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ピコ太郎「PPAP」なぜ世界的に流行? 古坂大魔王のプロデュース力を探る

2016年10月12日 18:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ピコ太郎「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」

 ピコ太郎の「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」のYouTube動画再生回数が約4000万回(10月12日現在)を突破。10月7日より世界134カ国にて配信限定リリースされ各配信サイトにてデイリーランキング1位を獲得し、話題をさらっている。


(関連:オリラジの「PERFECT HUMAN」なぜ流行? ダンスミュージックとお笑いの“合流地点”を読む


 ピコ太郎は古坂大魔王がプロデュースする、古坂と瓜二つな千葉県出身のシンガーソングライター。ジャスティン・ビーバーが自身のTwitterにて「お気に入りの動画」と紹介したことをきっかけに、世界的流行にまで発展。アメリカのニュース雑誌『TIME』やニュース専門放送局『CNN』、イギリスの公共放送局『BBC』までもが「PPAP」を報じ、「動画の中毒性」や「(現在のブームが)理解の範疇を超えている」などと伝えている。


 「PPAP」は、なぜこれほどまでに世界的に受け入れられたのか。2015年3月に自身のブログに『「ラッスンゴレライ」はどこが面白かったのか』を掲載し、当サイトでも過去にRADIO FISH「PERFECT HUMAN」がなぜ流行したのかを分析し話題を呼んだ音楽ジャーナリストの柴 那典氏は、ピコ太郎をプロデュースする古坂大魔王について次のように解説する。(参考:オリラジの「PERFECT HUMAN」なぜ流行? ダンスミュージックとお笑いの“合流地点”を読む


「約15年前から『PPAP』の原型はありました。古坂さんのルーツは80年代のテクノ。以前組んでいたお笑いコンビ・底ぬけAIR-LINEでも、1999年の『爆笑オンエアバトル』第一回チャンピオン大会で『テクノ体操』というネタを披露していました。2003年に一時お笑い活動を休止した際は、テクノグループ『NO BOTTOM!』を結成し、音楽活動に専念していたこともあります。古坂さんは1973年生まれの現在43歳。80年代後半に思春期、青春時代を送っているので、初期の電気グルーヴ、遡ってDEVOやYMOなどに影響を受けたのでしょう。そのあたりが古坂さんの音楽性の核にあり、ピコ太郎についても80年代のテクノポップの音を意識したチープな音に仕上がっているのだと思います」


 実際に古坂大魔王の公式ホームページ内「リスペクトシンガー」には、クラフトワークの名前が挙げられている。さらに、古坂は有名アーティストをプロデュースするなど音楽への造詣が深い。


「古坂さんは、mihimaruGTのプロデュースワークのほか、SCANDALが2013年にリリースしたシングル『OVER DRIVE』収録の『SCANDAL IN THE HOUSE』をプロデュースしています。この楽曲は、SCANDAL初の演奏なしの打ち込みダンスナンバーです。ほかにも、2007年にはAAAの楽曲のリミックスを手がけていて、メンバーの日高光啓とは2013年にイトーヨーカドーのCMで共演も果たしています。実は、今回ジャスティンがツイートをする前に日高がツイートしていたりもして、関係は深いはずです」


 「PPAP」のサウンドメイクには80年代テクノを趣向した古坂の音楽的素養が反映されており、それを語感のよいフレーズと現代の主流である「短い動画」にあわせたことで今回の大ブレイクにつながったのではないかと柴氏は分析する。


「ピコ太郎のサウンドにはEDMっぽさが一切ない。特に『PERFECT HUMAN』と比べると、一聴してそれが明らかです。『PERFECT HUMAN』はLMFAO以降のパーティーミュージックをトレースしていますが、『PPAP』は確信的に80年代のレトロなテクノサウンドを鳴らしている。リズムマシンの名機と言われるTR-808のカウベルを使っているのが象徴的。その古さがジャスティンを始めとする若い世代に刺さったんだと思います。80年代のリバイバルは00年代に起こっていて、その頃は世界的にもポストパンク、ニューウェーヴのリバイバルが流行ったんですが、その流れもすでに終わってしまった。“1周回って新しい”という時期は過ぎたけれど、2周目もまだきていない。“1.5周目”くらいなんです。そういう意味ではピコ太郎は今誰もいないポジションにいることになります。また、爆発的流行の理由に1分8秒という動画の短さもあげられます。実際に曲が鳴ってるのは大体45秒ぐらい。Twitterで動画を観る人の基本の感覚だと1分を超えるともう長く感じるので、Twitter、Instagram、Vineのタイム感にすごくフィットしているのは間違いないです」


 また、「PPAP」の世界的流行は芸人にとっても新たな希望になったと柴氏は語る。


「ピコ太郎の『PPAP』は、“ネタ”ではなく“楽曲”として10月7日に各サービスで配信がスタートしました。しかもApple MusicやSpotifyを通じての全世界配信も実現した。ということは、それらのサブスクリプションサービスを通じて世界中でこの曲が聴かれることが予想できます。そういったサービスでは聴かれた回数によってアーティストに収益が還元されるので、多額の収入が発生する可能性がある。これはお笑いと音楽の歴史を紐解くと、とても画期的なことだと思います。90年代の一発ギャグはテレビで披露して視聴者に飽きられて終わりだった。しかし、00年代に『着ボイス』が流行したことで、消費されて終わりではなく、それを収益化することが可能になった。00年代中盤に流行したムーディー勝山の『右から来たものを左へ受け流すの歌』は携帯電話向けコンテンツだけで2億円以上の売り上げになったそうです。つまり、一発ギャグが芸人にインカムをもたらすようになった。さらにピコ太郎の突発的なブレイクは、それがグローバルな規模で広がるという新しい時代の到来を意味している。これは同じように“音楽×お笑い”の芸をやっている芸人にとっては希望の持てる出来事だと思います」


 古坂大魔王とRADIO FISHは共に今年の夏フェスに出演していた、と柴氏は話す。


「ピコ太郎の公式ホームページのプロフィールには『目指せ紅白歌合戦とサマソニ』とあります。これがフジロックでもロック・イン・ジャパンでもなくサマソニであることにも、ちゃんと意味がある。古坂さんは今年サマソニに出演しているんです。会場内で『WOWOWぷらすと』特設ブースの司会を担当していて、ちなみに僕もその番組で古坂さんと共演していました。古坂さんが司会を担当した日ではなかったのですが、番組にはその年のサマソニのBEACH STAGEに出演していたRADIO FISHもゲストに来ていました。でも、そのわずか1~2カ月後に自分のネタがRADIO FISHに勝るとも劣らない世界的ヒットになるとは微塵も思っていなかったと思います。僕も正直全く予想していなかった。おそらく紅白は時期的にもばっちりだし、今のブームが加速した状況なら、何らかの形で出演できるんじゃないかと思います。でも、個人的にはそれよりも来年のサマソニに出てほしい、という気持ちのほうが強いですね」


 ファッションイベント『Girls Award』での「PPAP」生披露など、徐々に本人露出も目立ち始めてきたピコ太郎。年末に向け、歌番組やお笑い番組が増えていくことからもブームの波はネットにとどまらず、世間一般まで波及していくだろう。


(渡辺彰浩)