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SEKAI NO OWARIは社会にどう目を向けた? アイリッシュ・トラッド色濃い「Hey Ho」を聴く

2016年10月15日 13:11  リアルサウンド

リアルサウンド

SEKAI NO OWARI『Hey Ho』

■宗像明将のチャート一刀両断!


【参考:2016年10月3日~2016年10月9日のCDシングル週間ランキング(2016年10月17日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/js/w/2016-10-17/)


 2016年10月17日付の週間CDシングルランキングを1位から10位まで聴いた中で、もっとも新鮮だったのは、3位のSEKAI NO OWARIの「Hey Ho」でした。これほどアイリッシュ・トラッド色の濃い楽曲がJ-POPのメインストリームにあることは驚きに値します。


(関連:SEKAI NO OWARIの楽曲はどう変化してきた? ソングライティングのあり方から読み解く


 それは、SEKAI NO OWARIといえば「Dragon Night」、そしてピエロのDJ LOVE……というベタな知識しか持ちあわせていないからこその驚きでもありました。とはいえ、カップリングの「Error」や「Death Disco -remixed by melodysheep-」のエレクトロニックなサウンドと比較しても、「Hey Ho」はまるで別のバンドの楽曲ようです。


 「Hey Ho」はフィドルの音色とともに幕を開け、続いて管楽器が鳴り響きます。ボーカルとともに鳴りだすのはバンジョー。そして徐々に楽器が増えて雄大なアンサンブルを形成していきます。その感触は一貫してアコースティックです。


 実のところ、Nakajinが作曲した「Hey Ho」のメロディー・ライン自体は特にアイリッシュ・トラッドっぽくはありません。それでもアイリッシュなアレンジを加えており、3分18秒過ぎからはティン・ホイッスルが鳴り響く舞曲のパートまで始まります。その展開に、海外のアレンジャーでも参加しているのかとクレジットを見ると、編曲はSEKAI NO OWARI。彼らのアレンジ能力を甘く見ていたとすら感じたほどです。


 そして、『Hey Ho』は動物殺処分ゼロプロジェクト支援のためにリリースされたシングル。認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」とともに動物殺処分ゼロプロジェクト「ブレーメン」を立ちあげ、『Hey Ho』の収益を支援にあてていくといいます。つまり、SEKAI NO OWARIが社会に目を向けた楽曲なのです。


 SaoriとFukaseが作詞した歌詞には、<誰かを助けることは義務じゃないと僕は思うんだ/笑顔を見れる権利なんだ 自分のためなんだ>という一節があります。この部分には、ボランティアをめぐる葛藤への彼らなりの結論が提示されているように感じました。


 問題から目を逸らすのか、逸らさないのか。目を逸らさないなら、現場に飛び込んでいけるのか。そして、現場に飛び込んだとして、それは本当に相手のためなのか。自分自身のエゴを満たすためのものになっていないか。ボランティアどころか、東日本大震災の被災地を訪れるだけのときですら、私は葛藤に似たものを抱えもします。


 しかし、SEKAI NO OWARIは「自分のためなんだ」と言い切ります。今、なぜ動物殺処分ゼロに取り組むのかも明快に言語化している人々だとも感じました。詳細は「ブレーメン」の公式サイトに掲載されている、SEKAI NO OWARIのメンバーと「ピースウィンズ・ジャパン」のスタッフによる座談会で語られています。(https://bremen-project.net/)


 そんなことを考えながら次の「Error」を聴くと、愛に目覚めてしまった軍事用ロボットの歌。バンド・サウンドとテクノがミックスされたサウンドです。「Hey Ho」と歌詞の世界観もサウンドの方向性もまるで異なるのです。


 「Dragon Night」に近いのは「Error」なのですが、そうしたSEKAI NO OWARIのイメージを一新させてしまうのが、アイリッシュ・トラッドの響きに包まれた「Hey Ho」。SEKAI NO OWARIを見る目を変えさせてしまうほどの力がある楽曲です。(宗像明将)