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新垣結衣『逃げるは恥だが役に立つ』なぜ好感度高い? 少女漫画原作のセオリー破る面白さ

2016年10月18日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『逃げるは恥だが役に立つ』

 現在放送中のドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)が、登場人物たちの“可愛いらしさ”で話題になっている。同ドラマは、職ナシ・彼氏ナシ・居場所ナシの森山みくり(新垣結衣)と恋愛経験のない独身サラリーマン・津崎平匡(星野源)が、雇用主と従業員という形で雇用契約結婚をする模様を描いたラブコメディ。初回の放送を終えると、SNSでは「ガッキーも星野源も可愛すぎる」「萌えすぎてやばかった」「石田ゆり子も可愛い」などといった声が目立つ。ではなぜ、『逃げ恥』は視聴者の心を掴んだのか。もちろん、新垣や星野ら出演者の魅力も大きな要因のひとつだが、それだけではないだろう。


参考:石原さとみ、新垣結衣、米倉涼子……秋ドラマのプライムタイムは“闘う女たち”が活躍


 近年、少女漫画の実写化ドラマが人気を集めている。今年放送された『ダメな私に恋してください』(TBS系)や2014年に放送された『きょうは会社休みます。』(日本テレビ系)など、様々な作品が視聴者の心をときめかせてきた。少女漫画原作といえば、“結婚=ゴール”や“イケメンとの恋”を描くイメージが強いが、『逃げ恥』は一味も二味も違う。主人公・みくりの相手役である平匡は、彼女いない歴=年齢であるため“プロの独身”と自負するほどの男だ。原作では決してイケメンという設定ではない。さらに、初っ端からみくりと平匡は事実婚とはいえ、あっさり結婚してしまう。この物語においては“結婚=スタート”なのだ。設定からして、従来の少女漫画原作ドラマのセオリーを破る個性的なラブコメディとなっている。


 また、契約結婚、就職難、派遣切りといった現代社会のシビアなテーマを扱っているにも関わらず、物語はサラッと爽やかで観やすい。登場人物一人ひとりのキャラクターは濃いのだが、愛すべき点が各々あり、さらに際立って嫌な奴がいない。そのため、不安になったりハラハラしたりすることがあまりなく、安心してゆったり鑑賞することができることが、観やすさのポイントだろう。そこにぶっ飛んだ設定やコミカルさが加わり、いい塩梅の“笑い”が我々視聴者に刺激を与えてくれる。テンポ良く、メリハリがある展開で、約1時間を飽きさせずに楽しませてくれる。


 例えば、現実逃避をするためにみくりが身に付けた妄想という特技が、大胆なパロディネタとなっているのも面白い。先週放送された1話も冒頭から、人間密着ドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS系)そのままだった。おなじみの「タラッラッラッラー」というテーマソングが流れ、声のナレーションが入る。一瞬『情熱大陸』を観ているんじゃないかと錯覚してしまうほど、忠実に再現されているのだ。しかも、一度だけではなくみくりに転機があるごとに『情熱大陸』の妄想が登場する。それがまた可愛らしく、思わずクスッと笑ってしまうのだ。


 『逃げ恥』はいわゆる恋愛をテーマにしたラブコメディなのだが、ラブの要素が濃厚ではないため家族でも観やすく、また幅広い年齢が楽しめる内容となっている。しかし、普段はクールな平匡が病気になってしまい、みくりに頼るシーンでは、恋愛経験がない彼ならではのウブな反応が楽しめ、少女漫画には欠かせない胸キュンポイントがさりげなく描かれている。あからさまではない絶妙な演出だからこそ、そこには癒しも感じられるのだ。


 主婦を職業と捉え、結婚を仕事とみなす本作は、一見覚めた内容にも思えるが、ポップさを持ち合わせているためか温かい感情をお茶の間に与える。また、現実離れした設定にも思えるが、平匡とみくりが事実婚に踏み切る各々の経緯やキッカケは、妙にリアルだ。弱っているときだからこそ、普段あまり意識していない人の優しさを改めて実感したり、ちょっとした気遣いに感動したりと“人の心が動く”瞬間が丁寧に描かれている。


 原作者である海野つなみがインタビューで「物語としてこれを描きたいっていうよりも、シミュレーションしながら描いていってるので、最後が決まってるわけじゃない。こうしたらこうなる? ああなる? って感じで進めているので、自分でもびっくりするときがあります」と語っているように、先が読めない展開が面白い。また、物語の結末については「結婚とは何か、仕事とは何かってことを考えて描いていたから、そんな色ボケオチみたいなものにはならないです(笑)」(引用:海野つなみ「逃げるは恥だが役に立つ」インタビュー - コミックナタリー Power Push)とコメントしていることからも伺えるように、王道の少女漫画とは一線を画するものになりそうだ。


 “結婚”を“仕事”と捉える割り切った関係性から、みくりと平匡は今後どのように変化していくのだろうか。そこには新たな男女関係の理想像があるのかもしれない。


(文=戸塚安友奈)