現代ならではの環境を生かした表現方法が生まれ、MVの新たな可能性が開けています」


 では、そのなかでBURNOUT SYNDROMESの「ヒカリアレ」は、どのような可能性を秘めているのか。


「個人的には、昨今のMVへの注目はデジタルツールの発達/普及によって生まれた部分が多いと思っているのですが、BURNOUT SYNDROMESのMVは、どの作品もアナログな質感を残しつつ現代風にアップデートするという手法によって作られているように感じます。特に『ヒカリアレ』のMVは、揺れる光の質感を生かすなど、撮影手法として以前よりもさらに難易度が高く、よりナチュラルなものになっている。このこだわりを、新鮮に受け取る人も多いのではないでしょうか。そもそも、歌詞をアニメーションのように動かして伝える“キネティック・タイポグラフィ”という手法は、ボカロPのMVなどを通して若者を中心に広く受け入れられてきた表現技法です。そういった映像に慣れ親しんだユーザーにも、MVを通して彼らの魅力が伝わっていく可能性を秘めているのでは」


 複数のMVがバズを起こし、豊作の年と言っても差し支えない2016年の音楽シーン。今年も残り2カ月となったが、BURNOUT SYNDROMESを含め、まだまだチェックに余念がなさそうだ。


(中村拓海)