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石原さとみの“ウザキャラ”が不思議な魅力放つ 賛否両論『校閲ガール』の楽しみ方

2016年10月12日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 石原さとみ、菅田将暉、本田翼らが出演する『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日テレ系)の第一話が先週10月5日に放送された。一部では、本作に対して「リアリティがない」「実際の校閲の現場と違う」という声が挙がっているが、雑誌の編集や校閲に従事してきた筆者から見ても、校閲がどんな仕事であるのか、その概要と面白さは一般視聴者にも伝わる「お仕事ドラマ」になっていたように思う。何より、女優・石原さとみの魅力が存分に詰まった第一話だった。


参考:石原さとみ、新垣結衣、米倉涼子……秋ドラマのプライムタイムは“闘う女たち”が活躍


 校閲という言葉の意味について、ドラマ公式HPには、【文書や原稿などの、内容の誤りや不備な点を調べ、直し正すこと】とある。江口のりこ扮する先輩社員・藤岩が、石原さとみ扮する河野悦子に校閲のイロハを教えていくシーンに、「へぇ~」となった視聴者も多いのでは。誤字脱字の確認を基本に、表記の統一、表現の正確さ、事実関係の有無、はては建物の模型を作って小説内の行動が実現可能かどうかの検証など、筆者にとっても改めて肝に命じておかなければならないものばかりであった。


 世に数え切れない程に溢れている“活字”。本作で描かれているように、作家・編集者、そして校閲者の連携によって、初めて書籍(雑誌)は完成する。日本語という極めて表現が多用な言語にとって、一単語、一文をくまなくチェックしていく作業は地味に見られがちだが、極めて重要な仕事なのだ。


 しかし、「お仕事ドラマ」としてリアリティを追求し、現実のままに仕事を紹介するだけではドラマは面白くならない。本作が面白いのは、ファッション誌の編集者に憧れている、オシャレ大好きでスーパーポジティブな河野悦子というキャラと、校閲という仕事の“ミスマッチ”さを、石原さとみが体現しているからだろう。シーンごとに変わる衣装とヘアメイク(しかも校閲部の他社員が地味な格好だけにより際立つ)を眺めているだけでも楽しいが、それと同じぐらいにコロコロと変わる石原の表情がとにかくいい。


 背筋を伸ばし自信満々で歩く悦子の姿から第一話は始まる。この姿を見るだけでも、どんな人物かが想像できる。案の定、面接に来た大手出版社・景凡社では、これでもかと言わんばかりに面接官たちに持論を展開し、「私を採用しなければ損」とばかりに彼らを圧倒。たしかに、可愛い。そして、オシャレ。でも、どこかに漂う“勘違い感”。情熱は伝わるけど、一緒に働くにはちょっと……という誰もが思うであろう“ウザキャラ”を、石原は開始5分で表現する。


 小悪魔美女“サエコ”を演じた『失恋ショコラティエ』のようなゆるふわ演技が好きという視聴者の声も多いようだが、石原が演じる“ウザキャラ”には、また別の魅力がある。近年の映画出演作『進撃の巨人』や『シン・ゴジラ』の演技にも共通するが、そのオーバーアクトに不思議と親しみを感じずにはいられないのだ。一見すると“高嶺の花”である石原が、どこかちぐはぐな立ち振る舞いをすることで、滑稽だが愛すべき人間味を滲ませる、といおうか。こちらに歩みよってきているような実在感が、そこにはある。


 初回は、悦子の素質である「気になったものを探求する」性格と、直球で作家にぶつかっていく姿勢で、見事に仕事を成功させる。作家・本郷(鹿賀丈史)と担当編集者・貝塚(青木崇高)との会食シーンに象徴的だが、建前というものを取っ払い、どんな立場の人間にも自身の意見を率直に言う悦子の性格に、胸がすく想いをする人も少なくないのではないだろうか。


 ラスト、菅田将暉扮す折原と偶然ぶつかったことがきっかけで、悦子は彼に一目惚れをしてしまう。ここで、目が会った瞬間に時が止まるというベタすぎる演出が入る。しかし、石原のアップでトロンとした恋に落ちた瞬間の表情を見てしまうと、これは正解!と膝を打ってしまうから不思議だ。喜怒哀楽に加えて、恋に落ちる瞬間まで、石原の豊かな表情が詰まった初回放送に、お得感さえ感じてしまったのは筆者だけではないはずだ。


 「※恋愛ドラマです〈ではありません〉」という赤入れがメインビジュアルには書き込まれているものの、石原の魅惑的な表情の数々を見ていると、つい「恋愛ドラマ」の要素を期待せずにはいられない。今後、森尾(本田翼)の家に居候することになった折原は、彼女とどんな関係になるのか。悦子、森尾、折原の三角関係が始まるのか。そして、悦子の私生活が校閲の仕事に、どんな風に反映されていくのか。見どころは多そうだ。(文=石井達也)