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初登場2位、就活学生の自意識を暴いた秀作『何者』の観客はナニモノ?

2016年10月21日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016映画「何者」製作委員会  (c)2012 朝井リョウ/新潮社

 今週もまずは『君の名は。』について。当然のように8週連続1位となったわけだが、先週末の土日2日間の動員は34万7000人、興収は4億6800万円。なんと、ここにきて前々週から興収が約33%ダウン。公開から2ヶ月半が過ぎて、初の大幅減収となった。巷では「興収150億突破!」「興収155億(歴代11位)の『崖の上のポニョ』超え確実!」といった景気のいいニュースが飛び交っているものの、遂にその勢いもここまでかーーと思いきや、今週に入ってからウィークデイの動員で先週超えを連発している。本当に、何から何まで前例のない動きをしている『君の名は。』は、興行分析泣かせの作品だ。


参考: 25年経ても就活の滑稽さは変わらない 『何者』と『就職戦線異状なし』の共通点


 2位に初登場したのは三浦大輔監督の『何者』。先週末の土日2日間の動員は13万1000人、興収は1億8200万円。『君の名は。』と同じ川村元気のプロデュースによる作品であるという業界事情はさておき、既に1000万人以上が劇場で観た『君の名は。』の上映館で予告編がかかり続けていたこと、そして観客の年齢層の中心が『君の名は。』に近いであろうことを考えると、少々拍子抜けする数字に思えたのは自分だけだろうか。ここは、ちょっと慎重に分析してみたい。


 まず、主演の佐藤健にとって前作にあたる『世界から猫が消えたなら』(こちらは川村元気プロデュース作品ではなく、川村元気原作作品だったわけだが)のオープニング2日間の動員は14万1691人、興収は1億8470万9900円。これは『何者』とほとんど同じ数字である。とはいえ、そこで「なるほど、現在の佐藤健の集客力はこのくらいなのか」と思うのは早とちりであると言わせてもらいたい。


 というのも、シネマトゥデイの調査によると、『世界から猫が消えたなら』の観客の男女比は31:69と、ほぼ7割が女性であったのに対し、『何者』の観客の男女比は41:59と、男性客がグッと上がっているのだ。佐藤健以外の『何者』のキャストは有村架純、二階堂ふみ、菅田将暉、岡田将生、山田孝之といった面々。有村架純や二階堂ふみ目当てで男性客が多少増えたとしても、それを相殺するくらいの人気男性キャストも揃っている。実際、ここ数年の日本映画の興行成績の数字を見ていて思うのは、重要なのは作品とキャストがハマっているかどうかで、特に20代の男優女優においては、そこまで数字を大きく左右する突出したキャストは存在していないということだ。


 では、『何者』の観客の40%以上が男性となったのは何が原因かと考えると、思い当たるのは朝井リョウ原作作品としての前作にあたる『桐島、部活やめるってよ』への高い支持だ。『桐島、部活やめるってよ』は、公開時の興行こそ細々とロングランが続くという地味なものであったが、その後、数々の映画賞を獲ったことや、口コミ効果によって、公開後にDVDなどでかなりたくさんの人に観られた作品だった。そして、あの作品について熱く語るのは、主に男性であった。


 もっとも、『何者』の「就職活動中の男女」という題材は、『桐島、部活やめるってよ』で描かれた「高校生の日常生活」のように普遍的なものではなく、中高生の観客にとっては「あまり向き合いたくない未来」であり、若い社会人の観客にとっては「あまり振り返りたくない過去」であったのかもしれない。男女比が均等に近く、しかもかなり限定された年齢層の観客が劇場に足を運んでいる『何者』は、この規模のヒット作としては、かなりユニークな支持のされ方をしている作品である。(宇野維正)