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北米公開の『シン・ゴジラ』、現地の反応は? 米国在住ライターが配給戦略を分析

2016年10月19日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『シン・ゴジラ』(c)2016 TOHO CO.,LTD.

 10月11日(火)、北米488館で『シン・ゴジラ』(英題:Godzilla Resurgence)が封切られた。10月18日までの興行成績はおよそ150万ドル(約1億5000万円)と、まずまずの成績を残した。公開週末のランキングでは19位につけている。ただし、この数字が今後上乗せされていくことはない。北米配給を手がけるFUNIMATIONは、“10月11日(火)から18日(火)までの1週間限定公開”というイレギュラーな配給方針を打ち出しているからだ。


参考:『君の名は。』エグゼクティブプロデューサーが語る、大ヒットの要因と東宝好調の秘訣


 FUNIMATIONはテキサス州に本社を置く映像配給会社で、『ドラゴンボールZ』の北米放送権で名を挙げた。『鋼の錬金術師』などの日本産アニメのほか、『進撃の巨人』はアニメ版の放送権と実写版の配給権を獲得、アニメでは細田守監督の『バケモノの子』や新海誠監督の『君の名は。』、実写版『るろうに剣心』の配給も手がける。


 だが、FUNIMATIONの主戦場は劇場ではなく、自社経営のケーブルテレビチャンネルでの放映や、オンライン配信だ。『シン・ゴジラ』の北米配給では、アメリカにおける潜在的ゴジラファンを1週間限定で各地劇場に集合させることによって瞬間風速をあげ、SNSなどネット上でBUZZを作ることを目的としたのだろう。


 通常『シン・ゴジラ』のような特定ジャンルに属する作品の配給戦略は、ニューヨーク及びロサンゼルスのアート系劇場で数館限定公開し、じわじわと地方都市へ拡げていくことが多い。今回の劇場公開は、『シン・ゴジラ』のソフト化や配信でのパフォーマンスを視野に入れた、宣伝に限りなく近い劇場公開と言えるだろう。


 アメリカでは映像配信大手のNetflixが、オリジナル作品を1週間のみ劇場公開することによってアカデミー賞ノミネート資格を取得するといった配給方法を取ってきたが、情報を拡散させるための配給という形も定着していくかもしれない。一方、アメリカの批評家筋の中には、2014年の『GODZILLA ゴジラ』との混同を避けるために短期集中公開に踏み切ったのではないかとの見方もある。


 ところで、『シン・ゴジラ』のアメリカでの評価はいかなるものだったのだろうか。映画批評サイトRotten TomatoesのTomato Materでは一般81%、プロによる評価は75%と概ね好評だ。


 Indiewire誌は総合評価にB-をつけながらも、「モンスター映画の王者は最も風変わりな作品で復活した。ほぼ官邸内で繰り広げられる最初のゴジラ映画へようこそ! 東宝が新しいゴジラ映画に『エヴァンゲリオン』の庵野秀明を指名した時点で思惑通りの出来栄えだ」と好意的に書いている。


 ニューヨークタイムズ紙は、『物語は大雑把でついていけず、風変わりなキャラクターや日本の観客にしかウケないカメオ出演ばかり。これは怪獣映画ではなく風刺映画だ。オリジナルのゴジラ同様、2016年のゴジラは核問題をはらんでいる。日米の愛憎相半ばする関係も示唆しながら』と手厳しいながらも的確に評している。


 筆者が訪れた2回の上映でも、黒いゴジラTシャツを着込んだオタクファンたちで満席の劇場はゴジラ登場に歓喜の声をあげるのではなく、日本政府の意思決定の鈍さに失笑が漏れていた。ちなみに、石原さとみが演じたカヨコが発するセリフは日本語・英語ともに英語字幕がつけられていたのだが、米国大統領特使という特異なキャラクター設定を疑問視する向きはみられなかった。(小川詩子)