トップへ

“サイファー”なぜ全国的ムーブメントに? 現役ラッパーに訊く、発祥の経緯と面白さ

2016年10月18日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

“サイファー”の発祥と面白さ

 ストリート上での地道な音楽活動から次第にファンを集め、デビューを果たすアーティストは多く存在する。数ある路上パフォーマンスのなかでも、特にデビューを目的としていないラップバトルを披露している現場が賑わっている。そして、そのラップバトルやセッションを行う際に自然発生的に出来る人だかりを“サイファー”と呼ぶ。東京・渋谷TSUTAYA前には連日大規模なサイファーが出現し、盛り上がりを見せている。


(参考:SKY-HIとSALUがサイファーの現場に登場した模様はこちら


 先日、渋谷のTSUTAYA前と宮下公園で行われていたサイファーの現場にSKY-HIとSALUが登場した。そのサプライズにSNSではリアルタイムで大きな反響があり、Twitterでトレンドに入るほど話題となった(その映像はそのまま彼らのMV映像に使用されている)。


 サイファーは東京だけのムーブメントにとどまらず、現在、日本中のあらゆる場所で行われるようなひとつの文化となっている。サイファーが発祥した経緯と全国各地に広がっている理由について、ラッパーやHIPHOP MCとして多方面で活躍するダースレイダー氏に話を訊いた。まず、“サイファー”とはいつどのようにして生まれたものなのだろうか。


「僕の記憶する限りでは10年ほど前、太華(ビートボクサー)くんとTARO SOUL(ラッパー)が『昼間に青空の下でラップをやろう』と呼びかけたことがきっかけで、皆が集まったのが始まりだったと思います。当時、渋谷の宇田川町のシスコ坂には、主にMETEOR、環ROY、鎮座DOPENESSらで集まってて、僕も呼ばれて行ってましたね。けど、続けていくうちに、近くのビルの方から騒音の苦情を受けてしまいまして…その結果『どうせだったら、元からうるさいところでやろう』という話になり、渋谷ハチ公前に場所を移しました。それが俗に言う『ハチ公前サイファー』。“サイファー”ってそもそも輪っかになるって意味なんです」


 一部のラッパーの呼びかけにより始まったハチ公前サイファーは、次第に多くのラッパーたちを巻き込み、世界のヒップホップシーンに知られるものへと発展していった。


「互いにフリースタイルでラップを出し合って、毎週日曜に欠かさずやってました。シスコ坂の時のメンバーに加えてKEN THE 390、COMA-CHI、AFRA、BOSS THE MCも来てくれたり、多いときは60名ほどのラッパーやビートボクサーが集まっていました。当時、ヒップホップの世界を追ったドキュメンタリー映画『フリースタイル:アート・オブ・ライム』の監督ケビン・フィッツジェラルドが、僕らが集まっていたサイファーの取材に来てくれたこともあります」


 現在では、夜の駅前を拠点にしているイメージが強いサイファーだが、“昼の青空の下”でラップを楽しみたいということが起源だったよう。また、サイファーが全国各地に広がっている背景について、ダースレイダー氏は「ラップ人口の増加」と「SNSの普及」の2点を挙げる。


「昔は、学校に1人いればいいくらいだったHIPHOP人口が『高校生ラップ選手権』ができて増えてきている。ラップはお金をかけずに始めることができますしね。そして、今はSNSがあるのでサイファーの告知がしやすくなった。ACEが中心になってやっている渋谷サイファーもTwitterでよく告知していますよね。昔も、ネットの掲示板を使って告知していましたけど、SNSによって告知が広まりやすくなり、元々知らなかった人もサイファーの現場に出会えるようになった。誰でもできることだから、自ら発信してサイファーを始める人が増えたんだと思います」


 『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』は、日本全国の高校生がフリースタイルラップでMCバトルを行う、2012年から開催されている大会だ。BSスカパー!で放送されているバラエティー番組『BAZOOKA!!!』内のコーナーから派生した企画で、開催を重ねるごとに年々、会場の規模を大きくしていることからも、HIPHOP人口の拡大が伺える。


 さらに、ダースレイダー氏は、サイファーが各地に拡がりを見せていることに、ある面白さを感じていると続ける。


「サイファーってどの場所も同じことをしているわけではなくて、各地ごとのスタイルができている。大阪の梅田サイファーが独特なスタイルを確立していたり、各地域によって言葉のノせ方の違いがあったり、その街の雰囲気をラップに取り入れていたりします。地方に行った際に、各地のサイファーに遊びに寄ると、新しい気付きや自分が思ってもいなかったラップが口から自然と出たり、相互反応が起きるのも面白いです」


 最後にダースレイダー氏は、サイファーというカルチャーについて「遊びのひとつとして、子どもたちがボールがあったらサッカーをやるみたいに、何人か集まったらラップを楽しむみたいな流れになればいいなと。お金もかからないし、どこでもすぐにできることなので。学校が違う子同士で友達になれる手段でもある」と今後の楽しみ方を提案した。


 6月21日に放送された『ZIP!』(日本テレビ)の「フリースタイルラップ特集」では、高校生が昼休みや放課後にサイファーを行っている模様が放送され、大学生、社会人もラップを披露し楽しんでいる様子が伝えられていた。ラッパーたちの表現の場として発展してきたアンダーグラウンドな文化は今、幅広い世代が関わるコミュニケーション手段のひとつへと広がりを見せている。


(大和田茉椰)