なぜ、マクラーレン・ホンダは鈴鹿で遅かったのか。「シンガポールで7位、そしてたった1週間前のマレーシアでは7位と9位だったのに、鈴鹿で16位と18位に終わったことは、悪い意味で驚きだった」と語っているように、低迷した理由はレースを戦った本人たちもつかめないまま日本GPは終了した。
原因のひとつに、長谷川祐介総責任者は「パワーユニットの性能不足」を挙げていたが、フェルナンド・アロンソが予選後に「ダウンフォースとマシンバランスというエリアで、どの方向に進むべきかを見つけられないまま終わった」と語っていることからも、鈴鹿では車体側の問題のほうが大きくクローズアップされている。
しかし、ダブル入賞を果たしたマレーシアGPが開催されたセパン・インターナショナル・サーキットは、かなり鈴鹿に近いコース特性を持つ。例えば、セバンのセクター2にあるターン5、6は鈴鹿のS字に似ているし、その後のターン7、8はデグナーに近い形状をしている。
マレーシアGPの予選はアロンソがパワーユニット交換をしてグリッドペナルティが科せられることがわかっていたため、107%以内のタイムを叩き出して予選を終えたため、事実上ジェンソン・バトンのみとなった。そのアタックでバトンはターン5、6、7、8があるセクター2で全体の9番手の区間タイムを記録している。
ひるがえって鈴鹿では、S字があるセクター1ではアロンソは16番手、バトンは18番手。デグナーがあるセクター2はアロンソ14番手、バトン18番手に終わっている。予選後、長谷川祐介総責任者は「ダウンフォースが足りていなくて、中速から高速コーナーでの脱出スピードが遅かった」と説明していた。つまり、マクラーレン・ホンダのマシンはセパンのS字はアクセルを踏めたのに、鈴鹿のS字で突然、踏めなくなったのである。
あるチームのエンジニアは、「空力のパランス変化があったのではないか」と分析する。同じS字でもセパンはほぼフラットだが、鈴鹿はアップダウンがある。現在のF1マシンの空力はステアリングを切ったコーナーリングの安定性が開発の重要ポイントとなっているが、もうひとつアップダウン時のピッチング変化に強いダウンフォースが求められている。もしかすると、マクラーレンのマシンはピッチング変化に弱い空力なのかもしれない。
もうひとつの理由は、マレーシアGPから実戦投入している新しいリアウイングにあるのではないかという説だ。マクラーレンはシンガポールGPのフリー走行でアロンソだけが試した後、マレーシアGPから2台そろって新しいリアウイングを使用。同じ仕様で日本GPも戦った。これは翼端板の上方にあるスリットがクローズドタイプではなく、前方に貫通しているオープンスリットとなっている。
この翼端板のメリットはできるだけ空気抵抗を減らしてダウンフォースを稼ぐ効率の良さにあるのだが、マクラーレンと同様のタイプのリアウイングを使用しているザウバーのエンジニアは、「じつはあのリヤウイングはコーナーリング中のバランス変化が大きく、セットアップするのが難しいんだ」と語っている。
確かに、このタイプのリアウイングはトロロッソはウインターテストから使用し、メルセデスAMGもイギリスGPから採用。ザウバーはハンガリーGPのフリー走行でデータ取りを行った後、シンガポールGPまで投入を見送ったほどである。
しかしながら、それならなぜセパンのS字は速かったのか。ザウバーのエンジニアは「今年のセパンは路面が改修されて、グリップ力が上がり、クルマの悪い所が隠されていた可能性がある」という。
次戦アメリカGPが開催されるサーキット・オブ・ジ・アメリカもS字のような中高速コーナーがあるだけでなく、アップダウンもある。果たして、マクラーレンはどのようなセットアップで臨むのか。そして、”あの”リアウイングを使用するのだろうか――日本GPは終わったが、残るシーズンのマクラーレン・ホンダに引き続き、注目したい。