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ニコラス・ジャー、オヴァル、ROVO……小野島大が選ぶ“音質”にこだわって聴きたい新譜8枚

2016年10月16日 13:21  リアルサウンド

リアルサウンド

ニコラス・ジャー『Sirens』

 ニューヨーク生まれ、チリ育ちのニコラス・ジャー(Nicolas Jaar)。ロック・バンド、ダークサイドでも活躍する弱冠26歳の鬼才による5年ぶりのソロ2作目が『Sirens(セイレーンズ)』(Other People/Beat Records)です。繊細で美しいダウンテンポ・エレクトロニカですが、ロカビリーやR&B、ドゥー・ワップ、レゲエ、ジャズ、現代音楽など幅広い音楽性を、奥深く官能的でエモーショナルなダブ・アンビエント音響で処理した才能は驚くべきものです。ボン・イヴェールやフランク・オーシャンの新作に比肩すべき傑作と言えるでしょう。


動画はこちら。


  オヴァル(Oval)ことマーカス・ポップの6年ぶり新作が『popp』(UOVOOO / Headz)。アカデミックで理論が先行した実験音楽家という印象の強かった人ですが、ギターやドラムなどを彼自身が演奏したという前作『O』あたりからオーガニックで人間味溢れる作風に変化、本作ではその路線をさらに押し進めたとびきりポップでカラフルなエレクトロニカが聴けます。オヴァル流クラブ・サウンドを目指したという触れ込みですが、むしろファック・バトンズあたりに近いファンキーなシューゲイズ・エレクトロニカという感じで、個人的にはかなりツボでした。CDでもいいですが、OTOTOY(http://ototoy.jp/_/default/p/66965)でリリースしている24bit/44.1kHzのハイレゾで聴くことをお勧めします。


 神奈川のポスト・ロック3人組miaouの新作『Drops EP』はボーナス・トラックも含めた5曲入りカセット(MP3ダウンロードコード付き)でのリリース。ドリーミーでメロディアスで浮遊するようなエレクトロニカを展開しています。愛らしくて優しくて温かみのある箱庭的なサウンド・プロダクションがとても素敵です。Bandcamp(https://tetorecords.bandcamp.com/album/drops-ep)でデータのみでも入手可能。


  ミニマル・ダブの鬼才モノレイク(Monolake)ことロベルト・ヘンケの4年ぶり9作目『VLSI』(MONOLAKE/IMBALANCE)。ダブ・テクノ、ダブステップ、グリッヂなどをネクスト・レベルに引き上げるような圧倒的に切れ込みの鋭い、硬質で強靭で荘厳で深遠な音響アート作品に仕上がっています。できるだけいいオーディオで、大きな音で聴きたい作品。タイトルの『VLSI』は超大規模集積回路(Very Large Scale Integration)という意味だそうです。


 結成20周年を迎えたROVOの4年ぶり11作目『XI (eleven)』(ROVO organization/wonderground music)。珍しくナカコー、U-zhaanといったゲストを迎えての一作ですが、いい意味で不変のROVOらしい強靭なバンド・サウンドが聴ける圧巻の内容です。20年というキャリアの蓄積だけがなしうる、ビルドアップされた肉体のような恐ろしくマッシヴで緻密でダイナミックでレベルの高いアンサンブルは凄いの一言。バンドもののレコーディングでは今や日本を代表するエンジニアと言える益子樹(kbd)が手がけた躍動する音響も素晴らしい。いいオーディオで、大きな音で聴くとヤバいですよ。11月26日発売。


 アレックス・パターソン、トーマス・フェルマンによるジ・オーブ(The Orb)の1年3カ月ぶりの14枚目のアルバムが『COW / チル・アウト,ワールド!』(Kompakt/Beat records)。彼ららしい大河のようにゆったりと流れていくアンビエント・エレクトロニカを堂々と展開しています。フィールド・レコーディングやライブ音源を録り溜め加工したという奥行きのある立体的な音像が美しく心地よいですね。ドルビー・アトモス等の立体サラウンド音源があれば、ぜひ体験してみたいものです。


 ヒューマン・リーグ「Human」の垢抜けたカバーを収録したロバート・グラスパー・エクスペリメントの新作『Artscience』が話題になってますが、そのグラスパーがプロデュースしたシェウン・クティ&エジプト80(Seun Kuti & Egypt 80)の3曲入りEP『Struggle Sounds』((Sony Masterworks)も負けず劣らずの秀逸な1枚。もともと親父フェラに比べるとスマートで洗練されたアフロ・ビートを身上としますが、グラスパーらしい緻密でモダンなリズム・アレンジが加わって、エネルギッシュでダイナミックなサウンドに仕上がっています。HDTracks等の海外の配信サイトでは24bit/48kHzのハイレゾ音源がリリースされてますが、日本ではなぜか圧縮音源のみ。HDTracksでは地域制限があり日本からは購入できないので、ぜひmoraあたりでハイレゾのリリースをお願いしたいところです。


 最後に、とびきり美しく激しく重厚な1枚を。日本が世界に誇るポスト・ロック・インストゥルメンタル4人組MONOの2年ぶり9作目となる『Requiem For Hell』(MAGNIPH/Hostess)。アルバム・タイトルが示すように、生と死の狭間で激情がスパークするような壮絶な演奏は、ヘタな歌ものよりもはるかに饒舌で感動的です。スティーヴ・アルビニのプロデュースによる、前作をはるかに上回る大傑作。(文=小野島大)