まもなく富士スピードウェイで行われるFIA世界耐久選手権(WEC)第7戦富士6時間レース。5度目の開催となる今年は、総合優勝を争うLMP1-Hクラスで激しいバトルが見られそうだ。
初年度はトヨタとアウディの間でチェッカーまで続く好レースとなった富士戦。だが、2年目は台風の影響で、セーフティカーランのみ。3年目はトヨタが、4年目はポルシェが圧倒的なパフォーマンスで、独走劇を演じた。これはWEC自体、ハイライトのル・マン以降は、いずれかのメーカーが圧倒するというシーズンが続いていたためだ。
だが、今年は後半戦に入っても、各メーカーの力が拮抗。ストラテジーが上手くハマッたり、フルコースイエロー(FCY)のタイミングがラッキーだったりという要素が勝敗を左右しているものの、純粋なパフォーマンスと言う意味では例年以上に互角の戦いをみせている。
なかでも、まず注目されるのは、ホームレースとなるトヨタ。トヨタがル・マン後に投入したハイダウンフォース・エアロパッケージは、確かに他メーカーと比べれば、絶対的なダウンフォース量が不足しており、第4戦ニュルブルクリンクをはじめとするハイダウンフォーストラックでは苦戦を強いられた。
だが、富士は、そこまでダウンフォースを必要としないコース。それがトヨタの空力パッケージにはマッチしているはずだ。また、ライバルたちが警戒しているのは、トヨタのメカニカルグリップの良さ。これがテクニカル区間のセクター3で威力を発揮するものと見られている。
燃費の良さも武器となるだろう。ここまでの中盤戦を振り返っても、トヨタは予選一発というよりもレースに強く、第5戦メキシコ、第6戦サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(COTA)で、小林可夢偉が駆る6号車が連続3位表彰台を獲得しており、得意の富士ではそれ以上の成績も期待される。今季初優勝の可能性も充分だ。
ここまで中嶋一貴が駆る5号車は、なぜかたびたびトラブルに泣かされてきたが、一貴はこれまで富士との相性が抜群。6号車にも期待がかかっており、ひょっとすれば富士の勝利の女神が、ふたたび一貴に微笑みかけるかもしれない。
さて、そのトヨタの最大のライバルとなりそうなのは、今季ここまで5勝を挙げているポルシェ。ポルシェは、どのコースでも総合力が高く、ストラテジーやピットワークにミスがない。FCYのタイミングにも恵まれている。というよりも、FCYを上手く利用している印象だ。
また信頼性の高さに関しても、他メーカー以上のものを持っている。今年はどのメーカーも、トラブルに泣かされたレースがあるものの、後半戦に入ってからのポルシェは、その点で安定している。予選一発に関しては、このところアウディに先行される場面も多いが、特に涼しいコンディションではレースペースが良く、富士でも強さを見せそうだ。
これに対して、まずは予選でポールポジション(PP)を狙ってきそうなのが、アウディ陣営だ。今季の新型マシンは、空力の効率性を極限まで追求しており、意外なことに現在どのサーキットでも直線での最高速は、アウディがマークしている。
そのストレートスピードの速さはロングストレートのある富士では、、もちろん大きなアドバンテージ。予選ではダウンフォースをつけて、ラップタイムを稼ぐという方法もあるが、レースでライバルをオーバーテイクするためには、やはりストレートのスピードが物を言う。
また、アウディといえば6人のドライバーのうち、なんと4人までが日本育ち。現在でも全日本スーパーフォーミュラ選手権に出場しているアンドレ・ロッテラーをはじめ、12年間日本で走っていたブノワ・トレルイエ、9年間日本で戦ったロイック・デュバル、そして、F3に始まり、ほんの2年前までスーパーGTに出場していたオリバー・ジャービスという面々が揃っている。
この点も富士攻略の上で、アウディの強みになるはず。しかも、彼らは、ル・マンの次に勝ちたいレースとして富士を挙げる。過去4年間、残念ながら富士での勝利はないものの、“今年こそ”の思いで挑んでくるはずだ。
あとは、どのメーカーがトラフィックのなかでもタイムを落とさずに走れるクルマを仕上げられるか。富士の場合、高速区間のセクター2でも、テクニカル区間のセクター3でも、トラフィックに引っ掛かり抜けないと、大きなタイムロスが発生。それが積もり積もって行くと、6時間後には大きな差となってしまう。
F1タイプのコースのなかでも充分にランオフエリアが広い富士の場合、余程のことがなければ5回も6回もFCYになるということは想像しがたい。その分、ドライバーたちはコース上でマージンを稼がなければならないだろう。
いずれにせよ、どのメーカー、どのドライバーに聞いても、「今年の富士は超接近戦」と異口同音の答が返ってくるだけに、このレースはぜひ現場で見ていただきたい。