2016年10月19日 08:12 弁護士ドットコム
主婦の労働をめぐる「壁」として、新たに「106万円の壁」が加わった。従来、サラリーマンの妻などがパートタイムで働く場合には、「130万円以上」になると、扶養を外れ、社会保険料の支払いが必要になるため「130万円の壁」があった。10月1日より、一定の条件にある主婦は「106万円以上」は社会保険料の支払いが必要になる。対象は25万人とみられる。
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社会保険に加入することで、傷病手当金や出産手当金が受給できること、厚生年金に加入できるなどのメリットは大きい。しかしながら、社会保険料の支払いによって、「手取りが減って、働き損になるのでは?」という声も、当事者からはあがっている。
新たに加わった「106万円の壁」は主婦にとって、メリットがあるのだろうか。また、「働き損」になるかどうかの分岐点はどこにあるか。佐藤全弘税理士に聞いた。
よく言われる主婦の壁に「103万円の壁」、「130万円の壁」がありましたが、今年10月1日より、さらに「106万円の壁」が加わりました。それぞれの特徴は、以下の通りです。
【103万円の壁】社会保険:支払わない所得税:支払わない配偶者控除:あり(38万円)
【130万円の壁】社会保険:支払わない所得税:支払う配偶者控除:なし
【106万円の壁】←新たに加わった社会保険:支払う所得税:支払う配偶者控除:なし
続けて、それぞれの特徴について、もう少し、詳しく解説します。
◇103万円の壁=税金が優遇される限度額
主婦がパートタイムなどで働く際の条件として、「年間収入103万円までの働き方に制限したい」という声をよく聞きます。これが、よく言われる「103万円の壁」ですね。
なぜ、「103万円以内の働き方」を望むかといえば、税金が優遇される限度額であるからです。103万円以内ならば、所得税の負担はありません。社会保険に加入していないために、保険料の支払いもなし。つまり、働いた給料のほぼ全額が、手取りとなります。
さらに「配偶者控除」として、38万円を夫の所得から控除する(差し引く)こともできます。課税対象となる所得が38万円も減らせるため、夫が支払う所得税も安くなるため、家計にとってプラスとなります。
現在、この配偶者控除を廃止しようとの議論もありますが、今国会では審議は見送りとなりそうです。
◇130万円の壁=所得税はかかるが、社会保険料の負担がない
つぎに「130万円の壁」と言われるもの。パートタイムの収入が130万円以内であれば、健康保険料や国民年金保険料の負担をしないのに、夫の扶養に入ったまま、将来、老齢年金も受け取れます。
一方で、税金については、本人の稼ぎに対して所得税がかかります。また、配偶者控除を受けることができません。(*一定の場合に、配偶者特別控除をうけられることもあります)
◇106万円の壁=社会保険に加入できるが、手取りは減る
そして、10月1日から始まった「106万円の壁」。これは、106万円~130万円の収入がある、従来は「130万円の壁」の対象になっていた人が当事者となります。全ての人ではなく、この内、次の5つの条件を満たす人が、社会保険に加入することになったのです。
・従業員数501人以上の企業で働く・学生ではない・勤務経験が1年以上・週20時間以上・月収が8万8000円以上(年収106万円以上)
社会保険に加入することで、傷病手当金や出産手当金が受給できるようになります。また、将来もらえる年金額も増加します。
しかし、ご自身で社会保険料(健康保険、厚生年金保険)を支払う必要があります。健康保険はおおよそ5%、厚生年金保険は9%程度の保険料がかかりますから、当然、手取りが減ることとなります。
そのため、「働き損になる!」という声も出ているようです。具体的に、どのような影響が出るかを検討してみましょう。
◇「年収129万円」の主婦=手どりは「約16万円減」
〈鈴木さん=仮名の場合〉
・夫(37):サラリーマン・妻(37):パート勤務
〈これまで〉収入:129万円手取り:124万6千円
*所得税や住民税を納めたため、手取りが若干減る
〈今後〉=従来より15万7千円マイナス!収入:129万円手取り:108万9千円(従来より15万7千円マイナス)
*厚生年金保険料として12万円、健康保険料として6万4,800円を納める ●手取り額を変えないためには?
年収129万円の鈴木さんが、手取り額を維持するためには、年収で150万円程度にする必要があります。その場合には、時給1000円だとして、勤務時間は月18時間(週に3、4時間)ほど、延ばさなければいけません。
ただし、年収129万円であれば、配偶者特別控除の適用の可能性もありますが、年収150万円になると適用の対象外です。そのため、夫の所得税等の負担が増加します。
なお、夫が自営業者などで国民年金保険料を支払いしている場合には、会社が半分負担してくれる厚生年金に加入することでお得になります。国民年金保険料は平成27年度の1か月あたりの保険料は15,590円ですから、年収129万円の場合、厚生年金保険料は1か月10,000円で、国民年金と厚生年金の保険料を支払いしたこととなります。
社会保険料を支払うことによって、労働時間を増やさない限り、目先の「手取り額」は減少します。しかし、社会保険に加入するメリットは大きくあります。
病気で3日以上働けなくなった場合には、4日目以降は健康保険から「傷病手当金」として、給料の3分の2が最長1年6ヶ月間、支給されます。また厚生年金に加入することで、「基礎年金」に加えて、「厚生年金」も受給できるようになります。このほか、出産で働けない期間には、「出産手当金」が支給されます。
得なのか、損なのか。このようなメリットも勘案した上で、ぜひ考えてみてください。
【取材協力税理士】
佐藤 全弘(さとう・まさひろ)税理士
お客様の立場にたって、わかりやすい税金を目指すとともに付加価値の高いサービスを提供することをモットーとしてお客様のニーズに応えられるパートナーを目指します!
事務所名 : 佐藤全弘税理士事務所
事務所URL:http://satouzeirishi.com/
(弁護士ドットコムニュース)