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大原櫻子はアーティストとして一段上のステップへ 歌とダンスで見せた武道館ツアーファイナル

2016年10月21日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

大原櫻子(写真=川嶋謙吾(田中聖太郎写真事務所))

 大原櫻子が、10月5日に日本武道館にて『大原櫻子 CONCERT TOUR 2016 ~CARVIVAL~』のツアーファイナルを迎えた。


(関連:大原櫻子が語る、シンガーとしてのスタンス「メッセージをしっかりと伝えられる人になりたい」


 大原にとって3度目となる今回の全国ツアーは、6月29日にリリースした2ndアルバム『V(ビバ)』の発売を記念としたもので、キャリア史上最大規模。ツアーの集大成となる武道館のステージで彼女は、抜群の歌唱力と卓越したギターやピアノテク、そして今回のツアーより新たに取り入れたダンスパフォーマンスを披露し、アーティストとして一段上のステップに進んだことを証明して見せた。


 武道館のステージは2階建ての構造になっており、中央にはアルバムタイトル「V」の大きなモニュメントが鎮座していた。会場が暗転すると客席にはピンク色のサイリウムが一気に点色。アップテンポの「SE ! CARVIVAL」が会場に鳴り響く。「V」のモニュメントが180°回転すると、高らかにVサインを決めた大原が登場。「カービバルスタート!」と宣誓しライブは「ステップ」で幕を開けた。序盤は「真夏の太陽」「トレモロレイン」などアルバム『V』よりポップチューンを中心に披露していく。大原の力強いアカペラからスタートした「真夏の太陽」で、会場はファンが曲に合わせて振り回すタオルで埋め尽くされていた。大原はそんなファン一人ひとりに真っ直ぐな視線と指先でレスポンスを送っていく。元気良く飛び跳ねるたびにピンクのスカートが揺れるのも愛らしい。MCでは「一緒に踊って歌ってカーニバルのような楽しいライブにしていきたいと思います!」とツアータイトルが「カーニバル」と「V(ビバ)」を掛け合わせた造語であることを説明。自身の代表曲「瞳」では威風堂々とアコースティックギターをかき鳴らし、大サビでは会場のファンにマイクを預け大合唱を巻き起こした。会場を見渡すと大原と同世代の女子の姿が目立つ。この曲の歌詞は大原による作詞であるが、<涙だって笑顔だって がむしゃらになった証だよ>と歌われる女子の合唱は彼女の曲が“みんなの歌”として浸透していることを実感させた。


 衣装チェンジのためにステージをはけると、会場には雨粒が落ちる音と<Tip Tip Tap>というハミングが徐々に大きくなっていく。レインコートと赤いパンツに着替えた大原が再びステージに登場し「トレモロレイン」がスタート。水玉傘を差した彼女は、ダンサー2人を引き連れスタイリッシュなダンスを披露していく。ダンスコーナー「DANCE ! CARVIVAL」では激しいビートに乗せたダンスパートに突入し、そのまま四つ打ちのダンスチューン「Dear My Dream」へ。ステージには力強いステップとキレのあるダンス、そして時折妖艶な表情を見せる大原の姿があった。昨年、大原が出演していた演劇『地球ゴージャス』でもダンスを披露する場面があり、その際の経験は大きいはずだ。そして、驚くことに踊りながらでも大原の歌唱力は全くと言っていいほど落ちることはない。このことについては、後のMCで「今年は初舞台をやらせて頂いて、本当にこのツアーに入って喉の強さをすごく実感しました。舞台のおかげで自分自身も強くなったなと思います」と芝居の経験が歌唱力にも繋がっていることを語っていた。


 ダンスパートで熱を帯びた会場をクールダウンさせるように、バラード、ミディアムチューンが多く披露された中盤パートは、大原のピアノ弾き語りによる「こころ」で幕を開けた。続く「君になりたい」では、ステージ上の幾つもの電球が星空のように光り輝く演出が楽曲に色を添えていく。“2人だけのサイン”がテーマの「サイン」では、武道館の外まで突き抜けるほど力強く、抑揚たっぷりの大原のアカペラから始まり、会場を一変させた。エレキギターをかき鳴らし歌う彼女の気迫は圧巻そのものだ。『V』の中でも特に体から振り絞るように歌われるこの曲は、大原の歌唱力が存分に活かされた楽曲であるが、この日大サビでフェイクをかけて歌っているのを聴き、彼女の歌手としての才能を感じずにはいられなかった。


 夏の終わりを歌った切ないラブソングの「September」の後は、アコギからエレキに持ち替え激しいロックパートへ。「READY GO!」では大原の威勢のいい掛け声に呼応して会場のファンが拳を突き上げる。疾走感溢れるメロディーに大原の歌い方もこぶしが効いてくるほど力強いものになっていく。盛り上がりはそのまま、アルバム『V』の1曲目を飾る「踊ろう」では大原がファンに振り付けを教え武道館を一つにしていた。「1st、2ndツアーではエレキギター、ピアノとか新しいことに挑戦していたんですけど、今回はダンスをやってみました。同じ時間、場所、空気を吸って、音楽を楽しめるこんな素敵なことは奇跡なんじゃないかなと思っています。また、みなさんのもとに戻ってくるときはさらに大きくなって戻ってきたいと思います」とツアーを振り返り、続けて「何か壁にぶつかったときとか、道に迷ったときに次の曲を聴いて頂いて、一歩踏み出す勇気を受け取ってもらえたら嬉しいと思います」とファンに話しかけ<輝け 涙も勇気なんだ>と前向きなメッセージが込められた「Scope」を熱唱した。


 アンコールは、大原が振り付けを手がけ、1stツアーから“ほっこりソング”として恒例の「のり巻きおにぎり」で幕を開けた。頭の上に両手で山を作り上下に動かす振りをファンに指導し会場は明るいムードに。「大好き」ではアリーナに巨大バルーンが登場し会場を彩り豊かに演出していく。大サビでは<武道館のみんなへ my love forever>と歌詞をアレンジし歓声があがった。「これまでツアーの中ではやってこなかった大切な1曲をみなさんに届けたいと思います」と話し披露されたのは「ちっぽけな愛のうた」。大原にとって“大切な1曲”であり、ブレイクのきっかけになった曲だ。イントロが鳴り始めると割れんばかりの歓声が武道館に木霊した。「最初のアカペラはいつも1人で歌っているんですけどみなさんと一緒に歌いたいです」とコメントし、最後に歌われたのはデビュー曲「明日も」。大原がボーカルをリードしていくと徐々にファンの声が大きくなっていき大合唱に。大原は「チェリー!」「ブロッサム!」とファンとコールアンドレスポンスを交わしながら、「V」のオブジェの向こうへと去っていき大団円を迎えた。


 筆者の中でライブの開演前と終演後で、“大原櫻子”のイメージはガラッと変わっていた。それは「俳優」と「歌手」を交互に行き来する彼女のイメージに加えて、「ダンス」という“踊れる大原櫻子”を見せつけられたから。歌唱力の試される「サイン」や「Scope」、代表曲「瞳」「明日も」では本人も話していた、舞台経験によって培った喉の強さによるどこまでも伸びる歌唱力を垣間見ることができた。大原は来春より上演となる『Little Voice(リトル・ヴォイス)』で舞台初主演を務める。同作は歌の力で自らの人生を切り拓いていく物語。大原はジュディ・ガーランドやマリリン・モンローなど初めて洋楽のカバーを披露する予定だ。この経験が「歌手」の大原にとってどのように響いていくのか。そんな思いを馳せてしまう、それが「大原櫻子」という人物だ。


(取材・文=渡辺彰浩/写真=川嶋謙吾(田中聖太郎写真事務所))