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恋愛ドラマの女王・北川悦吏子の新境地! 進化系イケメンドラマ『運命に、似た恋』が面白い

2016年10月21日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『運命に、似た恋』公式サイトより

 NHKで金曜夜10時から放送されている『運命に、似た恋』が、どんどん面白くなってきている。本作は、原田知世が演じる高校生の息子がいる45歳のシングルマザー・桜井香澄(カスミ)と斎藤工が演じる一流デザイナーの小沢勇凛(ユーリ)のラブストーリー。脚本は、連続ドラマは久しぶりとなる恋愛ドラマの女王・北川悦吏子。『セカンドバージン』や『はつ恋』など、NHKは大人の女性と年下のイケメン男性のラブストーリーを作り続け、大石静や中園ミホといった女性脚本家の新境地を切り開いてきた。


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 本作もまた、その流れを汲む大人のラブストーリーだと言える。しかし、そこは『ロングバケーション』(フジテレビ系)を筆頭に数々の名作恋愛ドラマを紡いできた北川悦吏子だけあって、一筋縄ではいかない作品となっている。


 最初に本作が面白いと思ったのは、ユーリがカスミと話している時になりゆきで「壁ドン」のポーズになった場面。「あの~これ、壁ドン…知ってますか? あの~これ、壁じゃなくて車だから車ドン。二年前くらいに前に流行ったんです。ちまたで。テレビとかで」と照れながら斎藤工に言わせているのを見て、これはただのイケメンドラマではないなと思った。


 斎藤工は『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』以下、『昼顔』(フジテレビ系)で、上戸彩が演じる主婦と不倫する教師を演じてブレイクしたイケメン俳優だ。『昼顔』以降、バラエティ番組などの露出も増えた斎藤は、イケメン俳優として世間に注目されることに対する困惑を度々語っている。そんな斎藤自身の姿と、真面目に仕事をしているのに、外見だけで評価されることに苛立つユーリの姿はどこか重なって見える。


 面白いテレビドラマは、演者と役が抱えている悩みや心境をうまくシンクロしていることが多い。それがうまく重なると、虚構性と生々しさが作品に宿ることになるのだが、そんなフィクションとドキュメンタリ-の二重性を演じさせた時にもっとも面白い女優こそが、カスミを演じている原田知世だろう。


 原田は大林宣彦の映画『時をかける少女』で15歳の時にデビュー。『時をかける少女』で原田が演じたのは、ふとした偶然でタイムリープ(時間移動)ができるようになった少女・芳山和子だ。劇中の原田は、同じ教室の隣の席に座っていても不思議ではない生々しさと、フィルムの中にしか存在しえないファンタジックな美少女性が共存している不思議な女優だった。原田の面白さは一人の女性の中にある正反対の要素が平然と共存していることだ。今作ではそこに、大人と子どもという二面性が加わっており、高校生の子どもがいるシングルマザーでありながらも、少女の面影を残すカスミという役に見事にハマっている。


 原田の少女時代を演じているのがミスiD2014でグランプリを獲得して『ワンダフルワールドエンド』等の映画に出演している蒼波純だというのも見事なキャスティングだ。ミュージシャンの大森靖子を筆頭とする新鋭クリエイターたちに愛されている蒼波は『時をかける少女』に原田が出演した時と同じ15歳。今も地方在住の蒼波から感じるのはどこにでもいる普通の女の子の生々しさとファンタジックな美少女性が共存している姿で、『時をかける少女』の時の原田に通じるものがある。『運命に、似た恋』では、カスミが海辺で出会った初恋の少年・アムロとの思い出が回想シーンとして繰り返し挿入されるのだが、蒼波が演じたことで、この少女が、大人のカスミになったのだとちゃんと実感できるのだ。


 また、見ていて感心するのは、ユーリがオシャレなデザイン事務所を構えてセレブたちと交流する姿とシングルマザーのカスミが日々の労働に追われる姿の対比を丁寧に描いていること。クリーニング屋で働くカスミの仕事の描写を筆頭に個々のディテールはリアルなのだが、物語は童話のように幻想的で、この物語自体が相反する要素が平然と共存しているのだ。


 第4話では、カスミが、「君といると私、みすぼらしい気持ちになる」と、自分の気持ちを告白してユーリと別れようとする。対してユーリは「俺、クリスマスのイルミネーションじゃないから。あなたが夢みるための道具でもないから」「これでも生きている人間なんだから」と、カスミに対して憤りを吐露する。この台詞はそのままイケメン俳優として消費される斎藤の憤りそのものに聴こえた。カスミのアパートでお互いの心境を告白する場面は、ゆったりとした長回しのカメラワークで撮影され、緊張感のあるシーンとなっていた。その後、カスミはユーリがアムロだと気付き、晴れて相思相愛となるのだが、実はユーリの方は、何か秘密を抱えているらしい。おそらくユーリは嘘をついていて、アムロではない別の人物なのではないかと思うのだが、続きは果たしてどうなるのか? 


 迫真の演技とロマンティックなストーリーで引っ張っていく正統派恋愛ドラマである。(成馬零一)